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社会の中での『正欲』とは

直木賞史上初の平成生まれの受賞者である朝井リョウさん。今回の「秋の連続投稿チャレンジ」での#おすすめ名作映画で私がチョイスしたのは朝井さんの原作である『正欲』。
たぶん、多くの人はこの作品の前の『何者』の評価のほうが高いような気がします。その理由は、佐藤健さん、有村架純さん、菅田将暉さんといったキャストの豪華さと、就職活動を通じた現代の若者たちの葛藤や自己認識を描くといった身近なテーマであるからというところです。
また、朝井さんのデビュー作である『桐島、部活やめるってよ』は、タイトルにある主人公が物語の中で直接登場せずに、主要人物の視点を通じてストーリーが構成されていくという展開に没入してしまった記憶があります。
この3作のなかで、また、映画のなかで『何者』が私にとって名作なのは何故か。
それは、現代は多様性の時代と言われつつも、表面的な認識を正すレベルで止まっているというか、一般的に自分が理解できる「正しさ」を基準としての対応だと思います。しかし、本作品では更にディープな社会的に許容されにくい「欲望」や「アイデンティティ」を持つ登場人物たちが抱えながら生きている孤独や葛藤を映像として繊細に表現していることに感動しました。

例えば……
人間とは付き合えない
地球に留学してるような気分

この世界で生きていくために擬態しませんか

あなたが信じなくても、私たちはここにいます

文字面からイメージできる世界観や感情は個々人で異なって来ると思います。それを監督の岸善幸さん、新垣結衣さん、磯村勇斗さんが見事に私自身の認識のさらなる先に連れて行ってくれたと思います。逆に稲垣吾郎さんが演じる父親の役柄は一般的な認識で理解できるものであったので、全体のバランスを取っていたと思いました。

公開当時の宣伝のキャッチコピーの「観る前の自分には戻れない」はその通りでした。
35年前、ファッション誌で仕事をし始めた時に、初めて自分とはセクシャリティの異なる人たちにリアルに出会いました。自分がマッチョ系だったせいか好かれることが多く、最初はコミュニケーションの取り方に困惑していたことを覚えています。
そして、そういった経験によって十分な理解を持っていると思っていた自分の認識が狭かったことを本作品で気付かされました。
また、「誤欲」とは何であるのかを考えるきっかけにもなりました。その考察は別の機会に投稿したいと思ってます。

本作はサブスクでも観れると思いますので、よろしかったら是非。

#おすすめ名作映画

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