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映画レビュー「完璧な他人」~夫婦でも、隠しておきたい大人の事情~

1.大人には、三つの顔がある


それは、社会的な公の顔、個人的な私的な顔、誰にも言えない秘密の顔
そして、その三つの顔が、スマホを見ることでわかってしまう。
いつのまにか、私たちの生活に入り込んできたスマホは、持ち主のことを何でも知っているというわけだ。Netflixで配信中の韓国映画「完璧な他人」はそんなスマホを小道具に、けして若いとはいえないが、かといって年寄でもない、悩み多き中年の男と女のそれぞれの事情を描いたブラックコメディーである。

ちょうどこの映画が公開されたころ、韓国では、韓流スターの携帯電話がハッキングされ、金品を要求されるという強迫事件があった。
結局、ハッカーは警察に捕まったのだが、それに先立って、カカオトークの内容やプライベート写真が流出し、有名芸能人同士の会話の内容にセクハラのニュアンスが込められていると大騒ぎになった。もちろん、当事者である俳優は、身に覚えのない内容だと否認したのだが・・・。いや、一般人でもこれは身につまされる恐怖だったと思う。
だから、この映画は、韓国映画ならではのサスペンスやアクション、心温まる家族愛も巨悪に立ち向かうカタルシスも何もないのだが、関心は高かったと思うが、かなりのヒット作となったのであった。

<ストーリー> イタリアのアカデミー賞に当たるダビッド・ディ・ドナテッロ賞で作品賞、脚本賞を受賞し、フランスでもリメイクされたイタリアのブラックコメディ「おとなの事情」を韓国でリメイク。豊胸整形医のソクホと精神科医の妻・イェジンの新居に仲間たちが集まった。メンバーは亭主関白の弁護士と貞淑な専業主婦の夫婦、新婚のイケメン社長夫妻、新しい恋人を連れてくるはずが1人での参加となった教師。新居で久しぶりに顔を合わせた彼らは、再会を喜びながら、楽しい時間を過ごしていた。互いの友情や夫婦愛を確かめ合う会話で盛り上がった彼らは、自分たちの間には隠しごとがないことを証明しようという流れに。そこで7人がおこなったのは、スマートフォンに届く電話やメールを全員に公開するため、それぞれがスマホロックを解除することだった。次々とスマホに届く着信やメールにより、和やかだった夜は一転して修羅場へと化していく。

2.脂の乗り切った中年の演技派だからこその会話劇

出演している俳優は、みな演技派だが、わたしのお目当てはユ・へジンチョ・ジヌンだ。韓国映画には欠かせない俳優だが、チョ・ジヌンは美容整形外科医を、ユ・へジンは弁護士役をやっている。
いつもはたたき上げの役が多い二人なので、アッパーミドルの役をどんな感じで演じるのかと興味深かったが、やっぱり何をやらせても上手い人は上手いのだ。こんな医者や弁護士っているよねとリアルに演じている。
女優陣も、キム・ジスヨム・ジョンアが日常生活のつまらなさに嫌気がさしてるがそこに秘密を抱えている妻たちを上手く演じている。
ワンシュチュエーションコメディなのに、全然だれずに、話がどんどん盛り上がって意外な方向に進んでいく。単なる暴露話にせずに、人生の奥深さを見せている脚本が面白い。

3.大人には「秘密の顔」が一番大事

登場人物は、男性全員が同級生の45歳という設定である。この微妙な年齢がこの映画にある意味、文学的な風味を加えているのではないかと思った。
45歳といえば、もう押しも押されぬ中年である。さすがに青春の日は遠くなったが、人生を達観するには若すぎるといったところであろうか。

だから、誰にでも、夫婦でも親友にも言えない「秘密」のひとつやふたつがあったって不思議ではない、と思う。いや、むしろ、そのくらいの方が、傍から見たら成熟した大人な感じなんじゃないのかと思う。
もちろん、秘密といっても、彼らはみな、或る意味、リア充なので、SNSで人を誹謗中傷したりするような裏の顔があるわけではない。その意味では、公の顔も私的な顔も秘密の顔も、その人の人格そのものだ。

だからこそ、この映画は、これからどう生きたらいいか悩んでいる大人たちにとって、ブラックコメディではあるが清涼剤にもなっているのだと思う。大人たちの、可笑しくてやがて悲しい秘密が、次々と明らかになっていくのを見ながら、そんなことも考えた。

4.いろいろとあるのが大人の事情

この映画のタイトルは「完璧な他人」だが、わたしはイタリア映画の原題の「大人の事情」のほうがしっくりくる気がする。
韓国版では、夫婦といえどももともと他人なのだから・・・というニュアンスなのだろうかとも思う。しかし、イタリアだったら、夫婦が他人なのは当たり前すぎて・・・となる気がする。
あらためて、日本はどうなのだろうかと考えてみるのも面白い。

歴史や文化は違っても、大人の事情はあまり変わらないのかもしれない。
誰でも、45歳で人生を考えるとき、ちょっと先が長すぎる気がするのではないだろうか。それも、過ぎてしまえば、アッという間なのだろうけど。




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松幸 けい
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