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文化資本の経営(読書感想)


書籍の情報

文化資本の経営
-これからの時代、企業と経営者が考えなければならないこと-
福原 善春
NewsPicks
2023年12月26日 第1刷発行
※ 1999年に刊行された書籍の復刊版

書籍の目次

1章 文化経済の時代の到来
2章 新しい経営アイディアが湧いてくる場所
3章 世界を丸ごとデザインできる経営を
4章 文化資本経営は新しい環境空間を演出する
5章 新しい経営を切り開くビジョンとは何か
補章 文化資本経営の理論

感想

一般的には企業活動によって、経済資本を元に商品と損益が生み出されると考えらています。つまり、数式化すると次のとおりです。

経済資本 → 商品 + 損益

ところが、著者は上記の考えは間違いだと主張します。私の理解では、企業活動に関して著者の主張を数式化すると、次のとおりです。

文化資本 + 経済資本 + 環境資本 → 
商品 + 損益 ×(文化資本 + 経済資本 + 環境資本)

つまり実際は、経済資本だけでなく文化資本および環境資本の3つの資本を元に、商品および損益がつくられます。さらに、損益は3つの資本にプラスまたはマイナスの影響を与え、経済資本だけでなく、文化資本および環境資本を増幅または減少させます。例えば企業活動によって、企業は経済的な利益を得ていても、地域の伝統を失わせたり、公害を引き起こしたりすることが起こりえます。
特に文化資本を重視しつつ、3つの資本がいずれもプラスとなるような経営を行うことが肝要です。

難解な本なので、何度か読み返したいと思います。

参考になった箇所の引用

23ページ
この場合の文化は、もちろん芸術表現や学術・思想に限定されるものではなく、感性や知を蓄積しながら、常に生成・発展する生き方といった、広い意味での文化を意味しています。企業にとってこうした文化は、これまではもっぱら、企業風土や歴史的な蓄積としてのみ評価されてきたと思われますが、それだけではなく、これを企業経営の上で生かすべき「資本」として考えてみようというのが私たちの提案です。
資本活動とは、資金や財などの物質的な経済活動という面に限られるものではなく、人間にとっての魅力的な価値を外部に生み出していく総合活動だという面から捉えることが、極めて重要です。(中略)
これからの企業が考えていかなくてはならない事は、経済的な合理性や効率主義の追求だけではなく、はっきりとした社会ビジョンを持って、文化を生み出していこうとする人々の創造的なパワーをどう生かしたらいいか、という新しい経営のあり方だということです。

28ページ
分離の行き着いた果てに、自己破壊的な作用すら含んでしまった経済の時代から、経済が人間や他の生命にとってよりよい自然や社会を再構成し、建設していくという新しいステージに入ったということです。そして、この建設を引っ張っていくことができるのは、経済資本の力よりも、文化資本の力によらなければならないでしょう。例えば、生活用品や住宅などの商品はこれまで、自然や社会から分離して自由になることで経済として成り立っていました。しかし、そうした分離が行き着くところまで行ってしまったこれからの時代の生活用品や住宅にとってのテーマは、自然環境や社会環境と生活用品や住宅との非分離な空間をどうつくり上げていくか、にあります。具体的には、生活用品や住宅を取り巻く生活空間、街並み空間、都市空間との非分離の状態をいかにデザインしていくか、ということになります。これらの設計を牽引することができる力こそ、文化資本なのです。

39ページ
文化資本経営とは「異質な相反する物事を調整・接合して、一定のスケールで、固有なものに創造する調整技術・生産技術・創造技術を総合生産できる技術」(中略)
文化資本経営はそうした自覚から、自らの経営を言葉で語り、表象し、場所をつくり、資本を形成していくものだといえます。そこで文化資本経営とは、「語り・記し・作り・育てる」ための、「アート・知識・設計・デザイン・資本」に関する文化的・社会的・経済的な総合活動を目指すものといってよいでしょう。

87ページ
暗黙知を言葉にすれば力になる。それははっきりしていますが、そのために企業が身に付けていかなくてはならないのは、暗黙知を言葉にするまでのプロセスです。その暗黙知が形成されるプロセスを保証していく場所、別の言葉で言えば、新しい経営アイディアが湧いてくる場所をどうつくっていったらよいか、それが文化資本経営では何よりも追求されていかなくてはならないことだと思います。

162ページ
空間に思想や哲学、文脈や物語、視覚的なイメージをつけていくこと、それが実質的な文化の経済化なのだと思います。今までは、まだ経済の文化化のところにあるのですが、文化の経済化では空間デザインが重要な意味をもってくると思われます。文化の経済化は領有空間の開発に関わります。それは単に物理的空間をつくり上げることではなく、空間形成をもって、資本や商品や市場などのルールを変え、経済域を切り開くことです。そのためには、領有空間の文化市場開発が、価値・空間・時間の総合性をもって展開されなくてはなりません。

163ページ
「その企業は、地域をこのように捉えており、それに基づいて、企業の意思としてこのような表現を行う」ということになるでしょう。

215ページ
まず「どんな社会をつくっていくか」という分配の世界が最初にあって、その世界の中で文化をきちんと生産していくようにならなくてはなりません。そして、生産された文化が、経済なものづくりのメカニズムに大きな刺激を与えていく、という関係こそ、相互の生産を本当の意味で質的に高めることになっていくのだといえます。(中略)
豊かな文化生産があってこそ、豊かな経済生産も成り立つという時代に入っていること、そうした生産メカニズムへの転換によって経済の活性化が可能となることに気づかなくてはなりません。

文化資本の経営


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