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負け方の身についた人間こそ、人の痛みが分かるー柔道の師匠が教えてくれたこと
女性や白帯さんと寝技の乱取りをするとき、抑えられる側のときには、手を使わないことにしている。そうすると、かなりの確率で、こちら側は「負ける」ことになる。彼らの稽古日誌には、勝てた喜びが綴ってあって、読んでいて嬉しくなる。
僕は、相田みつをの詩が好きだ。
柔道の基本ではカッコよく勝つことを教えない
素直にころぶことを教える
いさぎよく負けることを教える
・・・
そして負け方や
受身のほんとうに身についた人間が
世の中の悲しみや苦しみに耐えて
ひと(他人)の胸の痛みを
心の底から理解できる
やさしく温かい人間になれるんです。
そういう悲しみに耐えた
暖かい心の人間のことを
観音さま 仏さまと 呼ぶんです
僕が通っていた町道場に、この相田みつをの「受身」の詩が掲げてあった。この詩をここに掲げた師匠は、どんな思いだったのだろうか。
師匠は、心から柔道を愛していた。そして弟子や、子どもたちを愛していた。完全な人間など、この世にはいない。師匠の一生の中には、いろんなことがあったのだろうけれど、僕はそんな師匠のことが好きだった。
「柔道は人格を育てるところ。勝ち負けよりも、人格を大事にしろ」といつも師匠は話していた。36歳で柔道をはじめた僕に、黒帯を取らせ、みんなの前に座らせて、話をさせた。
「人格」の話をしてほしいと師匠からは頼まれた。
僕たちがやっている柔道は、相手に勝つことよりも、楽しむことを大切にしている。相手に負けることがあってもいい。力を抜けばいいというのではなくて、相手に合わせてやる。大切なことは、お互いが楽しく柔道ができるということ。稽古は技自慢、力自慢の場じゃない。
師匠の葬式には、僕を含め3人の弟子が、最前列に座らされた。他の二人は少年時代からの弟子なのに、僕もそうした場所へ一緒に座って師匠を見送ることができたことが、何より嬉しかった。
もう、師匠はこの世にいない。僕は師匠の教えを、一人でも多くの人に伝えたくて、今も柔道を続けている。
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