日本ミツバチのはちみつと石けんに込めた想い②〜奥吉備のはちみつを訪ねて〜
前回のnoteで、冬季限定販売石けんの「日本みつ蜂 レモン」についてご紹介しました。
今回は、石けんと一緒に同時販売スタートする「奥吉備の里 日本みつ蜂はちみつ」について、ニホンミツバチの生態と共に詳しく書いていきたいと思います。
ニホンミツバチが棲まう奥吉備の里・北房は歴史と自然が共存する町
石けん工房のある勝山から30分ほど南に車を走らせると、視界がひらけて広葉樹の多い豊かな里山・真庭市北房地域が見えてきます。
岡山は古くは吉備国(きびのくに)、さらに吉備国の北部(北房・有漢辺り)は奥吉備と呼ばれていました。
この辺りは古くから文化が発祥し、250基以上もある古墳や遺跡が歴史を物語っています。
写真は以前息子と訪れた備中鐘乳穴(びっちゅうかなちあな)という巨大な鍾乳洞。
平安時代に書かれた『日本三大実録』に記された、文献に残る日本最古の鍾乳洞として知られています。
そしてここ北房は国内有数のホタルの里。
ゲンジボタル、ヘイケボタル、ヒメボタルの3種類が生息し、環境省の「ふるさといきものの里百選」にも選ばれています。
6月の中旬頃、備中川にホタルが一斉に光り舞う光景はとても幻想的です。
(写真提供:谷本さん)
また里山の豊かな自然が残された北房は花の里でもあります。
桜の時期も美しく、菜の花やコスモスなど、地域の方達がいたるところに花を植えられています。
昔ながらの広葉樹が多い地域のため、エゴノキ、ヤツデ、ウメやサクラなど四季折々で木々の花が咲く奥吉備の里は、蜜源が豊富で在来種のニホンミツバチが棲まうのに素晴らしい環境なのです。
古来からの在来種 ニホンミツバチ
ニホンミツバチはアジアに生息するトウヨウミツバチの亜種で、多湿に強くさらに寒冷地に適応している強健なミツバチです。
見た目はセイヨウミツバチよりも黒みがかっていてやや小さめです。
集蜜量が多く世界中で飼われているセイヨウミツバチはもともとアフリカ出身のため、湿気や寒さに弱く病気になりやすい。
したがって人の手を離れて1年間生きるのは日本の気候ではまず難しいと言われています。
一方、ニホンミツバチは病気や寒さにも強く、野生でも生きる逞しさを持っています。
(写真「ニホンミツバチ」 佐々木正己著より)
ニホンミツバチは性格は穏やかですが環境の変化にデリケートで、巣の周辺環境が悪くなると集団でいなくなる「逃亡癖」があるので、セイヨウミツバチよりも養蜂しにくいと言われています。
しかしよくよく調べてみるとこれは「逃亡」ではなく「引っ越し」だそうです。
食糧事情が悪くなってもそのまま動かず餓死していくセイヨウミツバチと異なり、互いに言葉を持つニホンミツバチは偵察蜂が蜜源豊富な移住先を探し、集団で意思決定をして引っ越しをする賢さと逞しさを兼ねそなえているのです。
そしてミツバチははちみつを提供してくれるだけでなく、花粉媒介してくれるのが私たちにとって欠かせない存在となっています。
日本列島には人が住み着く前から森林があり、その森はニホンミツバチが花を交配させ種子を作らせることで豊かに存続してきました。
そして人がこの島にやってくると、彼らの農業を助けてきた歴史があるのです。
古くは日本書紀にもミツバチが登場するくらい、人々の歴史は在来種のニホンミツバチと共にあったのです。
奥吉備の里のテロワール〜日本みつ蜂のはちみつ〜
日本に流通するはちみつの90%以上が海外産でそのほとんどが中国産です。
国内自給されているはちみつは年々減少傾向で令和元年のデータによるとわずか6.0%(農林水産省のHPより)で、そのほとんどはセイヨウミツバチによるものです。
ニホンミツバチは集蜜量がセイヨウミツバチの1/5〜1/10と少なく飼育が難しい為、国内流通量が0.1%と言われる本当に希少なものなのです。
蜂ファーム中嶋さんのはちみつと出会ったのは、関東から真庭に引っ越してすぐのこと。
滅多に見かけないニホンミツバチのはちみつが普通に地元の道の駅で売られていることに驚きました。
ニホンミツバチのはちみつの特徴は、その味の素晴らしさにあります。
私はもともと、はちみつを舐めたときの喉にひっかかるようなえぐみが苦手で種類によっては甘みがくどいものもあり、実はそれほどはちみつが好きではなかったのですが、ニホンミツバチのはちみつはまったくの別物でした。
色は黄金色。ふわっと芳醇な香りで、さわやかな酸味と奥深い甘みがあり後味がすっきり。
甘みのくどさや喉に引っかかる感じがないので初めて食べた時にはその美味しさに衝撃を受けました。
もともと地元産のはちみつで石けんをつくりたいという想いがあり、色々試した結果、中嶋さんのはちみつが一番色が美しく香り高いはちみつ石けんになりました。
こんなに素晴らしいはちみつを作られる中嶋さんの養蜂場にぜひ行ってみたいと連絡をとり見学に行かせていただきました。
巣箱が置いてあったのは、裏山に面した民家の近く。
サザンカなど様々な木々が花をつけ、紅葉した木々の間を風が渡り、とても素敵な場所でした。
11月でしたが、寒さに負けずニホンミツバチは元気いっぱい。
蜜や花粉をせっせと運び、その絶え間ない働きぶりに思わず見入ってしまいました。
養蜂家の中嶋さんは、ニホンミツバチにやさしく言葉かけします。
ニホンミツバチは人に馴れやすく、長年接していると羽音や動きなどから、喜んでいるのか怒っているのかなどニホンミツバチの気持ちが分かるそうです。
蜜を採取する時、セイヨウミツバチは燻煙機で煙をかけて大人しくさせますが、ニホンミツバチは蜜を採る巣箱の上部を中嶋さんが手で軽くコツコツと叩くだけでざざーっと一斉に下部に移動してくれて、蜜を採るのに協力してくれます。
なんて賢くて可愛いのでしょう!
中嶋さんのニホンミツバチへの扱いはとても丁寧で、巣からはちみつを採取する時はを二重ガーゼで何日もかけて濾していきます。
目の粗いザルや圧搾機を使ったらもっと簡単なのですが、雑味のないクリアな味を出すためには二重ガーゼを使った垂れ蜜が一番とのことです。
よく私たちが店頭で見かける「アカシア」や「れんげ」など花の名前がついたはちみつは同じ種類の花から集中して集める性質があるセイヨウミツバチによるはちみつです。
この辺りは蕎麦の花も多いのですが、セイヨウミツバチの集める蕎麦蜜はミネラル豊富なのですが、色も濃く味にクセがあると言われています。
中嶋さんによるとニホンミツバチが集める蕎麦の蜜は色も濃くならず味もとても美味しいのだそうです。
ミツバチが花蜜に混ぜる酵素が影響しているようですが、同じ花の蜜を集めてもミツバチによって味が変わるなんて不思議ですよね。
またニホンミツバチは単一の花から集める習性はなく、季節折々に咲く多種多様な花の蜜を集めるので「百花蜜」と言われています。
棲む地域によって多彩な花々の香りと味の奥深さが生まれるのは、ワインの世界で味を決める重要な要素の「テロワールTerroir」と似ています。
この言葉はフランス語で「風土の、土地の個性の」という意味で、ブドウが育つ環境「テロワール」によってワインの味にその土地の個性が出るのです。
このニホンミツバチのハチミツのはちみつも多彩にこの土地に咲く花蜜の天然カクテルであり、いわば「奥吉備の里のテロワール」なのです。
非加熱のはちみつはなぜ国内流通しないのか
ニホンミツバチの蜜は前述したとおり、味が素晴らしいだけでなく、胃や肝臓に対する薬効も高く、各種ミネラルの含有量がセイヨウミツバチの3倍もあると言われています。(出典:ニホンミツバチが日本の農業を救う 久志冨士男著)
そして、このニホンミツバチのはちみつを最も美味しく、栄養や薬効が高い状態で摂取するには非加熱が一番です。
ヨーロッパなどでは、はちみつの基準は厳格で、加熱されているはちみつは本物のはちみつではないとされています。
加熱処理をしていない生はちみつには、酵素や乳酸菌、ビタミン、ミネラルなどの栄養が100種類以上も含まれています。
加熱をすると透明で見た目もきれいなはちみつになり発酵の心配がなくなるのですが、熱に弱い酵母や栄養素が45℃以上に加熱することでどんどん失われていき、風味も失われ喉に引っかかるようなえぐみのある味に変化してしまうのです。
「日本における非加熱のはちみつの割合は0.08%ほどしかなく99%のはちみつは加熱されている」という話もあるほど、流通しているほとんどのはちみつは加熱されているそうです。
完熟を待たず糖度が低いはちみつは発酵して味が変わってしまうことがあるので、火を入れて酵母を殺してしまうのです。
また非加熱だと温度変化で結晶化して固まりやすくなるので濾過したり瓶詰めするなどの工程が難しくなるのが加熱する理由のようです。
先日、中嶋さんのはちみつの糖度を測らせてもらったのですが、蜂が巣内で羽根を振るわせて水分をとばした濃厚な蜜を採取しているので、日本のはちみつの組成基準が糖度77度に対して、中嶋さんのはちみつは80.3度。
柑橘のようなフルーティーな酸味がありながらまろやかで濃厚な甘さの絶品はちみつです。
温度変化で冬場は特に結晶化して固まることもありますが、それが本来のはちみつなのです。
MATSURIKAでは本物のメディカルハニーとして美味で薬効もあるはちみつを酵素が生きた状態で皆さんにお届けしたく、養蜂家の中嶋さんにお願いして完全非加熱で糖度80度前後はちみつをMATSURIKAの商品として販売させていただけることになりました。
12/11より「奥吉備の里 日本みつ蜂はちみつ」をMATSURIKA SAVONのオンラインショップにて、日本みつ蜂レモン石けんと共に販売スタートです。石けんとこの地域の素晴らしいはちみつをお届けできることに私たちもワクワクしています。
中身にこだわりすぎて、裏面に品質表示シールが貼ってあるだけで、封かんシールのみのシンプルさですが、MATSURIKAらしくていいかなと思っています。
生はちみつには抗菌作用があり粘膜を修復する作用もあるので、喉がイガイガする時にひとさじ舐めるだけでも痛みが和らぎます。
養蜂家の中嶋さんも「混ぜものも加熱もしていない本物のはちみつだから甘味料としてでなくぜひ薬として食べてほしい」と仰っていました。
酵素が生きたままお届けするので、お手もとに届いたら瓶の蓋を少しゆるめて常温で保管してくださいね。
(はちみつの効用については次回のnoteで詳しく書きますね。)
ニホンミツバチの暮らしを守ることが里山の自然環境を守ること
MATSURIKAでは、このはちみつの収益の一部をニホンミツバチを守る環境保全のために蜂ファーム中嶋さんに還元することにしました。
理由は、この豊かな奥吉備の里・北房の自然環境を守るためです。
寒さや病気に強く天敵のオオスズメバチにも集団で立ち向かうニホンミツバチであっても人の使う農薬が原因で死滅することが多いそうです。
前述の久志冨士男さんの著書によると、無人ヘリで農薬をまかれた場所から1キロ離れた巣箱であっても7群すべてのニホンミツバチが死滅したと書かれています。
農薬被爆を受けたハチたちは巣門の前でのたうち回って死んだり、汚染された花粉を食べて死んだ幼虫を巣の外に捨て始めたりするそうです。
この農薬被害についての章は読んでいて胸が潰れそうな思いでした。
ホタルの里と呼ばれるこの北房の地では、かつてホタルが激減したことがあったそうです。
原因はパラチオンなどの毒性の強い農薬で、住民で話し合ってこれらの農薬の使用をやめてホタルが復活したという話を聞きました。
こうしてホタルを守ってきた北房地域はニホンミツバチにとっても棲みよい場所のはずです。
もともとは入り口の狭い木の空洞に巣を作るニホンミツバチは、適した場所に営巣しないと天敵のオオスズメバチの襲撃を容易に受けてしまいます。
現在、養蜂家の中嶋さんは、希望する人に巣箱の設置を教え、地域団体の方々に菜の花の種などを提供し地域に花を増やす「花いっぱい運動」に参加したり、蜂が飛行する巣箱から半径2キロの範囲内に、イヌゴシュユ(別名ビービーツリー)という木や赤蕎麦の花など、ニホンミツバチが大好きな植物を植え続けています。
こうしてニホンミツバチを守る活動により、花粉が運ばれ雑木林の木々もドングリなどの実をつけて幼木が育ち、農作物の収量も増えます。
ニホンミツバチを守ることはこの残された自然環境と私たちの食を守ることにつながるのです。
世界中で深刻なミツバチの減少と今私たちにできること
2006年以降、世界中で飼育されているセイヨウミツバチが大量死、大量失踪する蜂群崩壊症候群(CCD)による深刻な被害が報じられています。
こうした蜂群崩壊症候群の被害は、アメリカやカナダ、イギリス、ドイツ、スイス、スペイン、ポルトガル、イタリア、ギリシャなどにも広がり、北半球全体で4分の1のミツバチが失踪したとのこと。(出典:ハチはなぜ大量死したのか、 ローワン・ジェイコブセン著)
私たちが毎日食べている野菜や果物の多くは、ミツバチの受粉のおかげで実ります。「世界の食糧の9割をまかなう100種類の作物のうち、70種以上はミツバチが受粉を媒介している」という報告もあります。(2011年・国連環境計画報告書)。
私たちが大好きな、チョコレートもコーヒーも、ナッツ類も、イチゴやりんご、桃や梨などの果物や、かぼちゃやナスやトマト、ニンニク、玉ねぎ、キャベツなども受粉で実る作物。もしもハチがいなくなってしまったら大変なことですね。
蜂群崩壊症候群の原因は農薬、気候変動、病気、電磁波など複合的な要素があると言われていますが、大きな原因のひとつとして2012年には、「ミツバチに与える影響が危惧される農薬を突き止めた」とする論文が科学雑誌『Nature』,『Science』両誌で掲載され、ネオニコチノイド系農薬が影響を及ぼしていることが大きく報じられました。
この蜂群崩壊症候群で今、世界中で減少しているのは主にセイヨウミツバチです。
病気やダニ、気候変動に弱く、人の手を離れて生きていくのが難しいのです。
そこで、病気に強く強健なトウヨウミツバチやその亜種のニホンミツバチを見直す動きが出てきています。
和歌山県の梅の産地であるみなべ町はかつてはセイヨウミツバチで梅の花の受粉を行っていましたが、在来種のニホンミツバチを復活させようと近年は巣箱を設置し、カシやシイなどニホンミツバチが蜜を採取する広葉樹を町をあげて植樹しているとのこと。(産経新聞)
また、病気やダニ強いニホンミツバチの遺伝子の研究が進められ2019年には農研機構、東京農業大学、京都産業大学は共同でニホンミツバチのフルゲノム配列の解析に成功し、今後セイヨウミツバチの改良に役立てるとのことです。(農研機構)
かつて物理学者のアインシュタインは
「地上からミツバチが絶滅したら人類も4年で滅びるだろう」
と警鐘を鳴らしていたそうです。
小さなミツバチを守るために私たちにできることは限られていますが、巣箱が置けなくても、
例えば家の敷地にミツバチが好む花や樹木を植えること。
無農薬の野菜をなるべく選んで買うこと。
家の周囲にまく殺虫剤や除草剤の使用をなるべく控える等、小さくてもできることはあるはずです。
MATSURIKAにできることは、この希少なはちみつとニホンミツバチの存在を知ってもらうために、こうして日本みつ蜂のはちみつを使った石けんを商品化して、この地域の養蜂家さんを応援すること。
この小さな一歩がいつか大きなムーブメントになることを信じて、これからも石けんを作り届けていきたいと思います。
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