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ロンボクだより(119):イスラームの寺小屋(岡本みどり)
〜『よりどりインドネシア』第184号(2025年2月23日発行)所収〜
みなさん、こんにちは。2月9日から数日間、ロンボク島では雨と風が荒れ狂い、被害が相次ぎました。しかし、なんとか暴風雨は通り過ぎ、ここ数日は晴れ間も見えます。断食月を目前に、気分も盛り上がってきました。今回は、子どもたちのイスラーム学習について書いていきます。
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ロンボク島の子どもたちは、ほとんどが塾に通っていません。
ロンボク最大の市街地であるマタラム市では塾の看板を見ることができますが、田舎には塾がありません。習い事もあまり聞いたことがありません。バリ・ヒンドゥー教や仏教の子どもたちが踊りやガムランの練習をしているのと、県庁前の広場でシラットや空手の練習を見かける程度です。
では、イスラーム教の子どもたちは毎日放課後に好きなだけ遊んでいるかというと、そうでもありません。
ロンボク島のイスラーム教の子どもたちが幼稚園ごろから始めること、それは「メンガジ(MENGAJI)」です。
メンガジはイスラーム教について学ぶことで、私は日本語では「イスラーム学習」と訳しています。大体のところで週に6回行っています。
その内容は、大きく次のとおりです。
クルアーンを読むためにアラビア語の読み方を学ぶ
クルアーンを読む、暗誦する
クルアーンの内容を学ぶ(解釈について話し合う、意図を理解する)
クルアーンやその他のイスラームの書物の教えを人生にいかす術を学ぶ
メンガジの規模は幅広く、家で一人で行うものから、子どもたちのように指導者の家へいって教わるもの、近隣の村の人たちが一斉に集まりモスクで行うものまであります。断食月や大きな祝祭日が近づくと、ゲスト指導者を呼んでお菓子や食事つきで盛大に行われます。
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そんなメンガジですが、私も最近、楽しく取り組むようになりました。
2022年8月に、娘のメンガジの先生が母親クラスも開いてくれることになり、私も毎週土曜日に通っていました(『よりどりインドネシア』第128号所収「メンガジはじめました」参照)。が、翌年から私の学校での授業時間と重なるようになり、通えなくなっていました。ほかの母親たちも忙しいのか、母親クラスは自然消滅してしまいました。
去年の6月に学校の教員をやめてから、私は「また先生のところへ行きたいなぁ」と思うようになりました。先生とメンガジをすると、心が洗われるような気持ちになるからです。なぜか先生の家で勉強をした帰り道は「今日もいい日だったなぁ」とスキップしたくなるほど満足感でいっぱいになります。
しかし、私ひとりのためにメンガジを依頼するのもなぁと遠慮していたところ、今年の1月に突然先生からメンガジのお誘いがありました。私は大喜びで、毎週土曜日のメンガジを再開しました。ブランクがあるので、もう一度、初歩の初歩であるアラビア語文字からスタートです。
真面目に通っていたら、2月からは毎日メンガジに通ってもいいと昇格(?)しました。子どもたちが勉強したあと、だいたい17時からメンガジしています。
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メンガジを続けるなかで得たことが3つあります。
(1)「忙しい」と思ったときの心の持ち方
「おべんとおべんと嬉しいなぁ~♪」の歌のように、「メンガジメンガジ楽しいなぁ~」とはじめは思っていたのですが、毎日通うとなると、なかなか大変です。
なんといっても家事や仕事があるので、先生のおうちへ伺う時間を捻出するだけでも一苦労。そのうえ、ただ行けばいいというものではありません。
今、私はアラビア語の読み方を練習しているところですが、指定のページを家で練習する必要があります。先生の前でスラスラと読めれば合格。次のページへ進めます。
でもね、家で1回読んだだけでは、当然うまくならないのです。しかも年齢のせいなのか覚えが悪くなっており、前に学んだところをいったりきたり。練習にもまた時間がかかります。ひゃあ。
「こんなに大変なことを毎日やっていたんだぁ!」とわが子や近所の子たち、かつての教え子たちを思い浮かべながら、尊敬の念が湧き上がってきました。
メンガジの先生は、平日は毎日私達に教えたうえで自分のメンガジも一人で行い、さらに休日は先生の先生に教わりに行くのだそうです。小さなお子さんが二人もいるのに、どうやって時間を確保しているのでしょう。
先生は、「『忙しい』『難しい』と思っているとそうなるのよ」と教えてくださいました。
なるほど、そうかもしれませんね。
メンガジはやらされているものではなく、私が望んだこと。
「大変だ」と思い始めたら、自分自身のメンガジの目的や初心の「楽しいなぁ」「心が洗われるなぁ」を思い出しています。
(2)インドネシア語の発音・聞き取り
メンガジは、アラビア語の文字の発音を一つ一つ学ぶことからはじめます。口の開け具合・舌の位置・息の通り道と、懇切丁寧に教わります。
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