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「光る君へ」メモリアル~紫式部をめぐる相聞歌(第2回)
この連載は大河ドラマ「光る君へ」を振り返り、紫式部をめぐる古典和歌での相聞歌を創作することによって、ドラマの魅力と古典和歌の奥深さを新たに発見しようとする試みです。
光の君へ第4話でまひろは源倫子の代わりに五節の舞を舞うことになりましたよね。
テレビで五節の舞を再現した画面は、実に王朝の雅に思いを馳せさせる素晴らしい演出でした。
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そしてまひろは、居並ぶ赤い束帯を着た五位の諸大夫の中に三郎(道長)の姿を舞台の上から見つけます。三郎(道長)は居眠りをしていました。
それまで三郎(道長)のことを庶民だと思っていたまひろにとって、このような宮廷行事の五節の舞の席に三郎(道長)がいることは驚くべきことであるのに、さらに驚愕すべきことは、その居眠りをしている道長をつついて起こそうとしている隣の男は、忘れもしない母の敵、藤原道兼だったのです。
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そして舞い終えた後に、三郎は実は右大臣藤原兼家の三男で、母の敵の藤原道兼の弟だと知るのです。
衝撃のあまり、まひろは気を失ってしまいます。
もし後にまひろと道長がこの時のことを思って歌を詠み交わしたならば、きっとこんな感じになったのではないかと思います。
仇人の出で来にけりなあさましく 五節に舞ひ立ち見る目の前に
まひろ(紫女)
えっまさか!? そんなあり得ない!
舞い立って見やれば あの敵の男が 目の前に……
あさましう仇なるゆかり君はもや わが舞ふ影も見るまじかるに
まひろ(紫女)
まさかの三郎が現れて…… でも私の舞は見ていなくて……
そしてまさかまさか
三郎 あなたはあの男の縁者なの?
ゆかりとて末は日蔭の身にならむ 舞姫の許しかなはざらむに
三郎(道長)
僕は君の敵のゆかりの者ということなので
将来たいした者にはなれないよ
五節の舞姫に許されない身の上なんだから
匂ひたる姫の影をば知らずして 悔ゆる心に君の香立ちぬ
三郎(道長)
あの美しく輝く舞姫が君だと あの時わからなくて
残念に思いながら、君のことをあれこれ思い浮かべていると
君を恋う気持ちがこみ上げてきたよ
そしたら、あれれ、君の香りが漂ってきて
君が現れたように感じられたよ
※悔ゆる ⇒ 燻(くゆ)る、薫(くゆ)る ⇒ 香
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