「バッド・キアリ症候群」闘病記Vol.1〜発覚から食道静脈瘤治療まで
この記事の目的
僕は2020年末にバッド・キアリ症候群という病気と診断され、現在闘病中である。この病気は一筋縄でいかない系のやつで、この病気に関してこれまでたくさん調べたり、医師に教えてもらったりしてきた。
そこで、自分の頭の整理と、自分と似た境遇の方(肝臓疾患者など)の参考になるよう、勉強したことをこの記事にまとめておく。
この記事では、正確さのためあえて専門用語を使用し、また客観的な記述を心がけた。医師の友人にレビューしてもらっているので、正確性は担保されていると思う。
バッド・キアリ症候群とは
1.病気の概要
バッド・キアリ症候群(BCS: Budd-Chiari Syndrome)肝臓の難病で、肝臓から流れ出る血液を運ぶ肝静脈、もしくはその先の心臓へとつながる下大静脈が、狭窄・閉塞することによって血流が悪くなる病気である(注1)。それによって肝臓では血液が行き場を失い、肝臓がうっ血する。消化管からの血液を運ぶ門脈の圧力が高くなり(門脈圧亢進)、肝硬変が進行していく。
有症率は人口100万人当たり2.4人、受診中患者数は日本全国で約300人、と極めて少ない希少難病である。
2.症状
最初は無症状だが、病気が進行すると症状が出始める。主に、門脈圧亢進と肝硬変と同様の症状が起きる。
・胃・食道静脈瘤による吐血・下血
・腹水、浮腫(むくみ)
・肝性脳症による昏睡
・脾腫による血小板減少による出血傾向
3.原因
原因は明らかにされていない。
しかし、先天的血管形成異常や、血液疾患・血液凝固異常・経口避妊剤の使用などによる後天的な血栓が原因という説もあるようだ(注2)。
4.治療法
現在、原因がわからないので根本的な治療法(原因療法)はないが、肝臓移植が有効な方法である。
対症療法としては、以下がある。
・肝移植
狭窄・閉塞している血管ごと肝臓を移植する。
・抗凝固薬療法
血液を固まりにくくする薬剤を服用する。血栓予防が目的のため、狭窄の進行防止や予防は可能だが、既に閉塞した狭窄の治療はできない。
・バルーン拡張&ステント留置
IVR(Interventional Radiology)によって血管内にカテーテルを挿入して狭窄した血管をバルーンで拡張する。さらにステントを留置して血管の開存を維持する手術を行なう場合もある。門脈圧を低下させ肝硬変の進行を止める効果が得られる。
・シャント手術
門脈圧低下を目的として、ステントにより肝臓を迂回する血流の代替経路(シャント)を作る手術を行なう。経頸静脈的肝内門脈大循環短絡術(TIPS: Transjugular In- trahepatic Portosystemic Shunt)と呼ばれる。
各種検査結果(2020年12月時点)
2020年12月時点での各種検査結果を記す。
血液検査
・白血球:11400/uL → 多い
・好中球:46.6% → 正常
・好酸球:37.8% → 多い
・好塩基球:1.6% → 正常
・リンパ球:8.4% → 少ない
・単球:5.6% → 正常
・血小板:8×10^4/dL → 少ない(正常値14×10^4-34×10^4/uL)
・アルブミン:2.9g/dL → 少ない
・ALT:23IU/L → 正常
・AST: 44IU/L → 高い
・γ-GTP: 150IU/L → 高い
・ALP(IFCC): 88IU/L → 正常
・総ビリルビン(T-BIL): 1.86mg/dL → 高い
・直接ビリルビン(D-BIL): 0.77mg/dL → 高い
・アンモニア:56ug/dL → 正常
・PT-INR: 1.56% → 正常
・赤血球:479×10^4/uL → 正常
・血色素量(ヘモグロビン):15.0g/dL → 正常
・HBs抗原:陰性
・HCV抗体:陰性
・プロテインC → 欠乏
・尿酸:8.2mg/dL → 高い
・尿素窒素(BUN):19.3mg/dL → 正常
・クレアチニン:1.1mg/dL → 正常
・尿蛋白
(注3)
画像診断(超音波、CT)
・3本ある肝静脈のうち2肢が閉塞(左右肝静脈)、1肢は開存(中肝静脈)、下大静脈は開存(注4)。
・肝腫大、脾腫
・腹水貯留(2L程度)
カテーテルによるアンギオ(血管造影)・肝静脈圧測定
・肝静脈圧(≒門脈圧)が正常値の3倍程度の360mmH2O(正常値は100-150mmH2O)。
・門脈は求肝性(血流が肝臓に向かっている) (注5)
肝生検
・肝硬変(LC)の所見(注6)
・悪性腫瘍の所見なし
上部内視鏡検査
・食道静脈瘤の所見(注7)
その他
・腋窩リンパ節肥大(悪性腫瘍の所見なし)
・肝性脳症・黄疸は今のところなし。
・アルコールや薬物の過剰摂取や、他の病歴はなし。
以上の結果を総合的に判断して、バッド・キアリ症候群と診断された(注8、9)。
腋窩リンパ節肥大は反応性のもので、バッド・キアリ症候群との関連性は不明とのこと。
これまでに行なった治療
1.食道静脈瘤治療
内視鏡的静脈瘤硬化療法(EIS: Endoscopic Injection Sclerotherapy)と アルゴンプラズマ凝固療法(APC: Argon Plasma Coagulation)を行なった(注10)。
EISは食道静脈瘤を硬化剤を注入して固めてしまう治療法、APCは再発率を下げるため食道表面を焼灼して地固めを行なう治療法である。これで1年は静脈瘤の再発防止が見込めるとのこと。ただし、バッド・キアリは肝硬変や肝がんと比較して門脈圧が高く、静脈瘤ができやすい傾向があるので、継続的な内視鏡検査が必要である。
2.血栓予防
抗凝固薬(DOAC: Direct Oral Anticoagulant)であるリクシアナを服用中。まずはこの薬が効いてくれることを期待している。
3.門脈圧低下
血圧降下薬であるカルベジロールを服用して門脈圧を低く保つ治療を行っている。
4.腹水コントロール
腹水コントロールは、服薬治療によって行なっている。腹水コントロールのために服用している薬は以下
・アルダクトン/ラシックス/サムスカ(利尿剤)
・リーバクト(必須アミノ酸)
また、塩分が腹水が塩分量を6g/日にする減塩食を心がけている。また、タンパク質も控えめにするように指導を受けている。
入院のタイミングに合わせて、点滴でアルブミン(25%)を血中に直接投与する治療も行った。
アルブミンは献血で提供された血液から作られるらしい。ありがたや。
これからの治療法
1.肝移植
肝臓を取り替えてしまう肝移植は根本的な治療法であり、僕のケースであれば、年齢などを考慮すると第一の選択肢となる。移植の種類には脳死肝移植と生体肝移植の2つ(注11)がある。しかし、どちらも一筋縄ではいかない。
■ 脳死肝移植
病気や不慮の事故などにより脳死状態となった人から臓器提供を受ける。
脳死移植は、ドナー(臓器を提供する人)の数がレシピエント(臓器をもらう人)に対して足りておらず、脳死移植で臓器提供を受けられる確率はだいたい10人に1人(ドナーの順番待ちが起きており、ドナーが現れる前に命を落とす人が10人中9人ということ)。
生存率の平均値は、移植手術から退院までの間(平均2ヵ月)で90%(10%は退院できずにそのまま死亡する)、5年生存率は80%。ただし、この数値は全てのケースの平均値なので、参考数値である。
生体肝移植と比較した場合のメリットは、肝臓の全部分が提供されること、またそのために、回復が早いことである。
■ 生体肝移植
健康体の親族にドナーとなってもらい、肝臓の半分程度を提供してもらう。
しかし、生体移植は、自分以外の人生も巻き込んでしまうという大きな問題がある。全くの健康な人に強い侵襲を加えてリスクを与えることになる(ドナーは何の異常がないのにお腹を切ることになる)。他にも、実際に移植を検討してみると多くの問題が発生することがわかってきた。
生存率は脳死肝移植とさほど変わらない。また、ドナーとレシピエントの血液型が不適合となるケースは、従来は困難とされたが、免疫抑制療法の発達によって、血液型一致・適合ケースと比べて遜色ない値になっているとのこと(注12)。
また、ドナーの健康状態や年齢が、移植後の生存率に関わる(若くて健康な臓器が良い)。ドナーの病歴に悪性腫瘍・脂肪肝・糖尿病などがあったり、ドナーの年齢が70歳以上の場合は移植手術のリスクが大きく、実施されないことが多い。
2.バルーン拡張およびステント留置術
カテーテルによって狭窄している血管にバルーンを導き、拡張する。さらに、トンネル状になっている金属製の器具(ステント)を狭窄部に挿入して固定することにより、血管の閉塞を防ぐ手術。
侵襲性が低く、移植への影響が比較的小さいため、対症療法としては第一の選択肢として考えている。
3.経頸静脈的肝内門脈大循環短絡術
TIPS(Transjugular Intrahepatic Portosystemic Shunt)と言われる手術。肝静脈の分枝と門脈とを接続する経路(シャント)を作ることで、血液が肝臓を迂回できるようにする手術。このシャントにより、血液は門脈(通常は肝臓に血液を送り込む静脈)から直接、肝静脈(肝臓から血液を送り出す静脈)に流れるようになり、門脈圧の低下が期待でき、腹水などの症状が緩和される。
しかしこの手術は、血流が肝臓を迂回する、すなわち肝臓を使わない血流が多くなるため、アンモニアが解毒されず、肝性脳症(肝機能障害による脳機能の異常)のリスクを高めるというデメリットがある。アンモニアによる肝性脳症は、筋肉量の少ない人が起こりやすいらしい。
加えて、この手術は保険外治療となるため、数百万円の治療費がかかってしまう。現在日本でTIPSを行っているのは、関東では帝京大学医学部付属病院、関西では兵庫医科大学病院が有名である。
4.直視下手術
直視下手術(切開する手術)によって肝静脈流出障害部分を切除する手術。琉球大学で行なわれおり、対症療法の中では有効性が高いようだ。ただし、お腹を切って行う侵襲性の高い手術であり、切除部の癒着などにより後々の肝移植に大きな影響を及ぼす。
移植が不可となった場合の選択肢として考えている。
2〜4の治療法は、実施タイミングが非常に難しい。2〜4の対症療法によって、肝移植の成功率を低下させてしまうリスクがあるためだ。また、単純に手術の結果、症状が悪化するケースもあるようだ。あくまで中心に据える治療法は肝移植のため、2〜4の治療法は、肝移植に与える影響をよく考慮して行う必要がある。
また、レシピエントの健康状態も予後に影響するらしく、あまり肝移植を先延ばしにしすぎても移植の成功率が下がってしまう(極端な話、今すぐに移植手術をするのが一番成功率が高い)。
現在の主治医の治療方針は以下。
A.抗凝固薬を服用しつつ経過観察を行う
B.抗凝固薬が効かず残った1本の肝静脈も閉塞に向かった場合、手術を検討する。
C.2〜4の治療法を行なって肝移植までの時間をなるべく稼ぐ
D.適切な時期に肝移植を行う
ただし、四の肝移植のタイミングは前述のように難しく、現在セカンドオピニオンを交えて相談中である。
お世話になった医師&医療機関
難病は専門性の高い医療となるため、良い主治医を見つけられることが非常に重要である。そもそも自分の患っている難病の患者を受け持ったことがある医師を見つける事自体が難しい。
そのため、ここではあえて実名で医師の名前を記しておく。同じ病気になった方は頼って訪れると良いかもしれない。
■ 掛川達矢 先生
東京医科大学附属病院 消化器内科。現在の主治医。BCSの検査および病名診断、門脈圧亢進症の管理と、食道静脈瘤に対するEIS・APC手術。
バッドキアリの患者を受け持つのは始めてとのことだったが、静脈瘤の治療を初めとして親身に対応していただいた。
■ 古市好宏 先生
新座志木中央総合病院 消化器内科。何人もBCSの患者を受け持っている、経験豊富な先生。
専門医の探し方などを教えていただいた。日本門脈圧亢進症学会の技術認定取得者の先生を訪ねるとよいとのこと。
■ 日高央 先生
北里大学病院 消化器内科。セカンドオピニオンで外来。
■ 吉田泰之 先生
よしだスマイルクリニック。
治療方針の相談に乗っていただいたり、専門医を教えてもらったり、肝臓機能障害の障害者申請のアドバイスなど、多方面でのサポートをしていただいた。岐阜市周辺で消化器内科、循環器内科のかかりつけ医をお探しの方はぜひ。
参考
難病に関する記事をまとめているマガジンは以下です。
注釈
臓器移植全般の話はこちらのマガジンにまとめている
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