最初のミッション|ある土地での物語#4
豊間=豊かさの間にある土地
ここを「豊間の秘密基地」と呼ぶことにした。
売買契約の当日、秘密基地へ行くと、はじめてこの土地と出逢った日と同じく彩雲がでていた。
売主さんも優しそうな年配の女性だった。
元々は亡くなられたご主人がここへ家を建てるつもりで購入したが色々な理由があって結局更地のまま何十年も遊休地となったらしい。
親切な不動産やさんがご厚意で全面の草刈りをしてくださって、引き渡しとなった。土地へ踏み込むことすらできない状態だったが、久しぶりに土地の全貌が見れた。
まずはこの刈り終わった草たちを端へ寄せて、もう少し歩きやすくしよう。
最初のミッションが決まった。
早速、畑で熊手を借りてきて草を除けようとするも、なにかが引っかかって全然うまく進まない。
引っかかっていたのは、「葛」のツルだった。
葛というのは吉野本葛で有名な、葛湯の原料である、あの葛だ。
新発見!
「ここ、葛が採れるんだ?!」
じつはわたしは葛が大好物で、業務用の本葛を常備している。その葛が採取できるならラッキー!と安直に思った。
しかし採れるどころか、この土地一体に大量の葛のツルが張っていたのだ。
ご存知の方も多いかもしれないが、葛のツルは本当に厄介で、人力だけで除去するにはかなりの根気がいる。
そして葛の根から、あの白い葛を採取する方法を調べたら、相当に手間がかかることも分かった。葛が高価な理由がわかった。
しかし手作り好きのわたしがそこでやってみたくならないはずはない!
更に葛のツルもカゴなどを作るのに使えるらしく、頭のなかがやってみたいだらけになって、ツルも丁寧にかき集めた。
疲れた。とても疲れた。
すこし肌寒い日だったので、夫は集めた枯草で焚火をした。
息子がその火を見ながら、お団子を食べている。
・・・たのしい!
ただ草を集めて火を焚いてのんびりするだけで、なんだかたのしい。
これまでずっとマンションで、自分の土地がある暮らしをしたことがなかったので、これだけでたのしかった。
それからは次の週も土地の整備。
葛だけでなく、ごつごつとかなり大きな石も転がっていて、それを除いたりした。
不動産屋さん曰く、この山林のもっと先にあるダムを建設する際に、その堆積物をこの土地に埋めたらしい。
知らないことが次々と出てくる。
わたしは自生している植物の種類を知りたくて、隈なく観察して、知らない植物は調べてまわった。
息子は何もないこの土地で飽きもせず、この日はせっせと落とし穴を掘って、夫をその穴に落として遊んでいた笑
すでに遊び場としての役割は充分に果たしてくれている。
さて、平地部分はだいたい把握できた。
あとは、急傾斜になっている崖の下はどうなっているんだろう。
(つづく)