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テント泊からのぼる麗しき岩山〜甲斐駒ヶ岳〜
岩のぼりが好きでボルダリングまで始めた私。
とはいえ、名だたる岩稜の山々にのぼるにはまだまだ準備が必要だ。
徐々にランクを上げていく。
今回どうしてものぼりたかったのは、南アルプスの北部に聳える標高2967mの甲斐駒ヶ岳だ。
北岳から見た甲斐駒ヶ岳の山容が美しすぎて
「一目惚れとはまさにこのこと」
というほどに、見惚れてしまった山。
北岳や八ヶ岳の赤岳には強く逞しい印象があったが、甲斐駒ヶ岳には岩の険しさがありつつも花崗岩の白く輝く美しさに高貴な雰囲気まで感じた。
南アルプスの女王と呼ばれるたおやかな姿の仙丈ヶ岳に対し、甲斐駒ヶ岳が「南アルプスの貴公子」と呼ばれるのにはとても納得する。
甲斐駒ヶ岳は日本百名山の一座であり、駒ヶ岳とつく日本の山の中では一番の高さを誇っている。
長野県の伊那地方にある伊那谷という盆地の東側に甲斐駒ヶ岳、西側に木曽駒ヶ岳があることから、甲斐駒ヶ岳は「東駒ヶ岳」とも呼ばれるそうで、確かにてっぺんの標識には東駒ヶ岳の名も書いてあった。
ー ルート
北沢峠を起点とするルートと上級者向けといわれる黒戸尾根ルートのどちらかが一般的かと思うが、私は迷わず北沢峠起点のルートを選択。
北沢峠からは仙水峠を通るルート(ルート図④)と双児山を通るルート(ルート図①)があり、いずれも駒津峰で合流する。
六方石を経て今度は直登ルート(ルート図②)とトラバースルート(ルート図③)に分かれる。
直登ルートは地図上波線ルートになっており、クライミングの技術も必要な岩場ルート。
今回はこの直登ルートにチャレンジするのが大きな目的だった。
てっぺんからはトラバースのルートを駒津峰までくだる。
北沢峠から駒津峰までは行きを双児山ルート、帰りを仙水峠を通る周回ルートの選択をした。
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①〜④の順に周回しました
ー アクセス
<北沢峠へのアクセス>
基本的に電車であっても車であっても、仙流荘から登山口のある北沢峠まではマイカー規制があり「南アルプス林道バス」を利用する。
仙流荘には駐車場があり、車の場合はそこに駐める。
仙流荘前のバス停は「戸台パーク」で、南アルプスクイーンライン(北沢峠線)を利用しおおよそ1時間かけ北沢峠まで向かう。
・バス料金:戸台パーク〜北沢峠往復 2300円+荷物代440円(2024年)
・バスは季節運行で時期により時間も異なるため注意が必要。
◉電車の場合:茅野駅からJRバス「南アルプスジオライナー」を利用し仙流荘へ
◉車の場合:仙流荘または仙流荘駐車場などで調べるとナビにヒットする。
仙流荘の目の前に駐車場とバス停があるので迷うことはないと思う。
・駐車場には係員の方がいらして誘導してくれる。
・お手洗いあり。水洗でしかもウォシュレット付き!
・近くに100台、奥に300台駐車できるらしい
・駐車料金:5日以内 1,000円(後払い)
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中にチケット売り場がある
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仙流荘の目の前にある
左手奥が駐車場
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係員の方が誘導してくれる
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ー 登山計画
10月頭、日々変わる天気予報に翻弄されたが予定通りに甲斐駒ヶ岳への山のぼりが決行できた。
今回の目玉はなんといっても「岩のぼり」だ。
てっぺん直下の直登ルートをのぼる。
岩稜帯の山には体力の他に技術が必要で、技術を上げていくためにもいろいろな岩のぼりで経験を積んでいく。
今回の直登ルートは波線ルートなので、果たして自分がのぼれるのかわからなかった。
しかし、様々な記事を読み動画をみた結果「いけるであろう」と判断し挑戦を決めた。
そしてもうひとつの目玉。
それが「テント泊」だ。
テント泊は過去にキャンプで一度経験がある。その時、テントで寝るのがちょっと愉しかったので山でもやりたいなとずっと思っていた。
しかし、なんといってもネックになるのはザックの重さ。
私にはテント装備を背負ってのぼるのはとても無理だと思った。
これにはUL化しかない!とまずはUL化計画を立てた。
(UL化についてはいずれ記事で書こうと思っているので割愛します)
今回選んだのは登山口のテント泊で、ザックを背負って歩くのが10分程度なため重くても大丈夫だろうと思った。
なぜテント泊を選んだのか。
甲斐駒ヶ岳は北沢峠からの場合、累積標高が1200m弱、コースタイムも7〜8時間のため日帰りが可能だ。しかし、前述の通り登山口まではバスを利用しないといけない。
9月以降の平日だと初便が8時05分なので、一番早いバスに乗っても登山口には9時まで到着できない。帰りのバスの最終は16時なのでそれでは日帰りは難しい。
また土日だと初便に乗るにはかなり並ぶという噂だ。
登山口には長衛小屋がありテント泊ができる。
ならば!前日に長衛小屋でテント泊をし、翌日早朝からのぼれば余裕を持って日帰りできると判断した。
初めてのテント泊にはまさにちょうど良い練習にもなる。
ちなみにバスが到着する北沢峠にはこもれび山荘という宿泊施設もあり、そこを利用している方もいらした。
岩のぼりとテント泊が一緒に愉しめるワクワク満載の山旅の始まりだ!
ー テント泊へ
今回はいつもの山友と二人での山行。
東京から車で一緒に向かう。
車内での4時間は語り合いの時間。
こんなにいつも長い時間を過ごすのに話が尽きないのが不思議だ。
11時45分 仙流荘の駐車場に到着。まずバスのチケットを購入しトイレを済ませてバスの列へ。平日の昼間なので10人程度しかいなかった。
12時10分 南アルプスクイーンラインに乗車し北沢峠へ。バスは空いていたので、ザックは座席に置かせてもらえた。
13時 北沢峠到着。北沢峠にもトイレがある。
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比較的綺麗なトイレだった。
長衛小屋までは徒歩10分ほど。10kg程度のザックは10分という距離なら楽勝だった。
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受付を先に済ませてからいよいよテントを張る!
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右手のテント受付にて受付用紙に必要事項を記載してから、小屋の中で受付をする
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小屋の横には女性専用がある
仮設だけど綺麗で臭いもない
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歯磨き粉は使わない
テントとシュラフは今回もレンタル。前回テントはモンベルのを借りたので、今回はアライテントにしてみた。
私が利用しているのは山道具レンタル屋さん。
早めに送ってくださるし、使ったものは洗わずそのまま返品できるので助かる。
今回お借りしたのは「アライテント エアライズ2」
1〜2人用のテントでレンタルの中では軽い方。
シュラフは前回キャンプの時に借りたのと同じかな。
「モンベルのダウンハガー650#3」
今回は友人と二人なのでテントは2〜3人用と迷ったけれど、1〜2人用で果たして過ごせるのか試してみたい気持ちもありそちらを選択。
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1〜2人用
設置場所は悩んだが、小屋に近い川沿いを選んだ。
出入り口も川の方にし、入り口を開けると緑と川がみえなかなか趣があっていい。
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テントは友人の掛け声に従い立てていく。
設営は決して難しくはないけれど、モタモタしながら立てたので設置完了は14時だった。
感想としては大人二人だと狭い。あたりまえか。
ただ、寝るには問題なし。
準備の時など荷物を広げるときは一人ずつでないと、ちょっと窮屈かな。
軽さを選ぶか、快適を選ぶか。
私はぐっすり寝れたので「まあいいか」と思ったけれど。
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テント内の気温はモンベルの温度計だと20度あった。
ちょっと肌寒い程度。上着はいらないかな。長袖一枚でちょうどいい感じ。
テントは結構空いていた。埋まっていたのは1/3くらい。
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16時くらいからご飯を食べ始めた。
友人がスープを作ってくれた。野菜たっぷりのスープにからだの芯までほっこり温まる。
あ〜、これこれ。
私の中でキャンプにはスープなのだ。
スパークリングで乾杯しキャンプを満喫。
すっかり明日山にのぼるというのを忘れてしまう。
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川の流れる音以外に聞こえるのは微かな話し声だけ。
音は山の空気に浄化され、静謐という時間を届けてくれる。
小さなランプたちが色とりどりのペンキで夜を染める。
贅沢だ。
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夕食は外だったので長袖にダウンさらにシェルを羽織り、夏用の長ズボンの下に冬用のタイツを履いた。
ちょっと寒くなってきたので18時ごろテント内に戻る。
テント内の温度は15度くらいになっていた。
テントに戻ってからはワイン&チーズでおつまみタイム。
もちろん飲み過ぎ禁物なので喉を潤し早めに就寝準備を整えた。
ダウンは脱ぎシェルを着たたままインナーシーツを入れたシュラフの中は快適だった。
体が温まったら途中でシェルも脱いだ。
20時前には寝入っていたと思う。
夜中何度か目が覚めた記憶はあるが、翌朝3時半ごろにはすっかり覚醒し外を見ると満天の星空が広がっていた。
すぐさまコンタクトを入れ、カメラを持って外に出た。
あ〜、三脚とレンズを持ってこなかったことが悔やまれる。
星を撮るには暗いが撮らずにはいられなかったので、近くにあったベンチに乗せて撮影タイム。
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テントは最高だ!!
ファスナーを開けた瞬間に星のシャワーを浴びれるのだから。
そこからは山のぼりモードに切り替え支度をする。
快晴の予感しかない空の下、準備は整った。
ー 甲斐駒ヶ岳へ向け出発!
予定では5時に出発だった。
しかし、5時だとまだあたりは真っ暗。
「怖いよね」
二人うなづきあい、出発を5時半に遅らせた。
薄暗いけれどヘッドライトをつけるほどではない。
双児山登山口はバスを降りた北沢峠まで戻り、北沢峠こもれび山荘の裏手にある。
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裏手に北沢峠こもれび山荘
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(矢印のあたり)
双児山までは最初からまあまあのぼる。朝はペースが上がらない。
服装はダウンは着ず長袖シャツとシェル、夏用のズボンにタイツ。
すでに息を切らしながらのぼること50分、二合目の標識があった。
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この後もひたすらのぼり続け、登山口から1時間40分過ぎたあたりから樹林帯を抜け視界が広がった。もしかして奥に見えるのは北岳!?
前回のぼっただけに感慨深い景色だ。
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すると甲斐駒ヶ岳も見えてきた!!
目指すゴールが見えると気合が入る。
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温度計を見ると気温は13~4度くらいだった。
のぼっている時は暑くはないけれど、天気がいいので冬物の長袖より夏物でよかったかなという印象だった。
ハイマツの道を空に向かってのぼっていくと四合目に到着した。
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ここでは気が付かなかったが、どうやら双児山は四合目がてっぺんだったよう。登山口から2時間ちょっとかな。
そしてハイマツの稜線をもったいないくらいくだったあと、駒津峰へののぼりが待ち受けていた。
太陽をたっぷり浴びて絵画のようにくっきりと描き出された世界。この景色をエネルギーにしてさらに進んでいく。
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手前に駒津峰に向かう稜線が見える
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双児山からくだると今度はのぼり。これからのぼるハイマツロードが目の前に広がる。
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遮るものがなく景色は最高だ!
北岳、仙丈ヶ岳、中央アルプス、北アルプス、富士山まですべて見渡せる。
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空からの暑い日差しとザレた石ののぼりはなかなか過酷だった。
それでも景色が素晴らしいので元気をもらえる。
双児山からおおよそ1時間で駒津峰に到着!
駒津峰は北沢峠から仙水峠を通るルートとの合流地点でもある。
広くて眺めは最高!休憩にはもってこいだ。
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ー 駒津峰から始まる岩の稜線
輝くように聳え立つ甲斐駒ヶ岳はもう目の前だが、これが近いようで遠い。
駒津峰からも一旦くだり、岩の稜線を進む。
岩の稜線は赤岳から横岳までの稜線にちょっと似ているところがあるなと思った。
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なかなかのアスレチックコースでワクワクする。
かなり疲れていたのだけど、どうにも岩を見るとテンションが上がり元気になる。心は少年!
駒津峰から岩道を進むこと20分、六方石が現れる。
見るとそれとわかるほど大きくて特殊な形をしている。
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六方石の目の前は広場になっていてそこが八合目だ。
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八合目から5分ほど進むと、最後の分岐に到着。
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ー 直登ルート
直登ルートとトラバースルートの分岐だ。
写真の右手の岩をのぼるのが直登ルート。
波線ルートということで緊張もあるが、ワクワクが勝っていた。
直登ルートはもちろん岩のぼりを経験していなかったり、高いところが苦手だと怖いと思うが、私は愉しい!しかなかった。
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そして、大切なことをひとつ忘れていた。
お気づきだろうか。
ヘルメットをしていない。
直登ルートはヘルメットが推奨される場所。そのため持参したにもかかわらずかぶるのを途中まで忘れていた。
この時は他に誰もいなかったのでまだよかったが、人が多ければ落石の危険も高まる。浮かれて忘れてしまって反省。。。
30分ほど岩をのぼり続けると危険地帯を抜ける。
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岩を越えたら今度はザレの急登をのぼる。
これが結構しんどい。
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ー 甲斐駒ヶ岳てっぺん!
登山口から4時間半、ようやく甲斐駒ヶ岳てっぺん到達!!
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ニコニコしているが、体はヘロヘロ。
累積標高は1200mないのに、アップダウンと大きく足をあげる岩やザレた道で体力をかなり消耗した。
雲はあがり始め、途中で見たときより山には雲がかかっていたが360度の絶景が広がっていた。
中でも北岳は圧倒的な迫力と存在感があった。
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この他にも富士山、鳳凰三山、中央アルプスなど見渡せた。
てっぺんを興奮しながらうろうろしていたが、日帰りかつバスの時間があるためのんびりもしていられない。
撮影はサクッと済ませ、急いでカップラーメンを食べる。
これは外せない。
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ー 下山開始はトラバースルート
くだりはルートが変わる。
駒津峰まではトラバースルートを通る。眺めは最高なのだが、ザレ場地獄で踏ん張る力をかなり使う。
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がんばってくだっているとなんと!!!
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オコジョが姿を見せてくれた!!
初オコジョに歓喜!素早い動きだったが止まってくれた瞬間にパシャリ。
かわいかった〜。
オコジョパワーで元気を取り戻し、さらに先へと進む。
ザレ場のあとはのぼり返しがあったり、ガレ場になったりなかなかハード。
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駒津峰を過ぎてからも大きめの石の急坂をくだったり足への負担はかなりかかる。
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駒津峰から1時間、仙水峠に到着。ここでしばしの休憩。
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仙水峠から先はゆるやかになる、はずだった。
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確かにゆるやかではある。ゆるやかではあるが、石の道なので気が抜けない。しかも、長い。
20分くらい歩いたのかな。ようやく苔の森に入り石ロードから解放された。
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仙水峠から仙水小屋までは30分。休憩するつもりだったが、工事していて休む場所もなくそのまま降りる。
仙水小屋からまたくだり10分くらいでついに林道へ。
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最後の橋を渡ると長衛小屋は目の前だ。
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15時過ぎ、ようやく長衛小屋に戻ってきた。しかし、我々には「テント撤収」というミッションが残っている。
休む間もなく急いでテント撤収。
15時40分、バス停に向かう。ザックが急に重くなったので最後の地味なのぼりがきつい。
15時50分、バス停につきギリギリ16時の最終便に間に合った。
ー 甲斐駒ヶ岳をのぼってみて
南アルプスの貴公子と呼ばれるのが納得できるほどの気高い山容の甲斐駒ヶ岳。のぼってみると、双児山ルートは最短距離ではあるがアップダウンが多くのぼり始めから息があがる。しかし、双児山てっぺんを越えてからの稜線はとても美しく何度も励まされた。
仙水峠のルートはアップダウンこそ双児山ルートよりはないが、ガレ場や石の急坂、石のロードもあり決して楽ではなかった。
想像以上にハードな山行だった。
確かに日帰りできる山行ではあるが、ゆっくりのんびりしているとバスに乗り遅れてしまう。
また、9月以降はだんだんと日も短くなるので遅くなれば暗くなるし、早ければヘッドライトが必要だ。
今回のように前日に入ってテント泊をするのはゆとりもあり、私たちにはぴったりの選択だったと思う。
というか、そうでなければバスに間に合ってなかった。。。
甲斐駒ヶ岳は岩のぼりの練習や自分の力量を知るにちょうどいい山だった。
さらに、テント泊登山デビューにはもってこいの条件だったと思う。
来年はテント泊をもっと増やしたい!
さあ、今年もうアルプスにのぼれるのはおそらく1回。
最後の山行に選んだのは今年の集大成となるお山!!
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
距離:8.7km
累積標高(のぼり/くだり):1162 / 1160 m
タイム:9時間39分(休憩1時間56分含む)