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なぜ、ヒトだけが言語を扱うのか

なぜ、他の動物と違いヒトだけが言葉を扱うのか

なぜ、ヒトだけがここまで文明を発展させることができたのか

気になりませんか?

この本に一つのヒントが書かれています。

昨年2023年に出版され、大変話題になっている書籍です。

人の子供が言語を学んでいく過程を紐解きながら「言語とはなんなのか」という「言語の本質」に迫る本です。

少し難しい用語も出てきてサクッと読める本ではないですが、自分たちが当たり前に扱っている「ことば」についてハッとさせられる内容ばかりでめちゃくちゃ面白いです!

今回はこの本の内容を参考にしつつ「なぜ、ヒトだけが言語を扱う」のかという問いに迫っていきます。


■非論理的な推論がヒトをここまで発展させた

ヒトは非論理的な推論をすることで新しい知識を生み、ここまで発展してきました。

これはどういうことでしょうか。

まず、新しい知識を生み出す非論理的な推論として2つ紹介します。

◎ある事象に対して説明を与えるアブダクション推論

アブダクション推論とは、ある事象に対して原因や理由として説明を与えることです。

例えば、医療現場での診断もアブダクション推論の例と言えます。

事象:患者に発熱、咳、倦怠感などの症状がある。
理由:これらの症状は典型的なインフルエンザの症状であるため、インフルエンザの感染が考えられる

この理由づけによる仮説を行うことで、
「インフルエンザの検査をしよう」と行動に移すことができます。

◎「AならばB」を「BならばA」とする対称性推論

物事に対する双方向の関係性から推論を導き出すことを対称性推論と言います。

これは子供が言葉を学習する際も自然に行なっていることです。

例えば、こんな例があるとします。

「黄色い長細いくだもの」(対象)を「バナナ」(ことば)
であることを学習する

「ミカン」「リンゴ」「バナナ」が入っているカゴから「バナナを取って」と指示されれば「バナナ」ということばから対象を紐付けて、「バナナ」を取ってくる

これは「対象→ことば」ということを学習し、逆方向にも関係性があると一般化をするからできていることです。

  • 「黄色い長細いくだもの」(対象)→「バナナ」(ことば)

  • 「バナナ」(ことば)→「黄色い長細いくだもの」(対象)

しかし、この一般化は論理的には正しくないのです。

「AならばB」と「BならばA」が正しくないことは、「ペンギンならば鳥である」が正しくても「鳥ならばペンギンである」が正しくないことからすぐにわかることでしょう。

◎ヒトは非論理的な推論をいつもしている

この論理的には正しくない推論を人間は日常的に行なっているのです。

このペンギンと鳥の一般化が正しくないことはすぐにわかるでしょう。

「ペンギンならば鳥である」が正しくても
「鳥ならばペンギンである」が正しくない

しかし、こちらはどうでしょう。

最近新型コロナウイルスが流行っている。コロナに感染すると喉が痛くなり、発熱することが多い。
今私は喉が痛くて熱がある。
だから私は新型コロナに感染している。

喉が痛いのも、発熱するのも、他の病気や風邪による可能性が大いにあります。

しかし多くの人は新型コロナが流行しているときにこのような症状が出たら当然のようにコロナに感染したことを疑ってしまうものです。


このように、論理的には正しくない、いわゆる「過剰な一般化」をヒトは日頃からおこなっています

◎推論が言語学習を助け新しい知識を生み出す

ある事実から仮説を導き出す推論は、すでに持っている知識から新しい知識を生み出します

「AであればB」のときそれだけを知っても1を知って1を得るだけです。

しかし、「AであればB」のとき「BであればA」かもしれないと導き出すことは1を知って2(以上)のことを得ているのです。

つまり、論理的に正しい思考だけでは新しい知識を生み出すことはできず、人間の持つ巨大な言語システムに行き着くことは不可能なのです。


では、ヒトが自然と行なっているこの「過剰な一般化」を動物はしていないのでしょうか。

■動物はしない「過剰な一般化」

動物は基本的にはこの「過剰な一般化」は行いません

◎動物は逆方向への対応づけができない

動物が対称性推論を行わないことを示すチンパンジーの実験があります。

「アイ」と名付けられたチンパンジーは、訓練を受けており、異なる色の積み木にそれぞれ対応する記号を選ぶことができます。

黄色の積み木なら△
赤の積み木なら◇
黒の積み木なら〇

それぞれの色の積み木から記号を選ぶことをアイはほぼ完璧にできる

今度はアイに記号から色のついた積み木を選ぶように指示をした。

△を示したら黄色い積み木
◇を見せたら赤い積み木
〇を見せたら黒い積み木

を選ぶような期待をした

しかし、実際には実験結果は期待した通りにはならなかった。

△を示したら黄色い積み木
◇を見せたら赤い積み木
〇を見せたら黒い積み木

記号から色付きの積み木を選ぶことをアイは全くできなかった

つまり、アイは訓練して学習したことを逆方向に対応づけていないのです。

  • 色のついた積み木→記号(訓練して学習)

  • 記号→色のついた積み木(❌ 対応づけされない)

人間の子供であれば普通に行なっている逆方向への対応づけを動物はできないことを示しています。

◎動物は予測をしない

動物は目の前にある事象から因果関係を導き出して予測をしない、という話があります。

アメリカの心理学者デイヴィッド・プレマック曰く

「動物は、自分自身の行為が原因にならないような現象(たとえば、風で樹が折れる現象)が因果的事象であることを学習するのだろうか。おそらく動物でも、大きな岩は小さな岩よりも樹の枝を折りやすいということはわかるだろう。しかし、大きな岩が折れた枝のそばにあるのを見たときに、その岩が枝を折ったと推測できるだろうか? それを示す証拠はこれまでに報告されていない」。

今井むつみ; 秋田喜美. 言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか (中公新書) 中央公論新社. Kindle 版.

これに関連して、

ベルベットモンキーは、天敵である蛇が砂地の上に跡を残して這うのを見ることがあっても、蛇の這った跡から蛇の存在を予測できない、という興味深い報告がある。このサルたちは、蛇がいない状態で跡を見ても不安を示したりはしない。すなわち、砂の跡は蛇が近くにいることを意味する、と予測するような学習は起こらないのだ。

今井むつみ; 秋田喜美. 言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか (中公新書) 中央公論新社. Kindle 版.

つまり、動物では目の前の事象から学習して何かを予測するような思考は働かないのです。

それに対して、ヒトは自分には直接関わりのない自然現象などについても、因果関係を自然と考えて予測をしてしまいます


ではなぜこの過剰な一般化はヒトだけが行うのでしょうか。

■なぜ、ヒトだけが「過剰な一般化」をするのか

それは、人間が他の動物種に比べ、直接観察・経験不可能な対象について推測・予測する必要があったためと、本書では語られています。

推論はいわば「間違うかもしれないけど、そこそこうまくいく」思考です。

ヒトは居住地を全世界に広げ、非常に多様な場所に生息してきました。
そのため、未知の脅威が多くあったのです。

つまり、間違いを許容しても、未知の脅威に立ち向かうために新しい考えを生み出すことが生存に欠かせないものであったのです。

そして、推論によって人間は言語というコミュニケーションと思考の道具を得ることができ、ここまで文明を進化させることができたと言えるのかもしれないのです。

■さいごに

この記事で紹介した内容はこの本のほんの一部です。

少しでも気になった方はぜひ手に取ってみてください。





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