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読書記録 230307 吉川祐介「限界ニュータウン 荒廃する超郊外の分譲地」

先週はなかなか読書をする時間がなかったのですが、読みやすくて面白い1冊を楽しむことができました。

吉川祐介「限界ニュータウン 荒廃する超郊外の分譲地」

専門家でも業者でもない著者の深掘りしていく力、調査する力、行動する力、そしてそれらを文章にする力に驚くばかりでした。


結婚を機にそれまで暮らしていた東京の貸家から千葉県の八街市に引っ越しをした著者。

「秀でた経験も職歴がなく、職業スキルを向上させる努力もせず」とご自身について本の中で書いていますが、静かながらもその魅力的な文章はとてつもないスキル。どんどん引き込まれ、様々な問題がある分譲地を一緒にめぐっている気分になります。

夫婦で住むための物件を探しているうちに、住宅地として存続が危ぶまれる限界集落ならぬ限界ニュータウンを見る事になります。

分譲地であるのにもかかわらず家が少ししか建っておらずほとんどが空き地。管理されずに草木が繁茂する土地、交通の便が悪い場所に建つファミリー住宅など、田舎暮らしとも郊外の住宅地とも違うものが目につきます。

自分の物件を探してそこで終わらないのが著者のすごい所。物件巡りの中で訪れた分譲地の状態、様々な問題点などをブログやYouTubeで発信していきます。

投機用として乱開発された後に地価が暴落。山や田畑を切り開いていった開発業者はほとんど残っておらず、分譲地は放置されて雑木林のようになり、その存在を誰もが忘れてしまっているような状態、そんな所が想像以上にたくさんある事に驚きました。

筆者は僻地の分譲地への移住を呼びかけるわけでもなく、あくまでも現実をありのままに示してデメリットもしっかりと書いています。そして限界分譲地での魅力とは、住環境維持のための裁量の多くが自分自身に委ねられる事だとしています。

ニュータウンで生まれ育ち成人してからもそこで生活する道を選んだ人、荒廃する別荘地の改善に取り組む人、そして市街地からはさほど遠くない分譲地に小屋を建て、社会と適度な距離感を保ちつつ負担のかからない暮らしをする人たちなど、様々な実例もしっかりと載っています。

限界ニュータウンというタイトルからは暗い未来を想像してしまいますが、最後まで読むとかなりイメージが変わってくると思います。

何でもネットで調べられる世の中で、現地に足を運んで自分の目で見るという事の大切さを改めて教わった気がしました。

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