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鱒子 哉
2019年8月30日 15:46
季節はずれの寒気をおぼえて、自ずと目が覚める。設定したアラームからは一時間ほど過ぎていた。どうしてこんなに寒いのだろう。まだ眠りたいとうるさい目蓋をゆっくり現実にならせて、ひとまずエアコンのスイッチをきる。まるで冬の朝のように冷えている。階下へ行きうがいをして水を一杯飲んでから、自分の部屋から赤マルと安全燐寸を持ってベランダに出る。部屋の底冷えの原因は、外気だったのだ。風が強くて一本失敗
2019年8月23日 04:15
B10出口を出ると、飛沫がひどく、それだけでいくつもの雨の染みができた。屋根の一歩外は大きな水溜まりで、目の高さにそれがあったときの迫力は、都心なのに自然を感じたほどだった。 後がつかえていたので、水溜まりをぎりぎりよけて頼りない折りたたみ傘をさして、目的地をもとから入っている地図アプリで検索すると、どうも別の出口からの方が近いらしかったから、ぼくと枝はそこからまた地下へと戻ることにした。
2019年7月16日 21:17
昼過ぎの目覚めに、ぼくはうんざりする。もっと遅くたってよかったのに、と。精いっぱい光を取り込んだ部屋で、ひとつ大きな欠伸をした。今日はやろうと思っていたことがある。それは手紙を書くことだった。二通のうちひとつはもうすでに――眠れなかった明け方をつかって――書き上げていた。だからあともうひとつだった。こっちは初めて出す相手だった。親交はずっと前からあったけれど、会ったのは数ヶ月ぶりな上にま
2019年6月29日 03:09
とくになにもない。ひさびさに何か書こうかなって。ぼくにしては長めの小説(百枚弱)と文フリ用原稿(二十枚)を書き上げたばかりで、次のプロットをうようよと練りはじめていた。夜。嫌いな梅雨が真っ盛りで、なおかつ台風も近づいているらしい。ベランダに出て煙草を吸うと、心地良いくらいのやわらかな降雨に髪が湿らされる。低気圧の頭痛と、熱帯夜の夏バテが相まって、ここのところ心身ともに不調でしかない。
2019年2月24日 04:06
いまは、何時だ? たしか、えっと18時に開店と同時に0円餃子に入って、バカバカと、ビールと餃子を、もうどちらがどちらともつかない間隔で口に放ったんだった。うまかったな、やっぱりたちばなは最高だ。 そして、ぼくはいま駅を出てすぐの公衆便所の前でうずくまっている。気持ちが悪い。「ほら、買ってきたぞ」 見上げようともしない。水田(仮称)だ。頭の前に何かを持ってこられた。目だけでちらと見ると、ヘ
2019年1月16日 19:32
お寿司をたべたい。 それは前日の深夜二時頃に起きた、突発的な欲求だった。深夜の空腹状態では突飛な欲求が起こりがちだ。カップ焼きそば、ラーメン、カレーなんてのはよくある。そういった欲望に対して歯止めとなるのは、手持ち(お金)の不足くらいだ。 そもそもぼくは自分の内から生じる欲望にとことん弱い。財布に千円札が二枚挟まっていればほぼ確実にその欲に従ってしまう。こと食欲に関しては猛烈に。 話がズ
2018年12月25日 03:21
月曜だというのに、人がごったがえしていた。それは今日が、クリスマス・イヴだから。 どこかに行きたい、と思った。そして、いつか六本木を散策してみたい、と思っていた。それで決まりだった。 とはいえどこに行くかなんて全く決めていなかった。確か美術館がたくさんあったことを思い出して、とりあえずミッドタウンにはいった。 明るくて、まぶしくて、それでも歓迎されていないという印象は受けなかった。ずっと前