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「左打ちに戻して下さい」 久しく聞かなかった音声に驚いて、また別れ際のことを思い出して…
出来心、というべきなのかもしれない。でもそのときの私には、意思はおろか感情も何もなかっ…
いつも暗い、翳った部屋にいた。ほんとうはそこは午前でレースカーテンから陽が射し込んでい…
好きだよ、と嘘を吐(つ)かれた。それは今になって思えば、ではなく、初めから分かっていたこ…
玄関に入ると、とりわけそれがバイトからの帰りだとなおさらいつも困ってしまう。夜が更け始…
目がぐるぐるしている。多分飲酒のせいだ。 帰路ではそんなことはなかったのに、家に着く…
男の部屋には、ひとつの小さな出窓があった。男は、諦めを糧に小説家を夢見ていた。 昏い部屋で、電気をつけるのも忘れて、月明かりで目をこらしながらちょうど一節、切りの良いところまで書いたところだった。それは新人賞に出すものではなく、ただの習作であり、ただ年齢からくる焦りを紛らわすためだけの小説だった。 男はだんだんと簡単にはとれにくくなった肩こりを――それも気休めに過ぎないことを知っていながら――ほぐそうと、左右の腕を気まぐれに回した。書いているときに気づかない分、こうやっ
殴るようにして書いていた所為か、想定していたよりもずっと早くペンのインクが尽きてしまっ…
僕の周りは嫌いなものたちで溢れかえっている。 このフレーズが一分おきくらいに頭を過ぎ…
これは遺書です。 なんて、やっぱりちょっと大仰よね。でもこれから書くことは、要はそう…
ガタン、という音が、そのボリュームを半減させたようにして耳に入り込んだ。発生元は、左隣…