【暗記パンが欲しいね/現代人と未来人が新たに直面する暗記問題】
【暗記パンが欲しいね/現代人と未来人が新たに直面する暗記問題】
テクノロジーによって人は劣化する。
これはすでに研究領域では把握されている事実です。
だから、本来持っているはずの能力の劣化は、嘆いても、まああまり意味はない。
太古の昔、人類の姿を想像すれば、確かに、私たちが失ってきた力は多いことがわかるでしょう。
例えば、僕みたいに酷い近視だと、多分、狩りにはいけないし、戦でも役に立たないやつであったでしょう。でも今はレンズというテクノロジーが補完してくれますから、困ることはない。少なくとも近視のせいで食っていけないということはない。試験なんかをしても、裸眼でテスト解きなさい、なんてことは言われません。
テクノロジーによる補完が許容されているわけです。
翻って。
長い時間をかけて人類は変化してきたわけですが、ある特定のタイミングでは、大きな変化をする時期があります。
おそらく、大きな特異点みたいな、進化と呼べるジャンプに近いタイミングというのもあったはずです。
例えば、人類が音読ではなく黙読を始めた時期。これなんかは結構、脳にインパクトがあった気がしますよね。
現在のテクノロジーの劇的な進化とそのスピードは、まさに今、この時が人類にとっても大きなジャンプするタイミングなのだと思えます。
それほどに強力なのではないか。
多分これは後で振り返って、研究してわかるものだとは思いますが、それほどにテクノロジーの進化が速い。
インターネット、スマホ、SNS、AI、ゲノム編集、と一連のテクノロジーは、これまでのインパクト以上のインパクトであることは間違いありません。ヒトの能力を大きく変容(まあ劣化ですが)させる可能性は、やはり高そうだと思えます。
前提が長くなりました。
本題は短いです。
ここ5-7年で、子どもたちに起きている変化、いえ、おそらく大人にも起きている変化があります。
これが現場にいるとあまりに顕著なので、一つ、書いておきます。
それは、『暗記』です。
著しくこの力が落ちています。
長期的なことはもちろん、さっき話したこと、今話したことも、脳に一時保存されていないように見えてしまいます。
当然と言えば当然ですよね。
普段の生活で、必死になって覚えていないとまずいことなんて、あまりなくなりました。今や、他人の携帯番号なんて覚えないですし、勝手にカレンダーにスケジューリングされるようなサービスはいくらでもあります。
自分の住所を書けない子(小中学生)が、一気に増殖しました。
気になるほどに暗記能力が落ちると、やはりかつてのテストおよびテスト勉強的なものは、子どもたちからすれば、非常におかしなものに見えてしまうはずです。
この力の落ち方だけ見れば、暗記を要するような試験は、有意でないように感じてしまいます。
もちろん、学ぶという行為に、最低限の暗記は大切ではありますから、全て失って良いというわけではないでしょう。
そのことを身につける、身体レベルで染み渡らせるという行為を、どこかでやる必要があるはずです。
ただ、確実に言えることは、今の子には従来のような暗記は向いていないということです。
この点だけ見ても、今後の試験のあり方を考えてしまいますね。
試験で測るべき力は、常に検討される必要があるはずです。
繰り返します。
今話したことが、どこかに行ってしまう、そんな次元のことが生じています。
暗記力の低下。
勉強の上位層、下位層関係なく、です。
この話を聞くと、"そうは言っても成績上位層は違うよね?"と思われる方がいるかもしれません。
が、違います。
成績上位層がこれほど暗記に苦心する様子は、これまでだと考えられないこと。実際に現場にいれば、その劇的な変化が見てとれます。
(だから、一定の成績をとっている子は、大変な努力をしているわけです。褒められるべきでしょう)
こうなってくると、何が理解で何が暗記で、区別がついていない子もいるのかもしれません。
先生だとか上司だとかいった、導く立場の大人は、子どもたち、または若者のこうした特性を知った上で向き合っていく必要があるのだと思っています。
ですから、例えば、従来の学習指導や一斉授業が、さほど有用でないことも、暗記側面から見ても明らかなのです。
そして、テクノロジーでの補完に対する許容も、これから考えられていくのだろうと思います。
なお、ここでの暗記とは、短期記憶、長期記憶はもちろん、作業単位で必要とされるようなワーキングメモリーも含めた、全ての暗記を意味しています。
我々は、かつてないほどの暗記力の低下に直面しています。
暗記パンがあれば、と思ってしまうほどに。
(おわり)
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