”沖縄のことば”について、よくある質問(1)
*9月18日「しまくとぅばの日」に合わせて公開しようと思っていたのですが、書いているうちに新しい疑問が沸いたり確認したいこが増えたりした結果10月になってしまったのです。
FAQ
大学時代に南琉球宮古語に出会い、その後も在野の好事家として勉強を続けているのですが、自己紹介で「沖縄県の、宮古島の方言を勉強しています」と言うと、よくいただく反応をパターン化できることに気づきました。
「琉球語? それとも今は沖縄方言っていうんですか?」(名称の問題)
「知ってます、島ごとにことばが違うんですよね」(範囲の問題)
「文字ってあるんですか」(正書法の問題)
以上の3つにだいたい収斂します。実際の質問の形にはもう少しヴァリエーションがありますが、だいたいこう。
以上について、別に誰かに聞かれたから、という訳ではないんですが9/18「しまくとぅばの日」をきっかけに、一度ここで考えを表明しておきます(って言うと、なんだか偉そうですね)。
沖縄好きで、あるいは言語好きで、たまたまこの記事を見つけてくれた方のお役に立てたらいいなと思います。
1.「琉球語? それとも今は沖縄方言っていうんですか?」
簡単に「琉球語? それとも今は沖縄方言っていうんですか?」としましたが、これまで私が受けた質問は、
「あ、ウチナーグチですね」
「沖縄方言ですよね」
「琉球語ってことですか」
「八重山の言葉ですか?」
などとさまざまでした。だから宮古なんだってば、と言いたいところですが、たぶん伝わらない。なので、
2.「知ってます、島ごとにことばが違うんですよね」
と合わせて考える方が分かりやすいかもしれません。
以上2つのよくある反応には、3つの問題が含まれておりまして、沖縄県のことばを取り扱うときの総称として「沖縄」を用いるか「琉球」を用いるかという問題、「◯◯語」か「◯◯方言」かの呼称の問題、そして「どこの方言か」、範囲の問題です。
ではまず総称から。
そこで、「沖縄語/方言」「琉球語/琉球方言」という言葉が指しうる最も広い定義から始めなくてはなりません。
地理的に限定すると、長崎県の五島列島、鹿児島県の甑島列島、種子島・屋久島、吐噶喇列島はここで扱うグループには含まれません。
奄美大島・喜界島以南で話されてきたことばが、最も広義の「沖縄語/方言」「琉球語/琉球方言」が指しうる範囲となります。
↓これがそのエリアとなります(一旦大東諸島は除外して扱います)。
じゃあこの最大にとったときの定義をなんと呼ぶか。
私自身が勉強を始めたときに用いた本に倣って、「琉球諸語」を用います。先生方が使っている述語を使っているだけなのですが、自分なりの動機づけもありまして、まず、
・琉球王国の版図と(ほぼ)一致していること
・沖縄県と鹿児島県にまたがっているために「沖縄」を使いたくないこと
・狭義の「沖縄語」と区別したいこと
の3点から「琉球」が適当と考えます。
若干、版図の話に補足をしますと、奄美群島のすぐ北東に吐噶喇列島がありますが、ここは琉球王国の領土には含まれませんでした。この島々の方言は奄美語と類似を見せ、共通の語彙も見られますが、九州方言の一部として扱うのが通例です(ごめんなさい、詳しくないのであまり突っ込まないでください)。
沖縄島から東に隔たった大東諸島は無人島であったため、ここでは琉球諸語は話されていませんでした。大東諸島に最初入植したのは八丈島出身者であったため、初めは八丈語が、後に沖縄県からも入植があったために八丈語と琉球諸語が接触したことになりますね(すげー興味深い
次に「諸語」の部分。
どう違っているか?
では、この領域で話されてきた言語はどのように”ある”か。
「島ごとに言葉が違っているんですよね」とは言われるものの、「どのように違っているか」は知られていないように思います。
「島ごとに違っている」という表現からは、「島ごとに、てんでんばらばらに違う言葉を話している」という印象を受けますよね。
琉球諸語は、お互いに通じない、大きく5つ(もしくは6つ)のグループから成ります。だから諸語、なんですね。
この区分は地域ごとに大雑把に分けている、というのではなく、特徴を見てみると、実際にこのように分かれているね、ということです。
ですので、沖縄語(「うちなーぐち」)と言ったときには、当然宮古の諸方言は含まれないし、宮古語は八重山語にも含まれないのです(「先島諸島」は宮古諸島+八重山諸島ではありますが、宮古八重山に包含関係はない)。
この階層を「語」と呼んでいるのは、さらにこれらが、複数の方言に枝分かれしているためです。沖縄語では那覇方言と首里方言がよく知られているように、沖縄語の中に那覇、首里、糸満、その他各地の方言がある。なので(学名みたいに、)沖縄語首里方言のように呼びたいのです。
日常的には、「方言」が断片的特徴を指すのに使われることがあります。「共通語にない語」「共通語とは意味の異なる語」「その地域独特の言い回し」などですね。これらは「俚言」と言います。ふるさとのことば、ということですね。
以上で、「○○諸語」「○○語」「○○方言」という呼び方が範囲と階層を示すのに便利であることがお分かりいただけたかと思います(押し付けてるんじゃないですよ!
最後に:なぜ「語派」ではないか
琉球王国の最大版図で話されてきた諸言語を、じゃあ(日琉語族の)琉球語派と呼べばいいじゃん、という意見もありそうですが。「語派」は、何か対立させるときに用いる感じがするのと、2018年の五十嵐陽介先生の論文を読んで「単一の祖語、琉球祖語には遡らず、九州島の諸方言と姉妹群である」可能性が高い旨を知ったためです。
この論文↓
「分岐的手法に基づいた日本語・琉球語諸方言の系統分類の試み」
この論文、すごく面白かったです。