おもちゃ箱と思い出のメロディー
先週の金曜日。
実家で、小学生の頃までのおもちゃ箱を整理した。
数ある思い出のおもちゃの中から
4つのオルゴールが出てきた。
4曲と同時に、思い出が蘇っていく。
赤ちゃん人形の『星に願いを』
まずはディズニー映画『ピノキオ』の主題歌『星に願いを』。
真っ白でふわふわなドレスに、真っ白のとんがり帽子を被った、小さくて可愛らしい女の子のぬいぐるみだ。お尻のあたりにゼンマイがあり、回すと音楽と同時にゆっくりと下から上に首を回転させる。よく首のストレッチで見る動きだ。
…確か、祖母からもらったものだったかもしれない。
控えめにまつ毛が長く、眠っている表情が愛らしくて
フォルムが“赤ちゃん”に近いので
母性が芽生えたような感覚になる。
小さなホルンを手に抱きながら眠っていて
練習中に寝ちゃったのかな?という想像をして笑みがこぼれてしまう。
『星に願いを』がぴったりだ。
ドームの中に広がる海の世界『パート・オブ・ユア・ワールド』
次も、ディズニー映画『リトル・マーメイド』の挿入歌『パート・オブ・ユア・ワールド』。
大好きな曲で、大好きな作品だった。
買った時のことも、眺めていた時のこともよく覚えている。
ドーム型のオルゴール。
透明のドームの中にいるキャラクターたちがそれぞれ前後左右に動き、何かを話しているようにも、歌っているようにも見える。
何度も繰り返しゼンマイを撒き直しては、眺める。
音楽がゆっくりになってきたら、また撒き直して、眺める。
これをいつまでも飽きずに、繰り返していた。
宝石箱だった『くまのプーさん』
またもディズニー映画『くまのプーさん』。
これは宝箱箱のような重厚なケースに、オルゴールが内蔵されているものだ。
アクセサリーをしまっておくような、高級感のある内側の裏地。
小学生の自分にとっては、高価なものをしまう宝箱だった。
中に入っていたのは、当時大切にしていた“ビーズのアクセサリー”と、“たまごっち”。
美しき貴婦人の『ある愛の詩』
最後に、フランシス・レイの『ある愛の詩』。
知らなかったけれど、映画音楽だったようだ。
陶器の人形のオルゴール。
白いドレスに青い傘と帽子を被った、素敵な女性のデザインだ。
底にあるゼンマイを回すと、ゆっくりと全体が回転する。
確かこれも、祖母からのものだ。
これは当時の自分よりも今の自分の方が、魅力的に感じているかもしれない。
“自分では決して買わないであろうもの”が部屋にあるというのは、
「自分1人でここまで生きてきたわけではないんだな」と改めて感じさせるような気がする。
オルゴールの音色は私にとって、“癒し”そのものだ。
最近は、病院などのBGMで聞くことがほとんどだったけれど
実際に目の前で流れるオルゴールの音というのは、スピーカーで聴くよりも何倍も風情があった。
さらに、踊ったり、動いたり。
仕掛けがあるのが楽しくて、ずっと見ていられるのだ。
「音楽」と「記憶」は結びついていると思う。
でもそれ以上に
「音楽の内蔵されたおもちゃ」と「記憶」は、さらに強い結びつきがあるように感じた。
…そして。
オルゴール以外にもお別れした“おもちゃ”がたくさんある。
夜の遊園地でとても綺麗に光った、スティック型のペンライト。
外出時はいつも一緒だった、ブーツの形をしたショルダーバッグ。
もったいなくて最後まで香り袋を使えなかった、紅茶アールグレイをモチーフにした相棒『お茶犬』。
友達と一緒に取り憑かれて遊んでいた、アイロンビーズ。
各地で出会った、ぬいぐるみたち。
…でも、寂しくない。
「これは、あの時にこんなことがあったものだ」
「これは、わかりにくいけどこうして使うものだ」
と、どれも全部、しっかり思い出を覚えていたからだ。
「これ、なんだっけ?」というものが一つもなかったことが嬉しかった。
ちょっとセンチメンタルな気持ちにもなったけれど
同じくらい
温かい思い出に包まれて、今の自分の背中を押してくれているような気がした。
…整理した日。
タイミングよく、金曜ロードショーで『トイ・ストーリー』が放送された。
実際におもちゃたちが私に対してどんな気持ちを抱いているのか、想像することしかできない。長い間おもちゃ箱の中にいさせてしまって申し訳ない気持ちが大きくて、ましてやこんな暑い日も、何年も。辛い思いをさせてしまった。
もしかしたら
「暑いー!」と言っておもちゃ箱から飛び出して、見えないところで涼んでいたのかもしれないし、「何年も放置して…!」と怒っていたのかもしれない。
…でも、少なくとも私は
小学生ぶりに再会できて嬉しかったし
“今の自分”をおもちゃたちに見てもらうことができてよかった、と思った。
「みんなのおかげでここまで成長できたよ」
「今まで本当にありがとう」の気持ちを込めて。
優しいオルゴールが流れる空間の中。
「おもちゃ箱は、思い出の宝箱だ。」と思った。
音楽が少しずつゆっくりになって、やがて止まる。
少しずつBGMが
“オルゴール”から“蝉の声”に戻っていった、数日前のこと。
2024.7.29