奏心声音㉒
暑さで目が覚める朝
九月も後半に差し掛かったというのにこの暑さ
窓の外には勝ち誇ったかのよう前顔で
太陽が笑ってる
風だけは秋の香りが漂い
ぼくたちの周りを踊る
朝食の後に二人で庭の緑に潤いとあいさつ
今日もしっかりと笑顔で
そんな少女は
学校で行われる文化祭の演劇に励んでいる
いったいどんな役をするんだろうか
声を持たない少女が演じる役は・・・
みんなを見守る大木なのか
風で揺らぐ草花なのか
こんなことを思いながらも ここ最近
体調を壊して寝込んでいた僕は
つい毎日の大切な二人だけの時間を持てずにいた
でも僕は知ったんだ
この数日少女が一人で戦ってたことを
声なき少女に与えられた役は
大木でも草花でもなく 『空白』
練習にも参加させてもらえず
誰とも共有できる話題を与えてもらうこともなく
『孤独』という時間だけが少女の一人文化祭のテーマ
ぼくは少女に笑顔の裏側を分かってあげられずにいた
こんなにたくさんの時間を共に過ごして
こんなに近くにいるはずなのに
『笑顔』の裏に隠された『闇』
『大丈夫』の裏に隠された『嘘』
『輝き』の裏に隠された『闇』
当り前のように君の親で 君の横に立っていた僕は
当り前に慣れすぎていたんだろうか
当り前の幸せが音を立て崩れていくような気がした