忘れられない誕生日の話
地方での撮影を終えて新宿駅で解散、
車を降りた僕はすぐさまタクシーを捕まえ、乗り込んだ。
今日も朝からよく働いたもんだ。
ボーとしている間にタクシーは家の前についていて、
さて、お会計をMajissucaで払おう、と思い、ピピっと鳴る機械にそっと財布を置く私。
しかし、読み取りの機械が冷たいかな全くのノーリアクションなのである。
なんだよ不感症かよ、おかしいな、と財布を何度かソフトにスリスリと擦り付ける私。
それでも尚一向に反応をしてくれないので、財布の中身を確認すると、確かにそこにあったはずのMajissucaがないのである。
というかいくらかあったはずのお札も全く入っていないし、普段使っているクレジットカードも入っていない。
しかし、キャッシュカード、と運転免許証と保険証と、
近所のバッティングセンターの回数券はそのまましっかりと残されていたので、
はて、これはどこかに忘れたのか、そもそも家に置いてきたか、なんて自分を疑いながら、
ギリギリ間に合った小銭で何とかタクシーのお会計を済ませ、
とりあえず帰宅し、即、自分の荷物を部屋にぶちまけてみることに。
しかし、探せど探せどやはりどこにも見当たらないのである。
念の為、一緒に仕事をした仲間や車の運転手に連絡を入れるも、いえ、どこにもありません、とのこと。
とりあえずカード会社に連絡して止めてもらった方がいいんじゃない、
とのアドバイスを受け、そうよね、とカード会社に連絡する流れ。
「すみません、ちょっと紛失してしまったみたいで、カードの利用を止めたいんですけど…。」
すると、まずは本人確認のためお名前と、生年月日からお願いします、とのこと。
「えっと、ナカイマサヒトと申します。1985年5月3日生まれです。」
電話口のオペレーターさんが一瞬、ほんの少しだけ躊躇いながらも、我慢しきれず、何か吹き出したのを、私は聞き逃さなかった。
続けて、電話口からの言葉に事態は加速する。
「お客様、本日こちらのカードで17万円、14時38分に使用された履歴があるのですがお心当たりございますか…。」
ここでようやく盗難にあったことを自覚すると、
とりあえず、すぐさまカードを止めてもらって、次のカード会社に連絡することに。
メインのカードと予備のカードを念のために財布に入れて持ち歩いていたので、
今度は2枚目の予備のカードの方の会社に連絡する流れ。
「すみません、カードの盗難被害に遭いまして…。」
すると、まずは本人確認のためお客様のお名前と、生年月日よろしいですか、とのこと。
「えっと、ナカイマサヒトと申します、1985年5月3日生まれです。(本日2回目)」
電話口の相手方が一軒目と同様、深く深く大きく息を吸い込んだのちに、
「左様でございますか、、、」
電話口で何かがジワジワ込み上げているのを、私は聞き逃さなかった。
続けてこちらでも同様に、
「本日こちらのカードで10万円、14時40分に使用された履歴がありますがお心当たりございますでしょうか…。」
とのこと。うん、知ってる。知ってるよ。そんな気がしてたよ。
さらにこれで終わりと思いきや、オペレーターの話にはもう少し続きがあった。
「お客様、大変申し訳ないのですが、ゴールデンウィーク中のためこちらの部署では対応しかねます。大変申し訳ないのですが、こちらの番号に電話をかけ直してもらってよろしいでしょうか。」
なるほど、ここまで来たら最後までやりきるのが男のサガなのである。
紹介された3件目の会社の電話番号を入力する。
「カードの盗難にあって、こちらの部署を案内されたのですが。」
「それではまず、本人確認のため、お名前と、生年月日からお願いします。」
「ナカイマサヒトと申します、1985年5月3日生まれです。(本日3回目)」
電話口のオペレーターは、三者三様にして大きく息を吸い込んだ。
その後、確認するので少々お待ちください、と言った後に保留音がHAPPY BIRTHDAY TO YOU〜のメロディだったら、
オチとして完璧だったなと思いつつも、そんなことは実際には起きなかった。
僕は如何にこの話をスベらない話にできるか、腕の見せ所だなと思いながら、心の台本をしっかり書きながら友人達のところへ向かった。
もう何年も昔の話になるけれど、忘れられない誕生日の話。
もし稀代の窃盗団の一味だとして、どこから何を盗んでみたいですか?
先日このnoteの企画でそんな質問を投げかけました。どうやら僕は子供の頃から、泥棒や窃盗団などに人を欺くタイプのエンタメに滅法弱いらしい。実際に人のものを盗んだらアカンけど、作品の中でなら何を盗んでも自由なのである。
某TSUTAYAでアルバイトしていた頃からプリズンブレイクは名作である。
何を盗むかって、刑務所から無実の兄を、である。(ただこのシリーズは続編が出るたびに完全に惰◯、もうタイトルと内容が噛み合わなくなってくるところがツッコミどころ満載です。)
泥棒作品のオチとしてこれ以上完璧なものはないかと思われます。
「奴はどんでもないものを盗んでいきました、あなたの心です。」
伊坂幸太郎作品には、黒澤という泥棒がよく出てきて、
彼のセリフがどれも素敵なのである。
「人生については誰もがアマチュアなんだよ」
ちなみにルーブル美術館から絵を盗む方法を知りたい方は、この漫画に書いてあります。
夢の印で(MUJIRUSHI)、浦沢直樹とルーブル美術館の胸熱のコラボ。
最新では圧倒的にこちらの海外ドラマ、
どうせ盗むなら造幣局ごと盗んでやろうぜ、的な。スペインの作品、回を追うごとにスケール感が増していて、続編が待たれます(全◯待機)。
ちなみに筆者も歌詞の中で泥棒しがち。
「両手あげて床に伏せろ、今すぐ一億用意しな!」
(歌い出しから泥棒してます。)
「さあ世界中の愛を盗みに行こう」
(Bメロあたりで泥棒してます。)
とか散々言っておきながら、セキュリティにはみんな気をつけようね、カード無くしたらすぐに連絡しようね、という教訓のお話でもありつつ、もしもそんな事が起きたら、すべらない話にでもして、元をとりましょうね、という話。当方すでに元はとったと思われ。
それではみなさん良き週末を。大雨の地域の方、安全を願ってます、気をつけてね。
BIGMAMA 金井政人