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トリックスター(「悪ふざけ者」)【エッセイ】二八〇〇字

 「嘘ばかりつく人間だと思えば、こちらは正反対を信じればよい。嘘と真実を使い分けるから厄介である」とは、われらエッセイストの元祖さま、ミシェル・ド・モンテーニュの弁。
 世の中ウソばっかりとは言わないが、「真実は何なんだ?」と迷うことが多い。なので、「口喧嘩に勝つ秘訣は、ウソをつくこと」というのは、持論。ウソに動揺しているうちに次々に口撃すると、勝てる。選挙も同じか? だとしたら、そりゃまずい。通訳ならぬファクトチェック・ロボットが欲しくなる。

 今回の兵庫県知事選。一連の問題を無罪放免するほどに知事としての実績があった、ということか? ほんとにそうか? 全会一致で可決した不信任決議は何だったのか? 誰しもが思うだろう。(「裏金」などと違って)『反社会的行為』じゃないし、市民に不利益なことはないという認識か? どうもしっくりこない。たとえどんな実績があろうが、「パワハラ」の事実だけで、(昭和の時代と違って)一発退場ものだろう。ところが、あにはからんや、メディアや議会による斎藤元彦氏への振る舞いが、ハラスメント(バッシング)と受け止められ、「判官」になったということか。どうもおかしい、納得いかん。
 さらにおかしい、というか異様なのが、立花孝志氏の行動だ。自らの当選は目指さず斎藤氏の援護のために立候補するという前代未聞の出来事である。先の都知事選の「ポスタージャック」もそうだが、既成概念にとらわれない発想力には、(ちょっとだけ)敬意を表する。しかし今回の行為は、倫理上、選挙の公平さの観点から大いに疑問だ。
 街頭演説は、斎藤氏の演説の後に同じ場所でマイクを握る。そして、演説内容は、公約ではなく、「斎藤氏は悪くない」という援護射撃。「あれは内部告発ではない」などと主張し、「パワハラ」や「おねだり(物品の受領)」も否定する。それどころか、選挙報道を抑え目にしているテレビや新聞に対して「メディアは真実を隠している」「メディアが言っていることは何かおかしい」「(斎藤氏は)悪いやつだと思い込まされている」などとマスコミの信頼を毀損するような発言を繰り返す。そして、決まり文句「僕に(票を)入れないでくださいね」と、笑いを取る。話の巧みさで、「ウソ」が「真実」になり、信じ込ませ、聴衆を熱狂させる。新興宗教の教祖様状態である(都知事選でも目撃した光景ではあるが)。
 そして、この演説を動画化し、ネットに拡散する。100本以上の動画数になるという。今回の選挙に関連して投稿した動画の再生回数は、「立花孝志チャンネル」で合計約1,500万回。立花氏公認の切り抜きチャンネルの合計再生回数が約1,300万回。合わせると約2,800万回(他方、「斎藤元彦」チャンネルの再生回数は約120万回)となった。

 百条委員会の奥谷謙一委員長の自宅前で、こんな恫喝まがいの行動もとっていた。
 「ひきこもってないで出てこいよ。これ以上脅して奥谷が自死しても困るので、これくらいにしておく」という演説をしている。(目撃した「じたくん」のX投稿から)

 公選法では、候補者1人あたりの選挙カーや配布ビラの数などが定められている。つまり、この立花氏の援護射撃を、(斎藤氏が依頼したものではないようだが)依頼したことになれば、完全に公選法違反になる。
 立憲民主党の小西洋之参院議員が公選法違反の疑いについて、こう解説している。

A:斎藤氏 B:立花氏
「【総務省への確認】一般論として候補者Bが候補者Aの当選のために街宣車、拡声器、選挙ビラ、政見放送などを使用することは数量制限等に違反し公選法の犯罪となる。当選者AがBと共犯関係にあればAは失職し公民権停止となる。例えばAとBが同じ場所で演説会を連続開催する場合も犯罪は成立し得る。
■公選法抜粋 (自動車、船舶及び拡声機の使用) 第百四十一条 次の各号に掲げる選挙においては、主として選挙運動のために使用される自動車又は拡声機は、公職の候補者一人について当該各号に定めるもののほかは、使用することができない。
【解説】 BがAの当選のために自身の街宣車を使用することは「公職の候補者一人について、自動車一台」の制限を破ることになる。また、AがBのこの犯罪と共犯関係にあることが裁判で確定し罰金以上の罪となれば、Aは失職し公民権停止となる。
(中略)
※ 以上と同様の論理で、選挙ビラ、政見放送などもBに犯罪が成立し、Aが共犯であれば共に(Aは失職の上で)公民権停止となる」

 斎藤氏との結託がないとすると、立花氏は、何を目的に今回の行動をとったのか。最初、YouTubeの広告収入ビジネスと思ったが、5年前から収益化は無効にされているらしい。となると、斎藤氏支援で実績をつくり、先々の選挙への布石とするということなのだろうか。
 今回の投票率は、55.65%。高率とは言えないが、前回よりも14.55ポイントも上った。詳細な分析が待たれるところだが、日経電子版の情報から、そのアップ分の多くは、ネットを情報源とするZ世代が中心と推測する。立花氏の演説動画の拡散が影響しているのは間違いないだろう。
「10〜30代の斎藤氏への投票数は稲村氏の3倍だった」
(日経電子版:2024年11月17日 20:00)

 作家の佐藤優氏は、こう指摘する。「斎藤さんを既得権益に固執する勢力から潰されようとしている英雄であるという言説がインターネット空間で広がるにつれて、(当初は批判的だったのが)今度は斎藤さん擁護に回りました。ここには『何が真実であるか』ということに拘らないニヒリズムがあると思います」と。(朝日新聞デジタル・コメント欄)

 近年、「エスタブリッシュメント」という言葉をよく目にする。「既得権層」という意味。前回のトランプ大統領が誕生したときからだろうか。「アメリカの有権者の中では社会を動かしてきたエスタブリッシュメントと言われる人々に対して不信感を抱く人が多くいました。この反エスタブリッシュメントのマグマはとても強く、その中で『トランプ大統領』が誕生したのです」というような文脈で。(Yahoo!ニュース:渡辺靖・慶應大教授)

 この「既得権層」には、既存の政治家、政党、新聞・テレビなどのマスメディアが該当する。立花氏の演説にも、「メディアは真実を隠している」「メディアが言っていることは何かおかしい」「(斎藤氏は)悪いやつだと思い込まされている」、そして、「真実を伝えるのはネット」となる。
 つまり、「『デマを流すマスメディアvs真実を伝えるネット』という対立構図に持ち込むことで、大きなうねりを作り出しました」と総括している(評論家・真鍋厚氏 「東洋経済」オンライン11/22(金) 6:41配信)。
 同感である。この先の選挙は、みながSNS、動画を乱用するだろうし、ネット空間での選挙戦になり、「ウソつき合戦」になるのは明らか。いかに嘘つくかが、ケンカに勝つ秘訣になる。それに面白がる若者の投票率が上がり、全体の率が上っても、喜べるのか? それでいいわけがないでしょ?

「trickster」には、1)の「悪ふざけする人」の意味の他に、2)もあります。この話の主人公の場合は、2)だったかもしれません。
1)someone who plays practical jokes on others
2)someone who leads you to believe something that is not true

(ふろく)
「署名サイト - Change.org」では、兵庫県知事選での出来事についても取り上げています。私もこのサイトの活動には共鳴することが多くときどき署名しています。わずかですが、月極で寄付もしています。「神宮外苑の樹木を切らないで」キャンペーンでも参加しました。そして、今回も。ポチすると寄付のお願いがありますが、寄付無しで終わっても成立します。^^

「兵庫県知事選に関連した立花孝志氏の行為に対して、公正な調査を求めます」


「百条委員会による斎藤元彦氏の疑惑の徹底解明を求めます」


(おまけ)
怖~いお姉さまが、今回も期待通り^^。吠えていただけると思ったので、私は不問にしました。(2回目の立候補でしょ? 新人と違うのだからさ)

東京新聞朝刊(2024年11月27日)

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