節酒のススメ【エッセイ】二四〇〇字
「悪いこと言わない、酒、やめた方がいいよ」
週2日の休肝日でも、なかなか実行できない、そんなあんた! 週2日なんて言っているからできないんだよ。思い切って、酒をやめてしまいな。命に関わるような病気で入院したと思ってさ。やめるほうが、楽。どうしても飲みたければ、週2日だけ飲む。逆にする。このほうが飲める日が待ち遠しく、楽しみになってきて、酒の美味さが増すってもんだ(ホント、そう思うよ、今)。でないと、ガンマ何某の数値が4桁(1,568 正常値:13~64)で緊急入院し、一時は死線をさまようことになったワタクシみたいになってしまうよ。
半世紀以上も飲み続けた結果が、このザマ。特に若いときは、ほんとに無茶な飲み方をしたものだ。
学生時代にバイトしていた店のオーナーに誘われて参加したファミレスのチェーン化プロジェクトで群馬・太田にいた頃の話。
実験店に勤める二十歳そこそこの男と、慰労会でサシで呑むことになった。相手は、元暴走族のリーダーをやっていたという、兄ちゃん。突然、大学出立てで入ってきて、偉そうなことを言うワタクシが気に入らなかったようだ。この先、この暴走族くんを手なずけておけば仕事がやりやすい。「上等じゃないか」とばかりに受けることにしたのだ。
一升瓶を2本置き、交互に相手のコップに注ぐ。同時に飲み干す。どちらかが倒れるまで繰り返すサドンデス。瓶が空きそうになったとき、こちらの様子がちとおかしい。途中から映像が歪んできてグルグル回り始めたり天地がひっくり返ったりする。そこで倒れたようだ。誰かに背負われて車に乗せられているところで画面が黒くなり、気が付いたら蒲団の中、翌日の夕方だった。初めて(で最後だけど💦)経験する二日酔いならぬ、四日酔いであった(このあと、暴走族くんは良き協力者になってくれたので、意義ある四日酔いではあったのだけど…)。
さすがに、こんな滅茶苦茶なことはこのときだけだったが、これに類することは多々経験している。「時代ですねえ」なんだけども、酒に強いことは自慢できる事とされていた。逆に、呑めない、弱い(特に)男の中には、劣等感をもつ者さえいた、そんな昭和な時代だったのだ。この半世紀余りで一升分、いや一生分の酒を呑んできたということなのだろうが、あまりにも無駄に呑みすぎてきた。酒を味わうのではなく、ただただ酔うために呑む酒だった。
レッドカードからイエローカードに変り、再度生きることを許されやり直しを命じられた今、素直に反省し、自分が調理した食事を酒なしでも美味しくいただいている。と言いつつも、月1、2度の楽しみだった外食ができないのは辛い。焼肉や豚カツの肉類は、調理次第で美味しく食べられる鶏ムネ肉でなんとかなることがわかったので、我慢ができる。
が、しかし、
「鰻重と白焼きの特上! 肝焼きに肝吸い、お銚子常温で2本、と、先にお新香ね」
なんて言えないのが、とても辛い。
退院前に栄養士さんから脂質制限食についてのレクチャーを受けたのだが、「鰻重はダメですか」に訊くと、「並くらいにすれば食べてもいいですよ。でも、日本酒はもちろんですけど、白焼きはダメです」との、優しさに欠けるご回答。やはり、一日でも早く寛解を達成して、堂々と鰻屋に行ける日を目指すほかないようである。
こうしてかろうじて禁酒できているのには、ノンアルコール飲料の貢献が大きい。ビールを筆頭に、赤・白ワイン、スパークリング、レモンサワー、梅酒もある。そして、なんと日本酒もある。しかし、ビールやスパークリングなどの炭酸系は、喉越し感で本物を飲んでいる気分になれているように思うが、日本酒は、ちょっと無理がある。
最近スーパーのノンアルコーナーに行くようになって気が付いたのだが、低アルコール度飲料のコーナーも拡大されている。若者を中心にその需要が高まってきており、メーカーも従来のストロング系の生産量を抑え、若者向けにシフトしているようだ。
ところで、このトレンドを象徴する「ソバーキュリアス」という言葉があるそうだ。
Sober(しらふ)とCurious(好奇心が強い)を組み合わせた造語で、「自主的断酒」を意味し、欧米の若者の間で使われているらしい。本来お酒を飲める人が「お酒を飲まない」もしくは「少量しか飲まない」というライフスタイルや考え方。そして、このようなソバーキュリアスを実践する人のことを、「ソバキュリアン」と呼ぶようだ。
「ソバーキュリアス」に関する本は何点が出ている。
上掲の本でソバーキュリアスのメリットを上げている。
1.睡眠の質が良くなる
2.自由に使える時間が増える
3.金銭的な余裕が生まれる
4.健康になれる
5.きれいになれる(←これはどうかね? 疑問 💦)
ちなみに、ワタクシの禁酒生活で感じているのは、こうなる。
1.食事が美味しくなる(ほんとに美味しい)
2.快便である(これまでの1.5倍は出ている)
3.(半世紀続いた)下痢がなくなった
4.(個人的過ぎるが)脊柱管狭窄症が改善した
5.夜時間を有効に活用できている
さらに、ソバーキュリアスのニーズに合わせて、アルコール0.0%のカクテルが味わえるバーが全国に何店舗かある。居酒屋などのメニューにもビールだけでなく他の飲料もノンアルが増えているようだ。
ここまで書くと、「呑まなくてもいいじゃん」と思われるかもしれない。しかし、「ノンベイ魂」が許さない。呑まないことのメリットを超える何かがある。それは、「酒は、ノンベイ種族にしか通じない『言語』」になっていることである。