雨【エッセイ】六〇〇字
「あめあめ ふれふれ かあさんが」と、北原白秋先生は、「ぼく」の歌を作ってくれた。
「ぼく」を嫌う人は多いが、「ぼく」を歌にしてくれたり歌ったりと、嬉しいことも、ある。
かけっこが速い子とか、玉入れや綱引きとかが好きな子は、運動会の前日、てるてる坊主をぶら下げて、「てるてる坊主 てる坊主 あした天気にしておくれ」と、運動会には来てくれるなと歌うが、とても、かわいい。
野球部の子は、試合の日は晴れてくれというくせに、猛練習が続くと、「雨々 ふれふれ もっとふれ」と、八代亜紀の『雨の慕情』を、振りをつけて、涙目で歌う。
彼女ができたりすると、「もっと 降れ ふれ 相合傘 道行」と、はっぴぃえんどの、『相合傘』を歌う。ところが、彼女とディズニーランドでデートするときは、「雨だって ダメだって 本日ハ晴天ナリ」と、槇原敬之の『本日ハ晴天ナリ』を歌う。かなり身勝手だが、気持ちがわからないわけじゃ、ない。
かように結構楽しいものだ。が、一つ悲しいことがある。「ぼく」の歌を作ってくれた先生が、開戦3年前に、『萬歳ヒットラー・ユウゲント』の歌を作ったことだ(朝日新聞社の依頼で)。当時は、先生やメディアだけでなく、国民全体が知らぬ間に、無謀な戦争に突き進んでいったんだ。
そして最後は、真っ黒になった「ぼく」が降ってきて、終戦を迎えた。
※2019年9月14日にアップした作の再掲です。一部編集しました。
※画像は、同年9月29日に広島平和記念資料館で撮影したものです。