白いバラ
数十年生きた中でどん底だった。新緑の季節の空は青く、柔らかな風が緑を優しく撫でた。
眩しく差し込む太陽の光さえ邪魔に思えるほど孤独だった。
空っぽの私はくる日も来る日も縁側の隅っこで小さくなって、渇いた世界を眺めていた。
無情に時が過ぎてゆく。
食欲もない、
やる気もない、
意欲もない、
楽しみもない、
プライドや意地すらも見失った。
アイデンティティを失った呼吸だけが
ただただ生きている証だった。
なぁ、ほら、見てみ!綺麗に咲いてるやろ?
鉢植えに上品に咲いた1輪の白いバラ。
ほらっ、可愛らしいやろ。
大きめのつっかけを履いた祖母がシワだらけのやわらかな笑顔でこちらに見せてくれた。
歳の離れた祖母には当時20代の私の悩みなんて説明してもわかる由もない。
戦争の時代を生きた人生の大先輩にとっては私の悩みなんてちっぽけなもの。
なのに、なにも聞かずにそんな孫を察してほっこりと包んでくれた。
肌を撫でる暖かい風は祖母の優しさそのものだった。
*2020年7月11日に永眠した祖母と私の物語*