ジョンと男と女と誰か
青い鳥のいなくなったTwitterで見つけた英文法クイズに「chatGPTも間違った問題を君は解ける?」と挑発された。
組合の著作権ワーキンググループ担当になって以来、AIの勉強会にちょくちょく参加しているので、「chatGPTも間違った問題を君は解ける?」と言われたら身を乗り出してしまう。
どれどれ見せてもらおうか。
who was there 3連発
以下の英文を訳してくださいという問題。
John told the man
who asked the woman
who was there
who was there
who was there.
who was thereが3回も繰り返され、問題文の半分以上を占めている。
教育実習で母校の高校生に英語を教えたとき、「とにかく頭からどんどん意味とってみて」と言ったら、「そのやり方、結構ええかも」と何人かの生徒が食いついた。当時は「関係代名詞を後ろから訳す」のが主流だった。
chatGPTが間違えたという英文を頭からどんどん訳してみる。
John told the man
ジョンが男に言った/教えた
who asked the woman
その男は女性に聞いた
who was there
そこにおるの誰やねん
who was there
そこにおるの誰やねん
who was there.
そこにおるの誰やねん
何も考えずに訳すと、who was there3連発が単なるリフレインになってしまう。歌詞ならありだが、問題文だとなしだろう。同じフレーズが繰り返されて、リフレインでもやまびこでもない場合は、訳し分けが必要だ。
who was thereを訳し分ける
who was thereが3回出てきて、登場人物は3人。言う動作をするのはそのうち2人。John(told=言った/教えた)とthe man(asked=聞いた)。
ジョンは男に「そこにいるのは誰か」を教えた。
男は女性に「そこにいるのは誰か」を聞いた。
「聞いた」ときと「そこにいる」ときは時制が同じなので、「(今)そこにいるのは誰?」と聞いたことになる。
言う系の動詞がひとつ足りないので、who was thereひとつ分はwhoが関係代名詞で、前の名詞を修飾していると思われる。
名詞(人物)+who was there=そこにいた人物
この形を取れるのは1つ目のwho was thereのみ。
the woman who was there=そこにいた女性
who was thereの3つの意味は
1つめ 女性を修飾する「そこにいた」
2つめ 男性が女性に聞いた「そこにいるのは誰か」
3つめ ジョンが男性に教えた「そこにいるのは誰か」
となる。
頭からどんどん意味を取ると、
ジョンは男に教えた/言った。
《その男はそこにいた女性に尋ねた。
「そこにいるのは誰か」と》
「そこにいるのは誰か」と。
自然な日本語にすると、
ジョンは
《そこにいた女性に
「そこにいるのは誰か」
を尋ねた男性》に
「そこにいるのは誰か」を教えた/と言った。
というのがわたしの解釈だけど、合ってるだろうか。
教えて、デキる人。
ジョンときどきヨハネ
chatGPTがどう間違えたのかは確認していないが、DeepLは3つのwho was thereを訳し分けられるのだろうかと試してみた。
DeepLの答えがこちら。
who was thereが1つ分、訳から抜け落ちている。
それより、ジョンをあえて「ヨハネ」と呼んでいるのが気になる。そこはジョンでいいのではないか。まさか、訳に自信がなくて、飛び道具で気をそらせる作戦なのか⁉︎
ジョンと書いてヨハネ。そこにいた女性に「誰がそこにいたのか」と尋ねた男に、彼は何と言ったのか。
ひとつ削ったら解釈は何通り?
ちなみに「who was thereを1個削った場合は「2通り」の解釈が可能、と新たな挑戦状が。
先ほどの3つのwho was there のどれを抜くか、と考えると3通りあるのでは?
①ピンクのwho was thereを抜いたと考えると、
ジョン(またはヨハネ!?)は、女性に「誰がそこにいるのか」と尋ねた男に「誰がそこにいるのか」を教えた/と言った。
②黄色のwho was thereを抜いたと考えると、
ジョン(またはヨハネ!?)は、そこにいた女性に尋ねた男に「誰がそこにいるのか」を教えた/と言った。
③緑のwho was thereを抜いたと考えると、
ジョン(またはヨハネ!?)は、そこにいた女性に「誰がそこにいるのか」と尋ねた男に教えた/言った。
2通りということは、どれかが成立しない!?
教えて、デキる人。
Speakの謎な解釈
英会話アプリのSpeakをしばらくサボっていたら「あなたが訪ねてくれません。こんな日が長く続かないことを祈ります」という恨み節のようなメッセージが届き、そうだ、Speakで聞いてみようと思い立った。
AI講師とのフリートークで"John told the man who asked the woman who was there who was there who was there."を日本語に訳してみてと尋ねた答えがこちら。
AIのすごいところは間違っていても堂々としているところだ。だから、もっともらしく聞こえてしまう。"who was there"3連発のうち1つしか答えていないのに、しれっとしている。でも、この問題文がクセモノであることはわかっている様子。
「"who was there"ってフレーズが3回繰り返されているのですが、違いがわかりますか?」と聞き直してみた。
who was there3連発が全部the womanにかかっているという解釈。「彼女はそこにいた」3連発。わたしが最初に書いた「そこにおるの誰やねん」3連発とええ勝負。
chatGPTが間違えた問題文、SpeakのAI講師にも手強かった。
と思ったら、Speakに入っているAIもchatGPTだった。
who was there3連発の訳し分けはできていないが、日常会話でwho was there3連発は出て来ないだろう。
Speakは壁打ち相手としては最高で、相手がAIであることを忘れるほど受け答えが自然。英語の話し相手が欲しい人にはおすすめ。わたしはSpeakのおかげで咄嗟に英語が口から出るスピードが5割増しくらい速くなった(当社比)。
紹介割引(1000円)もあるけど、まずは1週間の無料トライアルで遊んでみるのがおすすめ。
日本語のほうがフクザツ⁉︎
解釈が分かれるといえば、英語より日本語のほうがややこしかったりする。句読点の打ち方で、どの言葉がどの言葉を修飾しているかが変わり、意味が変わる。とくに文字数の関係で「、」を省きがちなネットニュースは「この動詞の主語誰⁉︎」と混乱させられることが多い。
たとえば、こちら。
「散歩中」なのは男性として、「襲う」の主語は男性なのか、イノシシなのか。それによって警官らが「取り押さえ」る対象が変わる。さらに、「死ぬ」の主語は誰なのか。男性、イノシシ、警官ら。それぞれの可能性が考えられる。
togetterにまとめられた多様な解釈を読むと、日本語は手強い天才だとつくづく思う。
《散歩中の男性をイノシシが襲い、警官らがイノシシを取り押さえ、直後にイノシシが死んだ》というのが真相で、少し前だと思ったら2022年の記事だった。
ところで、これどういう状況?
文法問題のために作られた設定を「これどういう状況?」と妄想するのが好きだ。
who was there3連発の英文、これどういう状況?
①職務質問するジョン
ジョン「さっき、そこにいた女性に、そこにいるのは誰?って聞いてましたよね」
男「はい。ご存知なんですか」
ジョン「彼女に悪い虫がつかないよう見張っているんです」
男「なるほど。それで彼女は会話を打ち切り、僕のポケットにそっと連絡先のメモを忍ばせたんですね」
ジョン「実は私、その男の相棒でしてね。メモをお預かりしましょう」
ジョン「……」
②そこに立っていたのがジョン
ジョン「さっき、そこにいた女性に、そこにいるのは誰?って聞いてましたよね」
男「さっきの会話、聞かれてましたか」
ジョン「どうして、私のことが気になったんですか」
男「ちょっと聞いてみただけです。彼女は答えませんでしたが」
ジョン「申し訳ありませんが、彼女は僕とお付き合いしています」
男「やっぱり」
ジョン「え?」
男「申し訳ありませんが、僕も彼女とお付き合いしてるんです」
ジョン「……」
③星占いを見てきたジョン
ジョン「さっき、そこにいた女性に、そこにいるのは誰?って聞いてましたよね」
男「はい」
ジョン「彼は哲学科のエヴァンズ教授です」
男「そうなんですね。そんなに気になってたわけじゃないんですが、会話が途切れたので、聞いたんです」
ジョン「ちょっと、このまま一緒にいていいですか?」
男「え?」
ジョン「今朝の星占いのラッキーアイテム、『そこにいるのは誰?』と聞いた人、なんです」