「プリン出して」と言うと「プリン」とプリントした紙が出てくるが間違ってはいない
おじゃる丸「言われたもの出しますからくり」
脚本に参加しているEテレ「おじゃる丸」26期の新作「言われたもの出しますからくり」が2023年5月9日放送された。
数か月すると再放送があるが、5月16日あさ6時50分までNHKプラスで見逃し配信を見られる。
公式サイトによるあらすじは、こちら。
欲しい「プリン」が出て来ない話
ざっくり言うと、「言われたもの出しますからくり」が、「欲しいものを出してくれない」話である。
トミーおじいちゃんの新しい発明品「言われたもの出しますからくり」。おじゃる丸は大好きな「プリン」を出してもらおうとする。「言われたもの出します。エイッ」とからくりが出したのは、「プリン」とプリントされた紙。
「おじゃる丸君、もう少し丁寧に説明してあげてください。なにせまだ開発中ですから」とトミーが言う。
おじゃる丸は「ポンコツ」呼ばわりするが、開発者のトミーに言わせれば、「欠陥品なのではなく、開発途上」なのである。
おじゃる丸は「食べられるプリン」と説明を変えるが、今度は白いご飯に「プリン」と描いた海苔をのっけたものが出てくる。
食べられるプリン。間違ってはいない。
「おじゃる丸君、もう少し丁寧に説明してあげてください。なにせまだ開発中ですから」とまたもトミーが言う。
「黄色い卵を固めて作ったプリン」を出してもらおうとすると、卵を固めた「プリン」の3文字が出てくる。これも間違っていない。
「おじゃる丸君、もう少し丁寧に説明してあげてください。なにせまだ開発中ですから」とまたまたトミーが言う。
作り方を細かく指定すると、形は違う(円錐型)が、ベースが卵色でてっぺんがカラメルのプリンらしいものが出てくる。だが、スプーンを突き刺した途端、形が崩れて液状に。「マロがとろける前にプリンがとろけてしまったでおじゃるっ(涙)」とおじゃる丸。
「見たことのないものは作りづらいのかもしれません。なにせまだ開発中ですから」とトミーに言われ、エボシの中にしまってあった今日のプリンを取り出すおじゃる丸。「ぷるんとしていて、スプーンでつつくと、ぷるぷるゆれるプリン」と現物を見せながら指示を出す。
ついに、望む形のプリンが出力される。が、弾力があり過ぎて、スプーンが突き刺さらず、跳ね返されたおじゃる丸は天高く飛ばされ、シャクに助けられる。
「なにせまだ開発中ですから」とトミー。
(そう言えば、シャクは紙吹雪を出せたりするので、プリンも出せるのではないだろうか。と思うのだけど、ドラえもんの四次元ポケットのように万能にしてしまうと、なんでもシャクに頼んで解決してしまうので、花吹雪などの演出機能にとどめているのかもしれない。それで言うと、エボシの中は「もしもの世界」も飲み込む四次元世界なので、プリンまみれ世界に迷い込む夢も叶えられそう……)
からくりにプリンを出してもらうことを諦めたおじゃる丸に代わり、カズマが「なんでもないただの小石」をお願いすると、上がカラメル色で下が卵色のプリンのような色合いの小石が出てくる。「なんでもないただの小石」とはどういうものか、説明を始めるカズマ。「データが不足しています」とからくり。
どんな話か、本編で観たくなった方は、5月16日あさ6時50分までNHKプラスで見逃し配信を見られるのでぜひ(2回目)。
まるでプロンプトのトライ&エラー
放送されると、「ChatGPTネタみたい」という感想が多く寄せられた。
書いたわたし自身がそう思った。
プロットの日付が2022年10月4日。すぐにお買い上げになってシナリオに進み、決定稿の日付が10月20日。手こずるとプロットだけで5稿6稿と改訂稿(別名「書いて行こう」)を重ねてしまうわたしにしては、かなりスムーズ。ChatGPTの公開が11月なので、「プロンプト」(ChatGPTの回答を引き出すために指示する文言のこと。「呪文」とも言われる)という言葉もまだ知らなかったが、ChatGPTと遊ぶようになった今、「まるでプロンプトのトライ&エラーの話だ」と身につまされている。
「言われたもの出します。エイッ」とからくりが自信たっぷりに出した「プリン」は、おじゃる丸が思い描いているプリンとは違うのだが、プリンであることに違いはない。
「プリンとは、こういうもの」という「共通認識」がない相手には、まず、「プリン」がどんなものであるかを説明しなくてはならない。
「言われたもの出しますからくり」は、言われたものを出す。言われていないものは出せない。出力された結果がまずいのは、指示がまずいのである。
間違ってはいないが、思っているものと違う。その溝を埋めるのは丁寧な説明だ。「step by step(一歩ずつ)」と指示すると、ChatGPTの回答の精度が上がるということを知ったのも最近で、わたし自身もアップデート中だが、ChatGPTも日々進化している。AIと人間が互いに歩み寄り、成果物の正確性を上げている。
トミーが繰り返す「丁寧に説明してください」と「なにせまだ開発中ですから」は、使いこなそうとするユーザー側とより使い勝手の良いものにしようとしのぎを削る開発者側の攻防を言い得ているように思える。書いた当時はそこまで深いことは考えず、トミーが言いそうなこと、という「おじゃる丸」世界から発想したセリフだったのだが。
ちなみにChatGPTに「プリンとはどういうものですか?」と聞いてみたところ、
《「プリン」とは、卵、牛乳、砂糖、バニラなどを混ぜて焼いた、なめらかで滑らかな食感のデザートのことを指します。一般的に、円形のカップ状の容器に入れて作られます。プリンの原材料となる卵や牛乳、砂糖は基本的なものであり、バニラやキャラメルソース、フルーツなどを加えることで味や食感を変化させることができます。プリンは、冷たくして食べることが一般的で、デザートとしては非常にポピュラーなものの一つです。また、世界中の様々な国や地域で様々なバリエーションのプリンがあり、それぞれの文化に根ざした独特の味わいがあります。》
とのこと。「言われたもの出しますからくり」にこう伝えたら、欲しいプリンを出してもらえたかもしれない。
プリンをAI生成させる話
「ChatGPTと3Dプリンターを組み合わせたら実現可能では?」「プリンをAI生成させる話」といった感想もあった。
脚本を書いていた当時はAI絵師に絵を描かせて遊んでいた頃だったかもしれない。「膝枕」の絵を描かせようとしたのだが、「膝枕」が何であるかをなかなか理解してもらえず、「膝に敷く枕」だったり、「膝が枕」になっていたり、トンチンカンなイラストが量産された。膝枕文化に疎いAI絵師相手に英語で「膝枕とは」を理解させるのに苦心した経験が、「プリンはプリンだけど欲しいプリンじゃない」話につながったのだと思う。
「言われたもの出しますからくり」が出力するときのかけ声「エイッ」は「AI」を意識している。
からくりのキャラクターデザインのイメージがあったら描いてみてと言われ、脚本と一緒に提出したのがこちら。
このポンコツ感は、AI絵師にはなかなか出せないのではなかろうか。
出来上がったものが結構再現度が高く、感激した。
本編を観たくなった方は、5月16日あさ6時50分までNHKプラスで見逃し配信を見られるのでぜひ(3回目)。
「人工知能搭載膝枕」に時代が追いついた!?
ポンコツAIと言えば、ナビ搭載膝枕ナビコ。
短編小説「膝枕」の外伝として生まれた「膝枕ナビコ」シリーズのヒロイン。
ナビ主の指示にトンチンカンな返しをするナビコ。ナビ主は言い方を変えて、なんとか歩み寄ろうとする。「AIと共通認識を持つのって難しいよね」のズレで笑わせる落語のようなシリーズだが、プロンプト・コミュニケーションの難しさと面白さという視点で読んでみると、なかなか奥深いかもしれない。ナビ主が学習して上手に指示できるようになれば、ナビコの回答も賢くなるのだろう。
短編小説「膝枕」の外伝として生まれた「膝枕ナビコ『ナビ主さんは異常です』の巻」(2022年2月3日公開)を皮切りに「外伝の外伝」が生まれ続け、「ニーナ」や「ナビーシャ」といった新キャラも派生。
ナビコに時代が追いついてきた!?
その前に、「膝枕」に時代が追いついてきた!?
2007年にプロットを書いたときはSFだった「人工知能搭載膝枕」がルンバやアレクサみたいに日常に溶け込む日も、そう遠くないのかもしれない。
タイトル画像のプリンは
タイトル画像のプリンは上野御徒町にある卵専門カフェ「egg baby cafe」のもの。
いつもなのか、たまたまメディアで取り上げられた後だったのか、すごい行列で1時間半待ったが、待った甲斐のある理想的なプリンだった。スプーンでつついたときの弾力と口に入れたときのとろけ具合も絶妙。おじゃる丸を案内したら歓喜すると思う。
内装や食器も可愛かったでおじゃる。
プリンいろいろ
2024年12月4日追記。iCloudのストレージ値上げのお知らせメールを受け取り、カメラロールを整理。プリンの写真がいくつか出てきたので、「みんなのフォトギャラリー」用にこちらに。