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「成功事例を鵜呑みにする」は計画嫌いゆえの失敗だ(3/3)

3回目で最後となる今回の話に入る前に、これまでの2回を簡単に振り返ることにしましょう。

日本企業はかつて欧米の先進企業を模倣して成長してきました。欧米の進んだ技術を学び、それを日本人の工夫と情熱でさらに発展させ、ついには世界のトップに君臨した日本企業の自尊心は並大抵ではないはずです。
戦後の高度成長から綿々と続くこのような成功体験が、日本企業には染み付いています。

ところがバブル崩壊のころからそれがうまくいかなくなり、安易に模倣に走った日本企業の多くが本来の強みを失い、元も子もない状況に陥ってしまいました。
つまり、昨今(とは言っても既に30年近くは続いていますが…)の日本企業の躓きは、欧米企業の成功事例を猿まねしたことから始まったと言うことができます。

それではなぜ、そんな情けない状況に陥ってしまったのでしょうか。
2回目となる前回は、その理由と根本原因について考察しました。

原因は、模倣の対象が技術から仕組みへと変化したことにありました。仕組みの背景にあるのは個人の工夫や情熱ではなく組織のガバナンスで、さらにその向こう側には組織の文化や価値観が存在します。
欧米の成功事例は欧米企業の文化や価値観の上で成立していたわけですが、それらは、日本企業のものとはまったく違っていました。
つまり、組織文化や価値観が異なる欧米の成功事例を鵜呑みにしたのでは、端からうまくいくはずなかったというわけです。
つまり、前提が間違っていたわけです。

そこで、ひとつの疑問が浮かびます。
前提の違いに気づかず、端からうまくいくわけない道を、なぜ日本企業は選択したのでしょうか。

その根底には、日本人の計画嫌いがありました。計画嫌いで走りながら考えることに慣れていた企業幹部たちは「うまくいっている人たちがいるなら、それを真似すればいい」と考えてしまいました。

何事もそうですが、変革活動に取り組む場合も然り、そこには計画が欠かせません。
私たちがよく知る多くの日本企業が、きちんと計画もせず、深く洞察することもなく、これまではうまくいっていた “模倣” という伝家の宝刀に頼ってしまったわけです。
その結果、企業内には様々な軋轢や不満が生じて「変革すれども定着せず」の状況がここかしこで発生してしまいました。

“技術” から “仕組み” へ、この変化が日本企業の成長エンジンを完全に破壊してしまい、それをうまく軌道修正することもできず、今に至っているわけです。

さて、続きとなる今回はまず、欧米企業と日本企業の文化や価値観の違いについて深堀りすることから始めましょう。

欧米企業と日本企業の文化や価値観はまったく違います。

例えば、トップダウンや能力主義が事業運営の基礎を成している欧米企業と、現場力を活かすためにボトムアップが主流で年功序列が支配的な日本企業では、自ずとゴールの描き方やそこに至るプロセスは違ってきます。

ギャップをイメージしやすいように、欧米企業と日本企業、欧米人と日本人の違いとして思い付くものをいくつか挙げてみます。

  •   組織運営
      欧米企業= 強いガバナンス、計画重視
      日本企業= 強い現場権限、実行重視

  •   組織内での立ち位置
      欧米企業= 自分を主張する
      日本企業= 周囲に流され易い

  • 役割・責任分担
      欧米企業= 明確な役割・責任分担
      日本企業= 曖昧な役割・責任分担

  • 意思決定の方式
      欧米企業= トップダウン型
      日本企業= ボトムアップ型、調整型

  • 意思決定で重視すること
      欧米企業= 明確、スピード重視
      日本企業= 曖昧、調整・調和重視

  • 組織評価や個人評価
      欧米企業= 能力主義、結果主義
      日本企業= 年功序列+能力、過程重視

  • 強みの源泉
      欧米企業= 組織力
      日本企業= 現場の創意・工夫

  • 投資のあり方
      欧米企業= 選択と集中
      日本企業= 総花的、捨てられない

  • 価値観
      欧米企業= 個人主義
      日本企業= 助け合い

  • モチベーションの対象
      欧米企業= お金、出世
      日本企業= 認められる、期待される

  • コミュニケーション
      欧米企業= 公式
      日本企業= 非公式、すり合わせ


どれも単純な比較ですが、このような比較検討は本来、変革活動の初期に実施しておくべきものです。つまり、計画の一部として検討されるべきものだったわけです。
もし計画の中で検討されてさえいれば、日本企業の選択は違ったものになったはずです。

想像するに、正しい選択はこうだったはずです。

欧米企業の成功事例を日本的にアレンジして組織に定着させること、それこそが、私たちが目指す改革の本質だ。

確かに、欧米には先進的な成功事例はたくさんあり、私たち日本人の目にはどれもステキに映ります。それらは自分自身を顧みない人たちを魅了し、突き動かすに違いありません。
しかし、私たちにきちんと計画する習慣さえ備わっていれば、これが遠い世界の話だということに気づいたはずです。

コンサルタントをやっていると、欧米企業の成功事例や先端事例を調査してほしいという依頼を受けることがあります。しかし、お金と時間を費やして手に入れた調査結果をうまく活用しできている企業はごく稀です。ちなみに私はお目にかかったことがありません。調査結果を鵜呑みにしてひどい目に合っているか、もしくはお蔵入りしているかです。30年前ならいざ知らず、今では後者が主流です。ステキに映った成功事例の具体的な内容を手にしたとき「自分たちとあまりにかけ離れている」と気付き、現実に戻ってしまうわけです。苦汁を舐めた今では、欧米企業の模倣に走ったときの社内の抵抗や軋轢を思い浮かべない経営者はさすがにいません。
その結果、自分たちには無理だという結論に至るわけです。

私たちにとって大切なことは、走り出す前にきちんと計画することです。

成功事例の根底に横たわる組織の文化や価値観の違いに目を向け、ギャップを理解し、成功事例を日本的にアレンジし、日本的な実現方法を見つけ出すことです。ゴールに至るプロセスに、日本的な良さをうまく活かすことが大事です。

欧米企業の成功事例をそのまま鵜呑みにするのはダメですが、変革を考える上でのスタートポイントとしてはかなり使えます。書庫で埃をかぶっている、かつて大枚をはたいて手に入れた “欧米企業の成功事例や先端事例” を引っ張り出し、志を同じくする仲間とあれこれ議論してみるのもよいでしょう。

勘違いしないでください。
勝負はまだ終わっていません。
まぜなら、成功事例の日本的なアレンジにチャレンジした企業は、まだほとんどないからです。
勝敗が決するのはチャレンジの後です。

次回は、テーマを変更し、今回の内容を少し違う角度から考えます。


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