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【感想】劇場映画『ぼくのお日さま』

映画が始まってすぐ驚くのはスタンダード画角(アスペクト比が4:3)であること。
そういえば今まさに劇場公開中の山中瑶子監督の『ナミビアの砂漠』や約1年前に公開された加藤拓也監督の『ほつれる』もスタンダード画角だった。

何か日本映画界の若手監督の間でスタンダード回帰運動でも起きているのか?
ポッドキャスト番組『宮司愛海のすみません、今まで黙ってたんですけど…』で奥山大史監督はこう語っている。

4:3のスタンダードサイズの方が自分の中で構図が作りやすいというのがあるんですけど、何でだろうって考えた時に子供の頃に見てたテレビはまだブラウン管で、それが映像の原体験として刷り込まれてる感覚があって。もっと細かいこと言うと、地デジ化してもちょっとの期間ってテレビは16:9になったのに放送は4:3みたいな時期あったじゃないですか?あれが凄く好きで。

https://open.spotify.com/episode/1eTIn1F7kqwcxfMqbCQoWY

なんというフェティシズムw
でもテレビ好きには「わかる!」という人も多いのでは?

また、同番組内では自身のスタンス(?)についてこう語っている。

カメラマンとして監督させてもらってるって感じが近いなと思って。三谷幸喜さんがこの前「監督が脚本も書いてるって感覚よりは脚本家が演出もさせてもらってるって感じに近いんです」ってお話をされてて。それで言うと僕はカメラマンが自分が撮りたい絵があるから脚本を書くし、脚本を自分で書いたから演出もさせてもらってるって感覚に近いなって気がしてます。

https://open.spotify.com/episode/1eTIn1F7kqwcxfMqbCQoWY

撮りたい絵ドリブンでストーリーを着想。
まさに『ぼくのお日さま』は撮影の映画だった。
(本作における奥山大史のクレジットは監督・撮影・脚本・編集)

フィギュアスケートを完全にアクションとして撮っている。
俳優の身体性と躍動感、視点の移動による映像的快楽。
あのシーンはフィギュアスケート経験者である奥山監督が一緒に滑りながら撮影したそう。
だからこそ実現したカメラワークとそこから生まれた映像の躍動感が心底素晴らしい。

(一緒に観た妻が「どうやって撮ったんだろう?」と言ってて「氷の上を滑れるリフトみたいな機械に乗って撮影したんかな?」と答えたのだが、冷静に考えたらそんな方法ではあんなスピードでカメラを動かせるわけなかったw)

台詞はそこまで多くない。
タクヤ(越山敬達)と荒川(池松壮亮)の距離が縮まる過程も、タクヤとさくら(中西希亜良)の距離が縮まる過程も台詞ではなくスケートを通して描かれる。

スケートをアクションとして撮り、そのアクションでストーリーを語る。
ジョージ・ミラーが『マッドマックス 怒りのデス・ロード』でやった事と本質的には同じ。

画面から溢れ出る映画の醍醐味。

スケートリンクに窓から降り注ぐ光も映像の美しさを一層引き立てる。

さらに彼(注:奥山大史監督)は光の演出についての話題で、「スケートリンクに入る光は自然光ではなくて、照明を窓の数分……12個かな?用意しました。とても丁寧に、幻想的で寓話的な光作りができたかなと思います」と裏話を語る。

https://natalie.mu/eiga/news/590018

確かに自然光にしては奇跡的な美しさと思ったけど照明を窓単位で用意してたとは!
と同時に凍った湖のシーンの広大な自然の撮り方も素晴らしいんだよな。

さて、奥山監督は映画の前作『僕はイエス様が嫌い』から本作が公開されるまでの間に何本かドラマを手がけている。
(ただし撮影時期の前後関係は詳細不明)

記憶に新しいのは今年3月にNHKの夜ドラ枠で放送されたユーミンストーリーズの第3話『春よ、来い』
(原作は川上弘美、脚本は澤井香織)

池松壮亮が出演しているし、中学生が登場するなど共通点も多い。
もちろん光が冴え渡る映像美はテレビドラマでも健在。
ドアや廊下を使って画角を狭めたり撮る対象を中央に置いたりしてスタンダードを模したと思しき画面設計が何度か登場するのも面白い。

千崎(岡山天音)が蕎麦屋で朝日の話をするシーンも『ぼくのお日さま』を見据えると何か示唆的だ。
最終話のこの台詞も。

光が息してるみたい。

https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2024137042SA000/index.html

最終話の映像本当に綺麗だったなー

あと、今改めて観ると薪を割るシーンが濱口竜介監督の『悪は存在しない』と共鳴しているように見えるのも興味深いなと。

薪割りもまたアクションである。

もう1本は是枝裕和と共同監督を務めたNetflixドラマ『舞妓さんちのまかないさん』
共同監督というのもあってかこちらでは“奥山節”は抑えめ。
一方で(この現場経験の影響なのかは定かではないが)『ぼくのお日さま』を彩ったドキュメンタリックな子役演出はまさしく是枝監督の系譜に連なる。
(『ぼくのお日さま』の撮影時期が約1年半前の2023年冬だそうなので、2023年1月に配信された『舞妓さんちのまかないさん』の方が先と推察)

子役に台本を渡さないという演出術はまさに。

「スケートを滑るシーンは、(越山と中西の)2人には台本を渡していなかったのと、大人のキャストに渡した台本も薄いもので『だんだん上達していく3人』とかしか書いていない」

https://natalie.mu/eiga/news/590018

3人のシーンのドキュメンタリー感とても良かったなぁ。
役じゃなくて本人が素で笑っちゃってる感じのあれ。

映画とテレビドラマを横断しながら良質な作品を撮り続ける。
素晴らしいフィルモグラフィーだ。

おまけ

何故よりによってこの番組で宣伝w

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