【感想】Netflixドラマ『極悪女王』
世界最大のプロレス団体であるWWE創業者のビンス・マクマホンの言葉
Netflixドラマ『極悪女王』は「プロレスを知らないと楽しめない」作品ではないけれど「プロレスを知らないと『ん?どういうこと?』と戸惑うシーンはあるかもしれない」作品ではある。
「ならプロレスって何なのか軽く調べてから観るのが良さそうだな」と考えるわけだが、事態をややこしくしているのが日米のプロレス観の違い。
いや、日米で括るべきではないな。
なぜなら日本人の中でも一人ひとりプロレス観が違うからw
本作が配信されてから一部のプロレスマニアの間で物議を醸している「ブック」の件なんかはその好例だろう。
ちなみにその件については
「ブック」という言葉が誤用(他に適切な言葉がある)
「ブック」という言葉で描写されていた“何か”はそもそも存在しない(劇中描写が事実と異なる)
といった本来異なる主張・論点が混ぜて語られているカオス状態なのでここでは特に扱いません。
変に絡まれたり怒られたりしたくないしw
とはいえ、やはり前述のTAJIRIの著書『プロレスラーは観客に何を見せているのか』、中でも第4章は『極悪女王』を観る上で良い補助線になると思う。
特に「サイコロジー」に関する記述はかなり『極悪女王』に通じている。
ちなみに今年『真・プロレスラーは観客に何を見せているのか』という続編も出版されているので買い間違いにはご注意を。
王道の青春譚ストーリー
一方でこういったプロレス理論ではカバーできない領域を内包するのが本作というか当時の全日本女子プロレス(以下、全女)の魅力である。
(それがプロレスマニアの本作を観る眼を厳しくしているとも言える)
本作の脚本はそういった要素を青春ドラマに組み込むことで消化・昇華している。
なのでプロレスにあまり詳しくないという人でも変に「本作を楽しむためにはプロレスを理解しなければ…」と肩肘張らなければ物語にはスッと入れるんじゃないだろうか?
マニア向けになっていないという点で自分はこの作りには好感を持った。
例の「ブック」のくだりも「団体の上層部である男性陣が女子レスラーを押さえつける」という、ある意味で明確な構図の中に落とし込まれている。
ここはドラマ後半で逆転してカタルシスを生むためのフリになっており、個人的にはドラマの中できちんと機能していると感じた。
プロレス的説得力と映画的演出
さて、そんなこんなで(?)で脚本が出来上がったとして、本作にはまだまだ超えなければいけない高いハードルがある。
それは「プロレス描写」そのもの。
本作は長与千種ご本人をプロレス監修に迎えた上でキャストが本当に身体を作って練習をして試合シーンを撮っている。
スタントを使ったシーンはごく一部だそう。
ここのプロレス的、別の表現で言い換えるなら身体的・アクション的な説得力が凄い。
ゆりやんレトリィバァ
唐田えりか
剛力彩芽
の3人をはじめ他のレスラー役の方々も本当に素晴らしい。
筋肉を増量した上でプロレス技を繰り出す動きにしっかり説得力を持たせている。
唐田えりかも剛力彩芽も演技力と何ら関係ないスキャンダルの影響なのか(本来は不倫報道も熱愛報道もシンプルなプライバシー侵害記事なのだけど)一時期より出演作が減っていたけど、本作で完全復活。
唐田えりかは現在公開中の映画『ナミビアの砂漠』も凄かった。
あの僅かな出演シーンであの存在感
ちなみに俳優陣が「素晴らしい女優魂!」と絶賛されている一方、2年前に週刊誌のテキトーな報道で炎上させられた鈴木おさむが今振り返っても不憫でならないw
批評的にも興行的(配信作品だから厳密には興行ではないけど)にも成功して良かった。
ただ、本作が難しいのはそれはまだ第一段階ということである。
前述の通りプロレスとはレスラーがリング上で表現したものが観客にどう受容されたかで完結するもの。
プロレスに詳しくない視聴者にもそれを伝えるには目撃する人の演技・演出が非常に重要になる。
石川慶監督が映画『蜜蜂と遠雷』で挑戦したものと本質的には同じ。
さすが白石和彌監督というべきか、本作もそこは外していない。
試合シーンではリングと客席をカットバックする基本を徹底している。
リングサイドのタッグパートナーやセコンドの表情を映すのも忘れない。
白眉はやはり第3話終盤、遂にダンプ松本が“誕生”するシーン。
ゆりやんの演技はもちろん、あの瞬間を目撃する側の人の演技がみんな素晴らしい。
視聴者・観客である我々も目撃する側なので、入り込みやすいように目撃者を次々に映すあの編集(カット割り)は実に映画的。
あそこはほぼホラー映画か怪獣映画w
さらに松永兄弟(斎藤工と村上淳)が顔を見合わせるシーンはアングルが微妙に斜めのカメラワーク。
『凪待ち』の印象的なカメラワークも少しだけ思い出したり(今回はあそこまで極端にはやってないけど)
今作でも世界が歪んだような感覚を映像的に表現してダンプ松本の恐ろしさを強調している。
リングで戦うレスラーとその目撃者
プロレス的な説得力を持った演技を映画的な演出に落とし込む手腕はさすが白石和彌監督
ちょうど公式でYouTubeにアップされてた。
太っ腹だなぁ。
おまけ
ちなみにセコンドがマットをバンバン叩く行為についてはYouTubeチャンネル『有田哲平のプロレス囃』でプロレスに全く興味が無かったはずの前川コーファンDが徹底調査を敢行しているw
おまけのおまけ
頑張れ前川コーファン!w
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