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写真家 土屋 正英
2020年7月1日 09:52
秋の盛りを彩った紅葉の葉は、晩秋が訪れるころにそれぞれの旅へと旅立つ。雨上がりの朝、渓谷へ行くと、雨に打たれて落ちた葉が、水面を彩ったり、岩に化粧をしたりと最後の花を咲かせるのである。そんな晩秋の装いに出合うべく、天城に流れる本谷川の上流へと向かった。渓谷に道はなく岩を渡ったり山肌を迂回したりしながら登って行くのだが、これがまた大変なのである。しばらくすると、大きな岩が流れの中に現れた。岩肌に
2020年6月16日 22:05
八丁池口までバスで行き、秋の探索に出た。晴天で雲もほとんどなく、絶好の登山日和。辺りには、キラキラと輝く黄色いブナの葉が、空を仰ぎ、誇らしげに立っている。事、写真を撮るとなると、光の強さは、コントラストが強くなってしまい頭を悩ませる。写真家という立場上、「ハイ撮れました」では放棄したようなものだと常に思っているが、こんな時こそ、自然に委ねて出会いを楽しみ、撮影は二の次にしている。相変わらず木々
2020年8月17日 05:44
凍り付いた湖畔は、住む者すべての時間を奪う。経験上、”霧氷”という現象に出合える確率が一番高いのが八丁池だ。伊豆では霧氷なんて現象はあまり馴染みがないかもしれないが、一度見ると本当に幻想的で、見る者は心を奪われる。昔は、八丁池までアイススケートをするために多くの人が足を運んだようだが、今考えると凄い事だと思う。私も試しに氷の上を歩いてみたが、湖畔全体を十分に歩く事が出来た。しかし、森は時として
2020年7月24日 06:43
この日、忘れもしない私にとって大事な一日となった。今でこそ、夜中の森を平気で歩いているが、この日は、初めて夜の森へ挑戦した日なのだ。駐車場へ車を止め、ライトを消して外にでると、真っ暗な闇に上から押しつぶされた。体中を恐怖が駆け巡った感覚は今でも覚えている。そしてそこから歩を進めるには、自分を騙すしかなく、ヘッドライトに照らされた一点だけに集中して「バカになればいい」と言い聞かせた。そして、初め
2020年7月10日 22:15
冬の渓谷へ行くと、枝や岩に水しぶきが飛び、自然の造形美を作り出す。勿論、いろんな条件が重ならければできないのだが寒い地域では対外見る事ができるのではないだろうか。どうにか伊豆にもそんな場所がないか私はさっそく探しに出たのである。手あたり次第に各所を回って行ったのだがどうにもそんな光景に巡り合わない。だが、出合いというのは不思議なものである。何も考えず、撮影に入った渓谷が氷の造形で埋め尽くされて
2020年7月5日 21:37
森が日に暮れる時、そこは熱い想いが燃え上がる。闇夜が来る前、森に生きる者達は、最後の足掻きをしているからかも知れない。天城の撮影をしていると、時の狭間に迷い込むときが多々あるのだが、一日の終わりの時間は往々にして森の特別な瞬に迷い込んでしまう。およそ20分ほどであろうか?真っ赤に燃える時間を過ぎると、その先は静寂に包まれた闇が待っている。何回歩いてもやはり暗い森に残されるのは気持ちのいいもので
2020年6月29日 20:09
天城の森というと霧に包まれた情景がイメージとしてある。実際は、霧の情景に出合うのは難しい。だからこそ、霧に包まれた天城に出合うと心から憂う気持ちで一杯になってしまう。経験を積むとある程度は天気で予測できるが、自然はなかなかそうはいかず、与えられた条件を受け入れるしかない。特に自然風景を撮影する者は、”受け入れる”という向き合い方が大事な要素で、この向き合い方は、写真だけでなく日常でも大きな力に
2020年6月27日 11:24
森に流れる四季の時間は、沢山の顔を持っている。その中でも秋という季節は、なぜか私達を魅了する。この日は、お昼過ぎにバスで八丁池へ向かい、日が暮れる森を撮影する予定で訪れた。夜半から入山するのも怖いが、精神的には山で夜を迎える方が怖い。やはり夜明けが目の前にあるのと、長い夜がこれから始まるのとでは、大きな違いがあるのだろう。それでも出会える情景の魅力が大きくて何時も、足が向かってしまう。八丁池へ
2020年6月23日 20:19
今の天城山は、たった5年位でも目に見えて森が変わっていく様がわかる。それくらい急速に環境が変わりつつあるのかもしれない。今回の写真は、今の天城を切実に表した1枚ではないかと思う。環境の変化に、例外なく天城の森も影響を受け、ある地域では馬酔木の勢いが森を呑み込み、形相が大分変ってきた。まさにブナ対馬酔木の陣取合戦だ。この日、ある急斜面を渡り反対側の稜線へと登ると、ブナの林が見渡す限り広がっている
2020年6月21日 20:58
この日も、雨化粧の紅葉と出会いたく、何時もの様に、夜の明ける前から歩を進めていた。葉が色づく頃に毎回天候が上手く合うわけではなく、天気の様子をうかがっていればあっという間に山の紅葉も終わってしまう。もちろん大雨に打たれるのは覚悟の上だ。目的地に近づく頃、森の中に”パチンパチン”と音が響き始めた。この音が鳴り始めるとそれは雨が降ってきた証拠。普通は雨が降ってきたと落胆するのだろうが、私はなぜかこ
2020年6月19日 22:28
ある日、八丁池からの帰り道に、目を疑うような倒木に出会った。その倒木は、つい3日前まで、大地に根を張り生きていたブナである。私は大きな衝撃を受け、その倒木の前でどれだけの時間、立ち尽くしていただろうか?目に飛び込んで来た時、ドクンと大きく鳴った鼓動の音を今でも覚えている。私は、そんな出会いがあった事をつい忘れていた。先日、4年ぶりにそのルートを夜明け前に歩いていると、森は霧に包まれ、ライトに照
2020年6月14日 20:31
伊豆天城山に住むブナ達は、訪れる者達を魅了する。何か宿った様なその姿が、出会った者の心の中で、それぞれの想いへと、姿を変えるからなのかもしれない。それほどに、天城という森は、沢山の情念が渦巻く場所なのだ。そして一筋の霧が森を流れる瞬、ブナ達は、精霊の魔法に支配される。瞬くまに、辺りから声が響き、木々は動き出し、そして私は魔法の国へと誘われるのである。何時もの様に、夜も明けぬ森を歩いていると、目
2020年6月13日 11:31
真夜中に車を走らせ登山道へ到着する頃、今日はやめて帰りたいな?と葛藤した事だろう。その度に自分を騙し暗闇へと歩を進めさせる。歩き始めてしまえばこっちのもので、後は独り言をつぶやきながら撮影地へと向かうだけだ。この日は予定外の霧が立ち込め、2mもない視界の中、ヘッドライトを灯して歩いていると、今日出会えるだろう情景が頭にふっと浮かんできた。自分の感を信じて撮影地を変更し、まだまだかとジッと暗い森の中