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【論文メモ15】「暗黙の協調」には振り返りのコミュニケーションが有効

 今回は、暗黙の協調がどのように作られるかについての論文。
暗黙の協調というと、サッカーやバスケットボールのノールックパスが思い出されるが、どんな環境下で暗黙の協調があったのかどうかをどう測るのかなど測定の仕方が興味深かった。


取り上げる論文

タイトル: チームの振り返りで促進される暗黙の協調:協調課題による実験的検討
著者: 秋保亮太、縄田健悟、池田浩、山口裕幸
ジャーナル: 社会心理学研究  第34巻第2号 67-77
発行年: 2018年

概要

暗黙の協調は、チーム活動の効率化において注目されているが、その影響因子についての実証研究は不十分である。本研究は、144名の大学生(72チーム)を対象に、チーム振り返りと共有メンタルモデルが暗黙の協調に与える効果を調査した実験である。その結果、チーム振り返りは暗黙の協調のパフォーマンスを促進することが明らかになった。一方、共有メンタルモデルは、チーム振り返りや暗黙の協調に直接的な影響を示さなかった。この結果は、チーム活動の効率性を理解するのに役立つものと考えられる。

関連する理論・概念

1.暗黙の協調: 明示的なコミュニケーションを用いず、円滑な連携を実現するチームの能力。
2.共有メンタルモデル: チームメンバーが共有する知識や理解、心的表象。これにより、メンバー間の連携が容易になるとされる。
3.チーム振り返り: 活動後に行動を分析・評価し、次の活動の改善を図る学習プロセス。

変数

(a)説明変数
チーム振り返りの有無
(b)調整変数
チーム構成: 同性友人ペアであること。
課題特性: BRIO社製のLabyrinthゲームによる課題遂行。
(c)媒介変数
共有メンタルモデル: 以下の3つの指標で測定。
  ・ネットワーク構造一致度
  ・順位評定一致度
  ・重要度評定相関
(d)成果変数
暗黙の協調遂行度: 課題でのボール進行度。

方法

  1. 実験デザイン: 1要因2水準(振り返りあり条件 vs. 振り返りなし条件)

  2. 参加者: 福岡県の大学生144名(男性68名、女性76名)、72チーム。平均年齢20.17歳

  3. 課題: BRIO社製Labyrinthゲーム。チーム内で縦軸・横軸の操作を分担し、ボールをゴール地点まで導く。課題中のコミュニケーションは禁止。

  4. 手続き:

    • 第1セット(12試行)後、振り返りあり条件では課題の成功要因や失敗原因について話し合い、振り返りなし条件では大学生活について話し合った。

    • メンタルモデルの測定後、第2セット(12試行)を実施。

  5. 測定: 暗黙の協調遂行度(ボールが進んだ位置)、共有メンタルモデル(ネットワーク構造一致度、順位評定一致度、重要度評定相関)。

仮説と結果

仮説1:チームの振り返りは、暗黙の協調の実現を促進するだろう
結果→仮説1支持
振り返りあり条件: 振り返りあり条件では試行を重ねるごとに暗黙の協調遂行度が向上し、第2セット後半では振り返りなし条件を有意に上回った。特に第1セット終了後の振り返りを経て第2セットでの遂行度が顕著に改善した。
振り返りなし条件: 試行の初期段階では暗黙の協調遂行度が若干上昇したが、第2セットにおけるパフォーマンス向上は見られず、条件差が明確になった。

仮説2:共有メンタルモデルは、チームの振り返りが暗黙の協調の実現へ与える効果を媒介するだろう
結果→仮説2不支持
いずれの指標(ネットワーク構造一致度、順位評定一致度、重要度評定相関)でも振り返りの効果を示す差異や媒介効果は確認されなかった。暗黙の協調遂行度と各共有メンタルモデル指標間の相関もほとんど認められなかった。共有メンタルモデルの測定次元と振り返りの学習次元の不一致が原因と考えられる。

感想

 冒頭の通りで、測定方法が面白かった。このゲームの内容が、どれくらい仕事などのチーム活動でも当てはまるのか適用範囲、汎用性については気になるが、自分の経験知でも同様の感覚である。
 振り返りやっぱり大切だな。やみくもに何度もやり続ければよいということではない。

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