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【論文メモ20】「裸の王様」は、科学的にも言えるのか?
今回は、上位職者の自己認知と他者認知の差についての論文。偉くなると「裸の王様」になるというが、それは科学的、学術的にも言えるのか?興味深い結果となった。
取り上げる論文
タイトル:Executive Blind Spots: Discrepancies Between Self- and Other-Ratings(経営者の盲点: 自己評価と他者評価の乖離)
著者:Fabio Sala
ジャーナル:Consulting Psychology Journal: Practice and Research,55(4), 222–229
発行年:2003年
概要
この研究は、管理職や役員が、自己評価と他者(同僚、上司、部下)からの評価においてより大きな乖離を示すという仮説を検証した。1,214名を対象にした360度調査で、上級管理職が下級管理職や一般社員よりも自己評価と他者評価の間に大きな乖離があることが確認された。この発見は、自己認識が管理職のパフォーマンスに重要であることを示唆しており、リーダーシップ開発のための示唆が得られる。
関連する理論・概念
・360度フィードバック: 自己評価と他者評価を比較するツール。
・自己–他者一致(Self–other agreement): 自己評価と他者評価の一致度を指し、高パフォーマンスの指標とされる。
方法
対象者: 1,214名(男性61%、女性38%)
調査ツール: Emotional Competence Inventory (ECI)
データ分析: 職務レベルごとに自己評価と他者評価の乖離スコアを比較。分散分析と相関分析を実施
結果
上級管理職)は、下級管理職に比べて、自己評価と他者評価の乖離スコア(self-other discrepancy scores)が有意に高かった。
特に、調査対象の20の感情的能力(emotional intelligence competencies)のうち19項目で上級管理職の乖離スコアが有意に高かった(唯一「組織認識(Organizational Awareness)」のみ例外)。
この乖離は、上級管理職が自己評価を過大評価する傾向を示唆している。
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考察
(1)上級管理職の乖離の原因
・上級管理職は、他者からのフィードバックを得る機会が少ないため、自分の能力について正確な認識を持つのが難しい。
・部下や同僚が、上級管理職に対して率直で批判的なフィードバックを提供することをためらうことも、乖離の原因として挙げられる。
(2)パフォーマンスへの影響
・自己評価と他者評価の一致度(自己認識)は、管理職のリーダーシップやパフォーマンスと正の相関がある。
・上級管理職が自分の能力を過大評価すると、適切な自己改善が困難になり、パフォーマンスに悪影響を及ぼす可能性がある。
(3)実務への応用
①自己認識の向上
・360度フィードバックを活用することで、上級管理職が自己認識を高め、能力開発の機会を得ることが重要。
・管理職がフィードバックを受け入れるための文化や環境を組織全体で構築する必要がある。
②フィードバック文化の形成:
フィードバックを安全に行える組織文化を形成することで、自己評価と他者評価のギャップを縮小し、管理職のリーダーシップ改善に寄与する。
感想
古来、貞観政要では、三鏡を持てと言っているがその話とも重なる結果である。
「三鏡」
・鏡に自分を映し、元気で明るく楽しい顔をしているかチェックする(銅の鏡)
・過去の出来事しか将来を予想する教材がないので、歴史を学ぶ(歴史の鏡)
・部下の厳しい直言や諫言を受け入れる(人の鏡)
また日本でも平家物語でいう「奢れるものは久しからず」は、栄華にあるものは奢りやすいということの裏返しでもあろう。
今回、パフォーマンスにも影響するというのが示されいるのは良い気づきを与えてくれた。自己認知、大事である。