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【論文メモ41】フォルトライン研究のメタ分析

 今回は、チーム内のサブグループであるフォルトラインという概念についてメタ分析した論文を取り上げる。


取り上げる論文

タイトル: A Meta-Analytic Integration of the Faultlines Literature(フォルトライン研究のメタ分析的統合)
著者名:Sherry M.B. Thatcher Bertolt Meyer Youngsang Kim Pankaj C. Patel
ジャーナル: Organizational Psychology Review, 14(2),238–281 2024年

概論

 本研究は、フォルトライン(Faultlines)に関する20年以上の研究を対象にメタ分析を実施し、162本の論文に含まれる168の研究(合計24,953のチーム)を統合したものである。その結果、潜在的なフォルトラインは、チーム内の対立や活性化フォルトラインと正の関係を持つが、チームパフォーマンスやチーム満足度とは直接的な関係を持たないことが明らかになった。
 また、潜在的なフォルトラインが悪影響を及ぼすかどうかは、それが活性化されるかどうかに依存し、活性化フォルトラインは対立や情報精査、チームパフォーマンス、チーム満足度に影響を与える。
  しかし、活性化フォルトラインの影響を統制した場合、潜在的なフォルトラインは情報精査にプラスの影響を与えることが判明した。
  さらに、フォルトラインが人口統計学的な要素(年齢、性別、人種など)に基づく場合、潜在的なフォルトラインと活性化フォルトラインの関係がより強くなることが確認された。
 加えて、フォルトラインが存在するチームのうち、トップマネジメントチーム・取締役会でない場合および研究が実験室環境で行われた場合には、チームパフォーマンスに対する負の影響がより顕著であった。
  本研究は、フォルトラインに関する今後の研究の方向性を示すとともに、チームマネジメントに関する実践的な示唆を提供する。

 本論文の主要な理論・概念

フォルトラインの定義
「チーム内の特定の属性(例:年齢、性別、職務経験、価値観など)に基づき、比較的均質なサブグループに分割される仮想的な分断線」(Lau & Murnighan 1998)

フォルトラインの種類(1)

①潜在的フォルトライン(Dormant Faultlines)
・客観的または仮説的なフォルトラインとも呼ばれる。
・チームメンバーの多様性の構成により理論的に存在し得る分断線を指す。
・直接的にチームのパフォーマンスやプロセスに影響を与えるわけではなく活性化されることによって影響を持つ。

②活性化フォルトライン(Activated Faultlines)
・顕在的または知覚されたフォルトラインとも呼ばれる。
・チームメンバーが実際にフォルトラインを認識し、サブグループの対立が生じる状態を指す。
・潜在的フォルトラインが活性化されることで、チーム内の対立が増加し、パフォーマンスや満足度に影響を与える。

フォルトラインの種類(2)
・人口統計学的フォルトライン: 年齢、性別、人種、民族などに基づく
・情報フォルトライン: 教育、職務経験、専門分野などに基づく
・深層フォルトライン: 価値観、性格、信念などに基づく
・混合フォルトライン: 上記の要素を組み合わせたもの

 本論文では、特に活性化フォルトラインが潜在的フォルトラインの影響を媒介することが強調されており、フォルトラインの影響を正しく理解するためには、単に潜在的フォルトラインの強さを見るだけでなく、それが実際に活性化されるかどうかを考慮する必要があると結論付けている​。

本研究は以下の理論に基づいてフォルトラインの影響を考察している。

(1)社会的カテゴリー化理論(Social Categorization Theory)
人は自身を内集団(in-group)と外集団(out-group)に分類し、内集団を優遇しがちである。フォルトラインが活性化されると、内集団と外集団の対立が生じる。
(2)情報処理アプローチ(Information Processing Approach)
フォルトラインが存在することで、多様な視点が生じる可能性があるが、チーム内の情報共有が阻害される可能性もある。
(3)カテゴリー化-精査モデル(Categorization-Elaboration Model, CEM)
フォルトラインがチームの情報精査(情報共有や統合)の過程に影響を及ぼし、パフォーマンスを決定する。

変数

(a) 説明変数
潜在的なフォルトライン 
チーム内の人口統計学的、機能的、または価値観的な属性の組み合わせによって形成される仮想的な分断線

(b) 調整変数
フォルトラインの種類(人口統計学的フォルトライン/情報フォルトライン/深層フォルトライン/混合フォルトライン)

(c) 媒介変数
活性化フォルトライン チームメンバーが主観的にフォルトラインを認識すること
・チーム内対立 フォルトラインの活性化によって生じるチームメンバー間の対立
・情報精査 チームメンバー間の情報共有や知識統合のプロセス。

(d) 成果変数
・チームパフォーマンス
・チーム満足度

方法

・メタ分析(Meta-Analysis)
・対象研究数: 168件
・総サンプル数: 24,953チーム
・統計手法: メタ分析的構造方程式モデリング(MA-SEM)

結果

・潜在的フォルトラインが直接チームパフォーマンスに影響を与えるわけではないが、活性化フォルトラインを介して間接的に影響を及ぼす。
・対立はチームパフォーマンスを低下させる一方で、情報精査はパフォーマンス向上に寄与する。
・人口統計学的フォルトラインは特に負の影響が強く情報フォルトラインは適切に活用すれば正の効果を持つ可能性がある。
・すべての種類の対立は、潜在的フォルトラインおよび活性化フォルトラインと正の相関を持つことが確認された。つまり、フォルトラインが強いチームでは、タスク対立も関係対立も発生しやすく、結果としてチームのパフォーマンスを低下させる可能性がある。
・トップマネジメントチームではフォルトラインの負の影響が軽減される傾向がある。

感想

 分断線は、認識されて意味を持つ。潜在的フォルトラインを活性化させてしまうと厄介である。
 フォルトラインと一言で言ってもそのメカニズムを知っておくと見えてくるものが変わってくる。
 なかなか興味深い論文であった。
 
 

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