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【論文メモ22】リーダーの人間観による失敗したメンバーへの対応の違いは?

 今回は、リーダーが持っている人間観(≒暗黙理論)でチームマネジメントがどう変わるのかということに関する論文である。まあそうだよなと思いつつも結構興味深い内容であった。



取り上げる論文

タイトル:リーダーの暗黙理論がチーム差配に及ぼす影響:失敗した成員に対する評価に着目して
著者名 :今瀧夢 、相田直樹 、村本由紀子
ジャーナル: 社会心理学研究 第33巻3号、pp.115–125、2018年

概要

本研究は、リーダーの「暗黙理論」(e.g., Dweck, 1999)がメンバーの評価および判断にどのように影響を与えるかを検討したものである。実験では、参加者がリーダー役を担い、失敗した成員と新規の成員に対して報酬の配分や遂行時間を割り振るシナリオを模倣した。その結果、能力が変化可能と信じる増加理論者は、失敗した成員の努力を高く評価する一方、能力が固定的と信じる実体理論者は成果を基準に評価を行った。また、増加理論者は新たな成員の成果を平均以下と見積もる傾向があることも明らかになった。これらの結果は、実体理論者が適材適所の判断において増加理論者を上回る可能性を示唆している。

関連する概念・理論

暗黙理論(Implicit Theories)
人の能力や特性に対する信念を指す心理学的な概念。
増加理論(Incremental Theory)と実体理論(Entity Theory)の2つに分類される。

(1)増加理論(Incremental Theory)
増加理論の信念を持つ人は、能力は努力や学習によって成長するものと考える。以下の特徴がある。

努力重視: 成果よりもプロセスに価値を置き、失敗は学びの機会と捉える
学習目標志向: 新しいスキルを習得することや知識を深めることを目的とする
適応的行動: 困難な状況においても挫折しにくく、失敗から立ち直りやすい傾向がある

例: 「努力すれば誰でも上達できる」という考え方が含まれる

研究例:
ドゥエック(1986)の研究では、増加理論を持つ学生が挑戦的な課題に対して粘り強く取り組む姿勢を示し、長期的な学業成績の向上が見られたと報告されています。

(2)実体理論(Entity Theory)
実体理論の信念を持つ人は、能力は固定的で変化しない特性と考える。

成果重視: 結果やパフォーマンスを重視し、プロセスにはあまり注目しない
遂行目標志向: 他者からの評価や、自分が能力を示すことに重点を置く
非適応的行動: 困難や失敗を能力不足と捉えやすく、挑戦を避ける傾向があある

例: 「才能がある人だけが成功できる」という考え方が含まれる。

研究例:
実体理論を持つ人は、失敗した際に自分の能力が否定されたと感じやすく、次の挑戦を避ける傾向があることが示されています(Dweck & Leggett, 1988)。

変数


(a) 説明変数(Independent Variables)

  • 暗黙理論得点(実体理論から増加理論への信念の尺度)

  • 努力アピール(成員がリーダーに努力をアピールしたか否か)

(b) 調整変数(Control Variables)

  • 参加者の性別、年齢、教育背景

  • 第1セッションでの課題遂行成績

(c) 媒介変数(Mediator Variables)

  • 新たな成員(課題遂行者B)への期待値

  • 失敗した成員(課題遂行者A)の努力認知

(d) 成果変数(Outcome Variables)

  • 成員への報酬額

  • 成員への課題遂行時間の配分

方法

目的

リーダーが持つ暗黙理論(増加理論/実体理論)が、失敗した成員や新たな成員の評価・役割分担に与える影響を検証する。

参加者

・対象: 大学生・大学院生45名(男性26名、女性19名、平均年齢21.44歳)。
・役割: 実験参加者が「差配者(リーダー)」として課題の評価・時間配分を担当。

手続き

(1)課題内容
 ・「アイデア創出課題(Unusual Uses Task)」を用い、成員が物品の新しい利用法を考案
 ・創造性得点(50点満点)で評価し、点数に応じて報酬を設定
(2)実験構成
・第1セッション: 成員A(失敗成員)が課題に取り組む(低得点に設定)
・第2セッション: 差配者が成員Aと新たな成員Bに課題遂行時間を割り当てる
(3)操作変数
・暗黙理論得点: 増加理論から実体理論までの信念を6件法尺度で測定
・努力アピール: 成員Aが「努力した」と主張する条件(あり/なし)を操作
(4)測定項目
・成員A・Bへの評価(報酬額、遂行時間の配分、次回予想得点)

結果

仮説1: 失敗成員に対する評価

  • 増加理論者: 成員Aが努力アピールを行った場合、報酬評価が向上した。

  • 実体理論者: 努力アピールの影響を受けず、成果に基づいて評価。

仮説2: 成員の課題遂行時間配分

  • 増加理論者: 成員Aにより多くの遂行時間を割り当てた。

  • 実体理論者: 成員Bに遂行時間を多く配分する傾向が強かった。

仮説3: 成員の将来パフォーマンスに対する期待

  • 失敗成員Aへの期待:

    • 増加理論者・実体理論者ともに低い予想得点を設定(失敗の影響が大きい)。

  • 新たな成員Bへの期待:

    • 増加理論者: 成員Bにも低い得点を予想(成員Aの失敗が影響)。

    • 実体理論者: 成員Bに標準的なパフォーマンスを期待。

わかったこと

(1)増加理論の適応性と限界
・増加理論者は努力を評価し失敗した成員の成長を信じるが、新たな成員への期待値が低く、効率性に課題が残る。
・成員の「成長」を重視する一方で、チーム全体の即時的な成果に対する柔軟性が欠ける場合がある。

(2)実体理論の有用性
・実体理論者は成果重視のため、新たな成員を積極的に起用する柔軟性がある。
・適材適所を模索するアプローチが、短期的なパフォーマンス向上に寄与する可能性を示唆。

(3)文化的背景の影響
・日本社会では「努力すれば成功する」という信念が根強く、増加理論的な評価基準が重視されやすい。
・しかし、集団の効率性を考慮すると実体理論的アプローチが有効な場面もある。

感想

この結果は、当たり前と言えば当たり前だが、結構面白い。はたから見ていてなんでそんなやり方でチームを率いるのかなという風に感じることは多々あるが、結構リーダーの持っている価値観の違いなのかなと感じることはある。
 自分は、増加理論、実体理論どちらを前提にしているだろうか?自分に対しては、増加理論、他人に対しては、実体理論、そんな気がしている。これもその都度状況によって使い分けた方が良いのだろう。自分の中で自分の傾向を認知しておきたい。


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