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【論文メモ16】機能するコミュニティのつくり方~実践共同体のあり方について~
今日は、実践共同体(community of practice)についての論文。共通の関心で結びついた仲間との活動は、とても楽しいし、成果も上がるよう気がする。そのメカニズムを質的研究で明らかにした論文である。
取り上げる論文
タイトル:企業で働く個人のキャリアの確立を促す実践共同体のあり方に関する質的研究
著者:荒木淳子
ジャーナル:日本教育工学会論文誌 33(2) 131-142, 2009
概要
職場での学習や知識創造の場面では、実践共同体の重要性が注目されている。しかし、企業において実践共同体をどのようにデザインすべきかに関する実証研究は少ない。本研究は、社会人の職業アイデンティティ獲得やキャリア形成への意欲向上を促す実践共同体のあり方を明らかにすることを目的とした。10の実践共同体に参加する30名のメンバーに半構造化インタビューを行った結果、キャリアの確立を促す実践共同体として、(1)職場を越える実践共同体と職場との行き来を踏まえたデザイン、(2)メンバーの多様性を活かした活動、(3)コーディネーターの配慮型リーダーシップが重要であることが明らかとなった。今後はこれらを踏まえた実践共同体のデザインが必要であると考えられる。
関連する概念・理論
実践共同体(community of practice)
共通の関心や課題に関心を持つ人々が、定期的に相互作用し、知識を共有し、学習を深めることで、共通の実践を発展させていく社会的な構造
(Wenger, Etienne 1998)
変数
(a) 説明変数
・実践共同体のデザイン(職場との行き来、多様性、配慮型リーダーシップ)
(b) 調整変数
・メンバー間の相互作用の質
・活動の成果志向性
(c) 媒介変数
・リフレクションの頻度と質
・メンバー間の多様性が生み出す知識創造
(d) 成果変数
・キャリア確立(職業アイデンティティ獲得、キャリア形成への意欲)
方法
対象
20の実践共同体から30名のメンバー(企業勤務者)を対象に選出。コーディネーター、アクティブメンバー、周辺メンバーからそれぞれ1名を抽出
データ収集
・半構造化インタビュー(1人当たり1時間~1時間半)。
・主な質問内容は、活動参加前後での変化、リフレクションの状況、知識や役割の獲得に関する経験など。
分析手法
インタビュー内容をプロトコル化し、「情報・知識の獲得」「社会的役割の獲得」「リフレクション」「境界越え」など5つのカテゴリーにコーディング。
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結果
実践共同体ごとの経験分布
分析対象の実践共同体を、キャリア確立に関連する経験数の多寡で「高群」と「低群」に分類した。その結果、平均6.2カテゴリーの経験が各実践共同体で認められたが、高群(D, E, G, I, J)と低群(A, B, C, F, H)では経験の幅に大きな差が見られた。特に「リフレクション」経験の差が顕著で、高群では11名中9名がリフレクション経験を報告したのに対し、低群では15名中4名にとどまった。
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キャリア確立を促す実践共同体の特徴
![](https://assets.st-note.com/img/1737091419-76RvoGhE8FKpL9xaqOZBSlPn.png?width=1200)
(1) 活動の志向性
活動が「成果志向型」か「非成果志向型」かが、キャリア確立経験の多寡に影響を与えた。成果志向型では、活動結果(例:報告書やワークショップ)を重視するあまり、メンバーが自身の問題意識を深めたり、リフレクションを行ったりする機会が減少した。一方、非成果志向型では、活動が自由度を持ち、個々のメンバーが自らの課題に引きつけて活動を解釈することで、リフレクションが促進された。
(2) メンバーの多様性
実践共同体内の多様性は、「所属組織の多様性」と「アイデア・視点の多様性」の2軸で評価された。高群では、メンバー間の多様な視点や背景が相互作用を生み、知識創造や自己の仕事に対する新たな気づきに寄与した。一方で、所属組織が多様でも活動目的が限定的な場合、視点の多様性が十分に活かされないことも指摘された。
(3) コーディネーターのリーダーシップ
配慮型リーダーシップを発揮するコーディネーターの存在が、メンバーのキャリア確立を促す重要な要因であった。高群の実践共同体では、コーディネーターがメンバーの意見を丁寧に聞き、活動内容や目的を明確に示しつつ、柔軟にメンバーを支援していた。これにより、メンバー間の信頼関係や活動への主体的な関与が強まり、リフレクションが活発化した。
(4)職場を越境する実践共同体の重要性
越境を取り入れた実践共同体は、キャリア確立に効果的であることがわかった。異業界や職種のメンバーが専門知識を共有することで、課題の再定義や解決策の発見が可能になる。また、外部との接触を通じて成長意欲が向上する。これを運用するには、柔軟な参加機会を提供し、得られた知見を職場に還元する仕組みを構築することが重要とされている。
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感想
何かをやるのに1人でやるのは、モチベーションの意味でもアウトプットの質の意味でも難しい。
一方で、実践共同体をつくろうと思っても機能しつづけるチームはなかなか難しい面もあり、配慮型リーダーシップの観点が必要というのは非常によくわかる。
非成果志向いうのも面白かった。非成果というよりも短期志向に陥らず、長期志向でということかなと捉えている。
実践共同体については、もう少し深めて調べていきたい。