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【論文メモ35】トランザクティブ・メモリー・システムのメカニズム~TMSレビュー論文~

 今回は、「誰が何を知っているか」というのをチームや組織で把握できているかというトランザクティブ・メモリー・システム(TMS)についてのレビュー論文。TMSのメカニズムを明快にまとめてくれている。


取り上げる論文

タイトル:Transactive Memory Systems 1985 – 2010: An Integrative Framework of Key Dimensions, Antecedents, and Consequences
(トランザクティブ・メモリー・システム 1985-2010: 主要な次元、先行要因、結果の統合的枠組み)

著者名: Ren, Yuqing and Argote, Linda.
ジャーナル: The Academy of Management Annals, 5(1), 189–229 2011年


概要

1985年にWegnerらが画期的な論文を発表して以来、トランザクティブ・メモリー・システム(TMS)の研究は、経営学、心理学、コミュニケーション学の分野で広がってきた。本論文では、TMSに関する76の論文をレビューし、TMSの先行要因と結果を統合的枠組みにまとめた。また、TMSの測定、TMSの多次元性、チームレベルから組織レベルへの拡張、TMSが組織の経験のメリットを説明する役割など、いくつかの重要な課題を明らかにした。さらに、TMSの進化、仮想チームでのTMS、新規事業におけるTMS、情報技術を活用した組織レベルのTMSに関する今後の研究の必要性を指摘する。

関連する理論

トランザクティブメモリーシステム(TMS)

人間関係において人々が、異なる実体的領域に関する情報を符号化、保存、検索するために開発する共有シス テム(Hollingshead, 1998a; Ren, Carley, & Argote, 2006)

チーム・メンタル・モデル(Klimoski & Mohammed, 1994)、共有タスク理解(He, Butler,  & King, 2007)、交差理解(Huber & Lewis, 2010)などの関連概念との違い

①TMSは、他の概念よりも内容カバレッジが狭い。TMSには、誰が何を知っているかについての知識が含まれ、チームのメンタルモデルや共有タスク理解には、チームの目標や戦略などの追加的な内容が含まれる
②最も重要なことは、TMSは知識を学習し、記憶し、伝達す るための協力的な分業であること(Wegner, 1987)

方法

研究対象:TMSに関する76の論文をレビュー
研究手法:文献レビュー(1985年から2010年までの主要論文を分析)
変数の関係を統合的枠組みとして整理

結果(変数の枠組み)

TMSの先行要因(Antecedents)、構成要素(Components)、結果(Consequences)、および調整要因(Moderators) を統合的なフレームワークとして以下の図の通り示した。

(1)先行要因(Antecedents)

①チームの構成(Team Composition Inputs)
 個人レベルの要因として、メンバーの特性(属性や個人の資質)がTMSの発展に影響を及ぼす。

・年齢・性別・人種:Wegner(1995)は、年齢や性別、民族性が専門知識の認識に影響を与えることを指摘した。
・専門性の認識:Bunderson(2003)は、特定の職務経験や資格がメンバー間での専門性認識に大きな影響を与えると報告した。
・性格特性:Pearsall & Ellis(2006)は、自己主張の強いメンバーがチームの知識共有を促進し、TMSの発展に貢献すると指摘。

②チームレベルの要因(Team-Level Inputs)
 チームのダイナミクスがTMSの発展を支える。

・相互依存性(Task and Goal Interdependence):タスクの依存度が高いほど、TMSが形成されやすく、チームパフォーマンスが向上する。
・グループトレーニング(Group Training)と経験の共有(Shared Experience):メンバーが一緒にトレーニングを受けることで、各メンバーの専門分野を理解しやすくなり、TMSが強化される。
・コミュニケーションの頻度:Lewis et al.(2007)は、チームのメンバー間での対話が増えることで、TMSの効果が高まると報告している。

③組織レベルの要因(Organizational-Level Inputs)
 組織環境や制度がTMSの発展に影響を与える。

・地理的距離と仮想チーム:物理的な距離が離れているチームは、TMSの発展が困難であり、技術的な支援が必要になる。

(2)構成要素(Components)

①専門化(Specialization)
チームメンバーが異なる専門分野を持ち、各自の知識が特定の領域に集中していること。TMSが発展したチームでは、メンバーが適切に役割分担を行い、重複なく知識を蓄積できる。Liang, Moreland, & Argote(1995)の研究では、チーム内で役割が明確に分担されている場合、TMSの形成が促進されることが確認された​。

②信頼性(Credibility)
チームメンバーが互いの専門知識を信頼し、その知識が正確であると認識していること。TMSが機能するためには、メンバー間の信頼が不可欠であり、知識共有の促進につながる。Kanawattanachai & Yoo(2007)の研究では、認知ベースの信頼が高いチームほどTMSが強化され、パフォーマンスが向上することが示された​。

③調整(Coordination)
チーム内で情報が適切に共有され、メンバーが連携してタスクを遂行できる状態。調整が適切に行われることで、TMSはより効果的に機能し、知識の活用が最適化される。Michinov et al.(2008)の研究では、調整がチームの有効性や満足度に大きく寄与することが示された​。

(3)成果要因(Consequences)

①チームの学習(Team Learning)
TMSが強いチームは、より多くの情報を統合し、新しい知識を獲得しやすい。
例:新製品開発チームの成功率向上(Akgun et al., 2006)

②チームの創造性(Team Creativity)
TMSが発展したチームは、新しいアイデアを生み出す能力が高い。
例:知識の多様性を活かしたブレインストーミングの質向上

③メンバーの満足度(Member Satisfaction)およびチームパフォーマンス(Team Performance)
明確な専門性の分担があることで、業務の効率が向上し、意思決定の質も高まる
例:チーム内の役割が明確になることで、メンバーのモチベーション向上。

(4)調整要因(Moderating Factors)

①チームの安定性(Team Stability)
チームメンバーの入れ替わりが少ないほど、TMSの維持と発展が容易になる。Moreland, Argote, & Krishnan(1996)の研究では、チームのメンバーシップが安定している場合、TMSが発展しやすく、パフォーマンスも向上することが示された​。

② 知識共有の度合い(Knowledge Sharing)
チーム内での情報共有が活発であるほど、TMSが有効に機能する。Lewis et al.(2007)は、知識共有の活発なチームほどTMSの発展が促進され、成果が向上することを報告した​。

③タスクの種類(Task Complexity)
タスクの複雑性が高いほど、TMSの効果が大きくなる。Akgun et al.(2005)の研究では、新製品開発チームにおいて、TMSの発展が複雑なタスクの遂行を大きく支援することが確認された​。

④ストレスレベル(Stress Level)
高ストレス環境では、TMSの機能が低下する可能性がある。Ellis(2006)の研究では、急性ストレスがTMSのプロセス(ディレクトリ更新、情報配分、検索調整)を阻害することが示された​。

⑤環境の変動性(Environmental Turbulence)
環境が頻繁に変化する場合、TMSの有効性が低下する可能性がある。Akgun et al.(2006)の研究では、技術革新や市場の変動が激しい環境では、TMSの効果が弱まることが確認された​。

感想

 チーム認知の主要な概念であるTMS。個人的には、ビジネスフィールドでこれができているチームといないチームでは成果がかなり変わってくるのではないかと思っている。冒頭にも書いた通り、このフレームワーク、とても明快にTMSのメカニズムについて示してくれている。
 
 

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