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【論文メモ9】やる気のないメンバーがチームを破壊するメカニズム~「腐ったリンゴ」理論

 大学院の授業で「腐ったリンゴ」(Bad Apples)のことを習ったときに、腐ったミカンじゃないんだ・・・というのがまず初めの第一印象。

 その「腐ったリンゴ」(Bad Apples)理論を最初に提唱した論文を取り上げたい。想定していたよりも多角的に「腐ったリンゴ」のメカニズムを取り上げており、とても興味深かった。


取り上げる論文


タイトル: How, When, and Why Bad Apples Spoil the Barrel: Negative Group Members and Dysfunctional Groups
(どのように、いつ、なぜ悪いリンゴが樽を台無しにするのか:否定的なグループメンバーと機能不全のグループ)
著者名: Will Felps, Terence R. Mitchell, Eliza Byington
ジャーナル: Research in Organizational Behavior, Volume 27, 175–222, 2006

概要

 本論文は、1人のネガティブなグループメンバー(「腐ったリンゴ」)が他のメンバーやグループ全体に与える悪影響の仕組みを探り、その発生の条件や結果を包括的に分析しています。具体的には、努力を怠る、否定的な感情を示す、重要な対人規範を破るといった行動がグループ内にどのような心理的および行動的影響を引き起こすかを解明します。また、これらの影響を軽減する方法や、実務や研究への応用可能性についても論じています。

変数

(a) 説明変数: 否定的な行動(努力の控え、否定的感情、対人規範違反)
(b) 調整変数: グループ間の相互依存、最近の結果の価値、個人の対処能力
(c) 媒介変数: 心理的反応(不公平感、信頼低下、否定的感情)
(d) 成果変数: グループのモチベーション、協力、創造性、学習、パフォーマンス

全体像(モデル)

背景

組織がワークチームモデルに依存するようになっている一方で、多くのグループが失敗する原因の理解は不十分であるとしている。
 既存研究では、グループパラノイア、グループシンク、低グループ効力など、グループレベルの現象に焦点が当てられているが、本研究では、1人の否定的なメンバーがグループ全体に与える影響に着目して論じている。

腐ったリンゴ(Bad Apples)の定義と特性


腐ったリンゴの行動として以下の3点の特徴がある。

1.努力の控え: 集団に対する責任を回避し、他者の努力に依存する
2.否定的感情: 悲観主義、不安、苛立ちなどを頻繁に表現する
3.対人規範違反: 侮辱、無礼、公的な恥辱などの行動

また小グループで特に顕著な影響を与えるとしている。

否定的行動の影響

否定的行動は以下の心理的反応を引き起こすとしている

・不公平感
・否定的感情
・信頼の低下

これらの心理状態が防衛的行動(暴言、引きこもり、怠惰など)を引き起こす。また集団のモチベーション、協力、創造性に悪影響を与える。

防衛的行動の種類とメカニズム

チームメイトの反応は主に以下の3つに分類される

1.動機づけ介入: 行動を変えさせる努力(例: 注意喚起や罰の適用)
2.拒絶: 否定的なメンバーを排除する行動(例: 社会的孤立)
3.防衛: 自己を守る行動(例: 気分維持、責任回避)

また、防衛的行動が集団プロセスを悪化させるメカニズムは、以下の3つあるとする。

1.集約(Aggregation):個々の防御的反応が蓄積し、グループ全体の問題に発展。
2.スピルオーバー(Spillover):ネガティブ行動や感情が他のメンバーに伝播し、模倣や代理攻撃を引き起こす。
3.センスメイキング(Sensemaking):メンバー間で問題が共有され、グループ全体の認識として広がる。

腐ったリンゴ効果の調節要因

ネガティブ行動の影響は以下の要因によって調節される

1.行動の強度と頻度
2.グループの相互依存性
3.成果の成否(失敗時に悪影響が顕著化)
4.メンバー個々の対処能力(高いコーピング能力を持つメンバーは影響を軽減)

グループプロセスと成果に与える影響

腐ったりんごの存在は以下のプロセスと成果を損なう

1.動機の低下:グループ全体の士気を削ぐ
2.協力の低下:信頼の喪失により、効果的な連携が困難に
3.学習と創造性の抑制:心理的安全性の欠如がこれらを阻害
4.対立の増加:グループ内の摩擦が顕著になる

わかったこと

腐ったリンゴの影響は、1人の行動がグループ全体の失敗に繋がる過程を示しています。本論文は、グループダイナミクスの悪化メカニズムを解明し、その軽減策としてリーダーシップや規範設定の重要性を指摘している。

感想

 「腐ったリンゴ」という概念をただ知るよりも、論文読んでみて、研究者がどのようなメカニズムなのかを論じているのがとても興味深かった。
 複数のチームを掛け持ちするのが当たり前の時代、各々の人のプライオリティ付けなどで、「腐ったリンゴ」には、だれでも陥ることになりうるのかなと思う。
 放置せず、早期に手をつけるというのを解決策として論じているが、確かにこの論文を通じて、ひどく悪化しないうちに手を付けないとひどいことになりそうだと思った。

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