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【論文メモ17】対立・葛藤のメカニズム~コンフリクトレビュー論文~

  今回は、チーム活動においての対立・葛藤(conflict)についてのレビュー論文を取り上げたい。対立・葛藤、最も苦手であり、逃げるあるいは見て見ぬふりをするという対処(回避行動)を取りがちである。


取り上げる論文

・タイトル: The Paradox of Intragroup Conflict: A Meta-Analysis
      ( グループ内コンフリクトのパラドックス:メタ分析)
・著者名:Frank R. C. de Wit, Karen A. Jehn
・ジャーナル名: Journal of Applied Psychology 97(2),360–390, 2011年

概要

本研究は、グループ内コンフリクトがグループ成果に与える影響を調べたメタ分析です。コンフリクトにはタスクコンフリクト、関係性コンフリクト、プロセスコンフリクトの3種類があり、それぞれがプロキシマル成果(信頼や満足感)およびディスタル成果(パフォーマンス)に与える影響を調査しました。タスクコンフリクトは他のコンフリクトと比べて負の影響が小さく、一部の条件下ではパフォーマンスを向上させる可能性があります。

関連する理論・概念

・タスクコンフリクト: グループの課題や目標に関する意見の相違。
・関係性コンフリクト: メンバー間の個人的な価値観や性格の違いによるコンフリクト
・プロセスコンフリクト: タスクの遂行方法や役割分担をめぐるコンフリクト

変数

(a) 説明変数
タスクコンフリクト、関係性コンフリクト、プロセスコンフリクト。
(b) 調整変数
文化的背景、タスクタイプ、組織レベル、コンフリクトタイプ間の共起。
(c) 媒介変数
信頼、グループ満足度、結束。
(d) 成果変数
 ・
近接成果(Proximal Outcomes)信頼、結束、満足感
 ・遠位成果(Distal Outcome  パフォーマンス)

方法(Method)

116の研究(8,880グループ、484の効果サイズ)を対象にメタ分析を実施。データは、1990年から2010年の間に公開された文献を対象に収集。

結果(Result)

タスクコンフリクト(Task Conflict)

  • 信頼や満足感との関係:
    タスクコンフリクトは、グループメンバーの信頼(平均相関 -0.45)や満足感(-0.24)に対して負の影響を持つことが確認された。ただし、その負の影響は関係性コンフリクトやプロセスコンフリクトよりも小さい。

  • パフォーマンスとの関係:
    全体的に見て、タスクコンフリクトとパフォーマンスの間に明確な正または負の関連性は見られませんでした(平均相関 -0.01)。しかし、タスクコンフリクトが関係性コンフリクトと強く結びついていない場合や、トップマネジメントチームにおいては、パフォーマンスへの影響が正の方向に働くことが示されている。

  • 調整変数の影響:
    タスクコンフリクトとパフォーマンスの関係は、タスクの種類(創造的タスクや意思決定タスクなど)や組織階層(トップマネジメントチーム vs 非マネジメントチーム)によって調整されることが分かりました。

関係性コンフリクト(Relationship Conflict)

  • 信頼や満足感との関係:
    関係コンフリクトは、信頼(-0.53)、満足感(-0.54)、結束(-0.44)など、すべてのプロキシマル成果において強い負の影響を持つことが確認されました。

  • パフォーマンスとの関係:
    パフォーマンスに対しても一貫して負の影響が確認されました(-0.16)。

プロセスコンフリクト(Process Conflict)

  • 信頼や満足感との関係:
    プロセスコンフリクトは、信頼(-0.59)、満足感(-0.61)などに最も強い負の影響を持ちました。

  • パフォーマンスとの関係:
    パフォーマンスに対する影響も負であり(-0.15)、特にタスクの実行方法や役割分担に関するコンフリクトが深刻な問題を引き起こすことが示されています。

考察(Discussion)

タスクコンフリクトのポテンシャル

  • 肯定的な側面:
    タスクコンフリクトは、特定の条件下でグループ成果に対して正の影響を持つ可能性があります。特に、タスクコンフリクトが関係性コンフリクトやプロセスコンフリクトと関連性が弱い場合、グループ内で異なる視点が議論され、意思決定や革新性が向上することが示唆されています。

  • 否定的な側面:
    ただし、タスクコンフリクトがグループメンバー間の信頼や満足感を低下させる場合、グループの結束が弱まり、パフォーマンスにも悪影響を及ぼす可能性があります。

関係性コンフリクトとプロセスコンフリクトの影響

  • 両者ともにグループ成果に対して一貫して負の影響を与えます。特に、関係性コンフリクトは感情的な衝突や個人的な攻撃につながりやすく、プロセスコンフリクトは役割分担やタスク遂行方法における摩擦を引き起こします。

  • これらのコンフリクトは、グループ内の協力や相互信頼を損ない、パフォーマンスに直接的な悪影響を与えます。

調整変数の重要性

  • 組織階層:
    トップマネジメントチームでは、タスクコンフリクトがパフォーマンスに対して正の影響を持つ可能性が高いです。これは、上位組織のメンバーがコンフリクトを管理する能力を持っているためと考えられます。

  • 文化的背景:
    集団主義的文化や権力距離が大きい文化では、コンフリクトがより否定的な結果をもたらす傾向があります。一方、不確実性を許容する文化では、コンフリクトが比較的受け入れられ、負の影響が軽減される可能性があります。

感想

 対立に直面するのは、本当に嫌なことであるが、早めに手を付けておかないと、チームにとって取り返しのつかないことになる。
 一方で、まっとうに意見交換する中で生じる対立は、成果を高めることにもつながるという。そのためには、意見と人格を分けて考えて、意見の対立(タスクコンフリクト)を人格の対立(関係性コンフリクト)にしないことなんだろう。

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