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【論文メモ32】過去に所属した組織に対する支援行動についての分析

 人材の流動化が進むに従って、アルムナイなどの活動を会社が公式に行うケースが出てきている。
 取引先との間での従業員の移動が取引の増大をもたらす「元社員効果」(alumni effect)という概念もあるようである。
 今回は、そんな「過去に所属した組織に対する支援行動」について分析した論文を取り上げる。


取り上げる論文

タイトル:過去に所属した組織に対する支援的行動:組織アイデンティフィケーションからのアプローチ
著者:高尾 義明
ジャーナル:組織科学, 48(4),71-83 (2015)

概要

本研究では、元従業員が過去に所属していた組織に対して支援的行動をとる要因を、組織アイデンティフィケーションの観点から検討した。質問紙調査の分析結果から、過去の所属組織に対するアイデンティフィケーション(IDFO)だけでなく、現在の所属組織に対するアイデンティフィケーション(IDPO)も元所属組織への支援的行動に影響を与えることが確認された。

関連する概念

 本研究は、組織アイデンティフィケーション(organizational identification)を主要な理論的枠組みとして採用している。

組織アイデンティフィケーション
組織(集団)との一体性または組織(集団)への帰属性に対する知覚(Ashforth & Mael, 1989)

多重的アイデンティフィケーション(multiple identifications)
人は同時に複数の組織にアイデンティフィケーションを持ちうる(George & Chattopadhyay, 2005)

自己カテゴリー化理論(self-categorization theory)
ある集団のメンバーとして自分をカテゴリー化すること で、その集団へのアイデンティフィケーションが 生じるとともに、当該集団のプロトタイプ的行動が取られやすくなるとされている(Turner et al. 1987)

変数

(a) 説明変数(独立変数)
・過去の所属組織へのアイデンティフィケーション(IDFO)
・現在の所属組織へのアイデンティフィケーション(IDPO)
・過去の業務と現在の業務の関連性
(b) 調整変数
・過去の組織の在職期間
・離職の自発性
・現在の組織での役職
(d) 成果変数(従属変数)
 過去の所属組織への支援的行動
(例:「元の組織の製品やサービスを勧める」)。

尺度

組織アイデンティフィケーション(IDFO、IDPO): Mael & Ashforth(1992)の尺度を基に、小玉(2011)の修正を取り入れた3項目尺度(例:「誰かがその会社を批判したときに、個人的に侮辱されたように感じる」)
・支援的行動: Mael & Ashforth(1992)などを参照した3項目尺度(例:「その会社の製品を勧めたい」)。
・業務の関連性: 1項目の5点尺度(例:「現在の業務は、過去の業務と関連性が高い」)。

方法

・調査対象: 20〜40代の転職経験者(正社員)を対象に、2013年1月にインターネット調査を実施。
・有効回答: 302件(元所属組織が現存するものに限定)。
・分析手法: 階層的重回帰分析(多重共線性検証済み)。

 結果

(1)IDFO(過去の組織へのアイデンティフィケーション)が支援的行動を促す

 本研究の結果は、先行研究(Mael & Ashforth, 1992; Iyer et al., 1997)と一致し、過去の組織へのアイデンティフィケーション(IDFO)が元所属組織への支援的行動を促進することを明確に示した。

(2)IDPO(現在の組織へのアイデンティフィケーション)が支援的行動を抑制

本研究では、IDPO(現在の組織へのアイデンティフィケーション)が、元所属組織への支援的行動に負の影響を及ぼすことが確認された。

この結果を、自己カテゴリー化理論(Turner et al., 1987) に基づいて説明している。

・IDPOが強いと、個人は現在の組織の成員としてのプロトタイプ的行動(現在の組織の利益を最優先する行動)をとる傾向が強くなる。
・その結果、過去の組織を支援する行動を取ることが難しくなる(アイデンティティ間のコンフリクトが生じる)。
特に、現在の組織での在職期間が短いほど、IDPOが支援的行動を抑制する効果が強いことも確認された。
→ これは、新しい組織に適応しようとする段階(組織再社会化過程)では、現在の組織への忠誠心を示すことがより重要になるためと考えられる。

(3) 業務の関連性が支援的行動を促進
IDFOと業務の関連性の交互作用が支援的行動に影響を及ぼすという仮説を立てたが、この交互作用は有意ではなかった。
しかし、業務の関連性自体が支援的行動を直接促進することが明らかになった。

・現在の業務と過去の業務の関連性が高い場合、元従業員は自然と過去の組織の製品・サービスなどに関心を持ち続ける。
・その結果、支援的行動(製品の推奨など)を取りやすくなる。
・これは、業務の関連性が元の組織に関する知識の更新を促し、支援行動の合理性を高めるためであると推測される。

(4) IDFOとIDPOの関係性
 本研究の分析では、IDFOとIDPOの間に有意な正の相関があることが確認された。
→ これは、両方の組織への帰属意識が同時に成立することを示唆する。
しかし、支援的行動に対する影響は逆方向だった(IDFOは正、IDPOは負の影響)。
・先行研究では、異なる組織へのアイデンティフィケーションは相互に強化される傾向があるとされていた(Ashforth et al., 2008)。しかし、本研究の結果は、異なる組織へのアイデンティフィケーションが行動面では異なる効果を持つ可能性を示唆している。

感想

 著者も同様のことを述べているが、必ずしも組織アイデンティフィケーションばかりではなく、前の会社の社員とのネットワークなども支援的行動につながるような気がする。
 流動性が高まると、会社間の境界も今よりも低くなり、情報の非対称性とかも小さくなっていくのだろうか?
 アルムナイ活動が、商談の場になったりいろいろと広がりも出てくるようにも感じる。共通の言語が通じるというのも大きいだろう。

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