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【論文メモ33】目標への動機付けのメカニズム~目標志向性のメタ分析~

 今回は、目標志向性についてのメタ分析の論文。何度が目標志向性や学習志向の論文取り上げたが、その中でもこの論文、一番面白かった。その分、メモも長くなってしまった。

取り上げる論文

タイトル: A Meta-Analytic Examination of the Goal Orientation Nomological Net (目標志向性の法則的ネットワークに関するメタ分析的検討)

著者: Payne, Stephanie C. Youngcourt, Satoris S. and  Beaubien, Matthew J.

ジャーナル: Journal of Applied Psychology, 92(1), 128–150 発行年: 2007年

概要

本研究は、目標志向性(GO)の特性・状態の各次元とその関連要因をメタ分析により検討した。GO は学習志向(LGO)、証明的パフォーマンス志向(PPGO)、回避的パフォーマンス志向(APGO)の3次元から成る。結果として、LGO は学習・職務パフォーマンスと正の関連を示し、APGO は負の関連を持つ一方、PPGO は不明瞭な影響を示した。また、状態GO は特性GO よりもパフォーマンスへの影響が強かった。LGO の促進がパフォーマンス向上に有効であり、APGO の抑制が必要と示唆される。

関連する理論・概念

目標志向性(Goal Orientation, GO)
(1)目標志向性(GO)の定義
GO とは、人が課題達成に向けてどのような目標を持ち、どのような動機づけで取り組むのかを示す心理的特性 である。

(2)GO の分類
GO は 「特性GO(Trait GO)」「状態GO(State GO)」 の2つに分けられる。

①特性GO(Trait GO)
比較的安定した個人特性 としての GO。人が持つ 長期的な目標の傾向 を示す。
個人差が大きい(遺伝的要因や性格の影響を受ける)。一度確立されると 短期間では変わりにくい。職業選択・学習習慣・行動スタイル などに影響を与える。
②状態GO(State GO)
状況に応じて変化する一時的な目標志向性。その時の課題や環境の影響を強く受ける。
短期的に変動する(環境やフィードバックによって変わる)。訓練や経験によって変えられる(組織の教育プログラムなど)。パフォーマンスや学習成果とより強く結びつく。

(3)GO の3次元モデル
GO は、「学習志向(LGO)」「証明的パフォーマンス志向(PPGO)」「回避的パフォーマンス志向(APGO)」 の3つの次元に分類される。

①学習志向(Learning Goal Orientation, LGO)
LGO が高い個人は、知識を得たりスキルを習得することを目標として課題に取り組む。
失敗を学習の機会と捉え、挑戦を好む。自己改善に焦点を当てる(過去の自分と比較する)。学習戦略・フィードバック探索・自己調整能力が高い。
②証明的パフォーマンス志向(Prove Performance Goal Orientation, PPGO)
PPGO が高い個人は、自分の能力を証明し、他者からの良い評価を得ようとする。
競争的な環境で能力を証明しようとする。高評価を得るための戦略を重視するが、学習戦略は必ずしも活用しない。挑戦するが、評価が低くなるリスクを避ける傾向もある。
③回避的パフォーマンス志向(Avoid Performance Goal Orientation, APGO)
APGO が高い個人は、自分の無能さを示すことを避け、他者からの否定的な評価を回避しようとする。
失敗を恐れ、困難な課題を避ける傾向がある。フィードバックを求めるのを避ける(評価が低いとモチベーションが下がる)。課題に対するストレスや不安が高い。

変数

目標志向(GO)の先行要因(Antecedents)、近接的結果(Proximal Consequences)、遠隔的結果(Distal Consequences)について以下の変数について分析している。

方法

・研究デザイン: メタ分析
・サンプル: 1979年〜2002年に実施された157の独立した研究(合計178サンプル)
・分析手法: Hunter & Schmidt(1990)の心理測定メタ分析手法を適用

結果

(1)先行要因(Antecedents)

・LGO は 達成欲求、自己効力感、開放性 との関連が強く、成長志向のある人が持ちやすい。
・PPGO は 知能の固定的信念(Entity Theory) と関連し、「能力を証明したい」傾向がある。
・APGO は 低い自己効力感・高い神経症傾向 との関連があり、「失敗を避けたい」心理的要因が大きい。

【詳細】
①認知能力(Cognitive Ability):一般的な知的能力
   LGOとの関係:無関係
   PPGOとの関係:無関係
   APGOとの関係:若干の負の関係

②知能の暗黙理論(Implicit Theory of Intelligence):知能は変化可能か(Incremental) or 固定的か(Entity)
   LGOとの関係:Incremental理論と正の関係
   PPGOとの関係:Entity理論と正の関係
   APGOとの関係:Entity理論と正の関係

③達成欲求(Need for Achievement):成功したいという欲求
   LGOとの関係:正の関係
   PPGOとの関係:弱い正の関係
   APGOとの関係:負の関係
④ビッグファイブ性格特性(Big Five Personality Traits):性格特性(開放性、外向性、誠実性、協調性、神経症傾向)
   LGOとの関係:開放性・外向性・誠実性と正の関連
   PPGOとの関係:ほぼ無関連
   APGOとの関係:神経症傾向と負の関連
⑤自尊心(Self-Esteem):自己評価の肯定度
   LGOとの関係:正の関係
   PPGOとの関係:負の関係
   APGOとの関係:負の関係
⑥一般的自己効力感(General Self-Efficacy):自分の能力に対する一般的な信念
   LGOとの関係:強い正の関係
   PPGOとの関係:弱い負の関係
   APGOとの関係:強い負の関係

(2)近接的結果(Proximal Consequences)

・LGO はポジティブな影響をもたらし、学習戦略やフィードバック探索を促進する。
・PPGO は自己効力感や目標設定とほぼ無関係だが、不安を高める可能性がある。
・APGO は最もネガティブな影響を持ち、不安が高く、目標設定や学習戦略も消極的。

【詳細】
①状態 GO(State GO):状況に応じて変化する目標志向
   LGOとの関係:強い正の関係
   PPGOとの関係:弱い正の関係
   APGOとの関係:強い正の関係
②課題特異的自己効力感(Task-Specific Self-Efficacy):特定の課題に対する自己評価
   LGOとの関係:正の関係
   PPGOとの関係:ほぼ無関係
   APGOとの関係:負の関係
③自発的目標設定(Self-Set Goal Level):自ら設定する目標の難易度
   LGOとの関係:正の関係
   PPGOとの関係:弱い負の関係
   APGOとの関係:負の関係
④学習戦略(Learning Strategies):学習を促進する戦略の使用
   LGOとの関係:強い正の関係
   PPGOとの関係:弱い正の関係
   APGOとの関係:ほぼ無関係
⑤フィードバック探索(Feedback Seeking):成績向上のためのフィードバックを求める行動
   LGOとの関係:正の関係
   PPGOとの関係:無関係
   APGOとの関係:負の関係
⑥状態不安(State Anxiety):目標達成に対するプレッシャーや不安
   LGOとの関係:弱い負の関係
   PPGOとの関係:中程度の正の関係
   APGOとの関係:強い正の関係

(3)遠隔的結果(Distal Consequences)

・LGO は職務パフォーマンス・学習成果を向上させるが、短期の課題パフォーマンスとは無関係。
・PPGO は競争的な環境では有効かもしれないが、学習との関連はない。
・APGO は全体的に負の影響を持ち、学習やパフォーマンスを阻害する可能性が高い。

【詳細】
①学習(Learning):知識・スキルの獲得
   LGOとの関係:正のの関係
   PPGOとの関係:無関係
   APGOとの関係:負の関係
②学業成績(Academic Performance):GPA や試験成績など
   LGOとの関係:正の関係
   PPGOとの関係:無関係
   APGOとの関係:弱い負の関係
③課題パフォーマンス(Task Performance):実験室内での課題遂行能力
   LGOとの関係:無関係
   PPGOとの関係:無関係
   APGOとの関係:弱い負の関係
④職務パフォーマンス(Job Performance):実際の職務遂行能力
   LGOとの関係:強い正の関係
   PPGOとの関係:弱い正の関係
   APGOとの関係:データ不足

感想

 以前、目標志向を学習志向と業績志向に分けて分析した論文を紹介したが、この論文は、その業績志向をさらに、証明的パフォーマンス志向(Prove Performance Goal Orientation, PPGO)と回避的パフォーマンス志向(Avoid Performance Goal Orientation, APGO)に分けて分析している。PPGOとAPGOの次元を分けることで、PPGOの特質が学習志向との対比でスポットライトが当たって面白い。
 また目標志向も、特性と状態に分けて分析しているのが興味深い。その状況によって、志向性が変わってくるというのは、アプローチし甲斐がある。

いずれにしても学習志向大事。周囲を見ても、「勉強になるからやってみます!!」という人は成果もあげているように思うし、成長もしていると思う。

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