【論文メモ11】キャリア自律が組織コミットメントに与える影響
「組織コミットメント」に関連していくつか論文を取り上げたが、組織コミットメントについて調べる中でキャリア自律との関係性についての論文が興味深かったので取り上げてみる。
キャリア自律というと組織に頼らず、個人でキャリアを切り開いていくというイメージが強かったが、キャリア自律が、組織コミットメントを高めることにつながるというのが一見意外そうで面白かった。
取り上げる論文
タイトル : 「キャリア自律が組織コミットメントに与える影響」
著者名: 堀内泰利 岡田昌毅
ジャーナル: 組織心理学研究 2009 23(1)15-28
概要
本研究は、キャリア自律の心理的側面と行動的側面の関係を調査し、キャリア自律が社会人会社員のキャリア充実感および組織コミットメントに与える影響を明らかにすることを目的とした。首都圏の複数企業の社会人335名を対象にWeb調査を実施し、キャリア自律、キャリア充実感、組織コミットメントの間の関係をパスモデルで示した。結果、キャリア自律の心理的変数(職業的自己概念、キャリア形成動機、自己効力感)がキャリア行動を促進し、キャリア充実感を通じて組織コミットメントに間接的に影響することが示された。
関連する理論・概念
キャリア自律: 自己認識と自己の価値観、自らのキャリアを主体的に形成する意識をもとに(心理的要因)環境変化に適応しながら主体的に行動し、継続的にキャリア開発に取り組んでい ること(キャリア自律行動)自己認識を基盤に、主体的かつ継続的にキャリア開発に取り組む姿勢。
キャリア充実感: 現在の仕事への満足感や今後のキャリア展望に基づく肯定的評価。
職業的自己概念: 自身の能力、興味・欲求、価値観など職業における自己認識を指します。これはキャリア発達における中心的な概念であり、自己の職業上の目標や方向性を明確にする役割を果たします。
組織コミットメント: 組織への愛着(情緒的コミットメント)と、組織を離れることの損失回避意識(功利的コミットメント)。
変数
(a) 説明変数: キャリア自律の心理的要因(職業的自己概念、キャリア形成意識、自己効力感)。
(b) 調整変数: キャリア自律行動(主体的行動、キャリア開発行動、環境適応行動)
(c) 媒介変数: キャリア充実感(仕事充実感、キャリア評価・展望)。
(d) 成果変数: 組織コミットメント(情緒的コミットメント、功利的コミットメント)
方法
2007年に首都圏の企業勤務者335名を対象にWeb質問紙調査を実施。キャリア自律、キャリア充実感、組織コミットメントに関する因果関係を共分散構造分析を用いて検討。
結果
(1)キャリア自律の構成要因
①キャリア自律の心理的要因
これらの心理的要因のうち、「職業的自己概念の明確さ」と「主体的キャリア形成意欲」が特に重要であるとされ、これらを高める支援の必要性が示唆された。
②キャリア自律の行動的要因
(2)キャリア充実感の促進
キャリア充実感は、「仕事充実感」と「キャリア評価と展望」の2つの要素で構成されました。
心理的要因と行動的要因がこれらの充実感を促進することが確認され、特に「主体的仕事行動」が「仕事充実感」と「キャリア評価と展望」の両方に寄与しました。また、「職業的自己概念の明確さ」はキャリア充実感に直接的な影響を与える主要因として特に重要であることが示されました。
(3)キャリア自律と組織コミットメントの関係
組織コミットメントは、「情緒的コミットメント」と「功利的コミットメント」の2つの側面で構成されました:
キャリア充実感の「キャリア評価と展望」から功利的コミットメントへの負の影響(β=-.20, p<.01)が確認されました。また、「職業的自己効力感」が功利的コミットメントを直接抑制する役割を果たすことが示されました(β=-.21, p<.001)。
これにより、キャリア自律は情緒的コミットメントを高める一方、功利的コミットメントには抑制的に作用することが明らかになりました。
わかったこと
職業的自己概念の明確さがキャリア自律およびキャリア充実感に重要であることが実証された。キャリア自律の促進には自己責任意識を強調するだけでなく、職業的自己認識を高める支援が必要。
感想
キャリア自律というと組織から離れて個人として、どうキャリアを設計していくかに重点を置いており、組織コミットメントと相反するかなという気がするが、情緒的コミットメントを高めるメカニズムが理解できた。また功利的コミットメントは下がるというのもよくわかる。