【論文メモ10】何が組織に対するコミットメントを上げてそれはどんなことにつながるか?~組織コミットメントレビュー~
個人と組織の関わり方が変化する中、個人の組織への持続的な態度である「組織コミットメント」については興味深いテーマであり、今までいくつか取り上げた。今回は、代表的なレビュー論文である本論文を取り上げたい。
取り上げる論文
タイトル :A Review and Meta-Analysis of the Antecedents, Correlates, and Consequences of Organizational Commitment
(組織コミットメントの先行要因、相関、および結果に関するレビューとメタ分析)
著者名 : John E. Mathieu, Dennis M. Zajac
ジャーナル : Psychological Bulletin 1990, 108( 2),171-194
概要
この論文では、組織コミットメント(OC)の先行要因、相関、および結果について過去の実証研究をメタ分析を用いて要約しました。48のメタ分析が実施され、26の変数が先行因子、8が結果、14が相関因子として分類されました。統計的な要因が研究間のばらつきを説明するのは、出席率を用いた1つのメタ分析のみでした。OCのタイプ(態度的 vs 計算的)はモデレーター変数として提案され、18の比較のうち9において有意な研究間分散を説明しました。OCの測定、他の変数との相互関係、組織行動の因果モデルにおける役割に関する理論的・方法論的な課題について論じられています。また、今後の研究の方向性が提示されています。
方法
文献検索: 1967年から1987年までの研究を対象に、電子データベース(PSYCINFO)と手動検索を実施。174の独立したサンプルから48の変数とOCとの関係をメタ分析で評価。
分析手法: Hunterらの方法に基づき、測定誤差とサンプリング誤差を補正して相関を算出。研究間のばらつきを調整するためにモデレーター変数を導入。
結果
以下のように、組織コミットメントの先行要因(Antecedents)、相関要因(Correlates)、成果要因(Consequences)が分類された。
主なものを挙げていきたい。
先行要因
組織コミットメント(OC)を形成する要因として、個人特性、職務特性、グループ・リーダー関係、組織特性、役割状態が取り上げられています。
主要な概念と相関の強さ:
(1)個人特性 (Personal Characteristics)
年齢 (Age): 年齢が高いほどOCが高い(中程度の正の相関:r = .201)
教育 (Education): 教育水準が高いほどOCが低い(弱い負の相関:r = -.092)
給与 (Salary): 給与が高いほどOCが高い(弱い正の相関:r = .182)
プロテスタント労働倫理 (Protestant Work Ethic): 勤勉さや仕事への献身に価値を置く人はOCが高い(中程度の正の相関:r = .289)
(2)職務特性 (Job Characteristics)
・スキル多様性 (Skill Variety): 職務が多様なスキルを求めるほどOCが高い(中程度の正の相関:r = .207)。
・職務範囲 (Job Scope): 職務が広範で複雑なほどOCが高い(強い正の相関:r = .503)
(3)グループ・リーダー関係 (Group-Leader Relations)
リーダーの配慮 (Leader Consideration): 配慮型リーダーシップが高いほどOCが高い(中程度の正の相関:r = .335)。
(4)役割状態 (Role States)
・役割曖昧性 (Role Ambiguity):
役割が不明確なほどOCが低い(中程度の負の相関:r = -.218)
・役割衝突 (Role Conflict)
役割上の衝突が多いほどOCが低い(中程度の負の相関:r = -.271)
相関要因
OCと心理的な反応や態度の間に見られる相関関係が分析されています。
主要な概念と相関の強さ:
(1)動機付け (Motivation)
・内的動機付け (Internal Motivation):
自己実現や達成感による動機付けが高いほどOCが高い(強い正の相関:r = .668)
・職務満足度 (Job Satisfaction)
全体的な職務満足度 (Overall): 職務に全体的に満足しているほどOCが高い(強い正の相関:r = .533)
仕事そのものへの満足 (Work Itself): 自身の職務そのものに満足しているほどOCが高い(非常に強い正の相関:r = .595)
(2)職務関与 (Job Involvement):
職務に心理的に没入しているほどOCが高い(中程度の正の相関:r = .439)
(3)ストレス (Stress):
ストレスが高いほどOCが低い(中程度の負の相関:r = -.330)。
成果要因
OCが従業員の行動や意図に与える影響が分析されています。
主要な概念と相関の強さ:
(1)行動意図 (Behavioral Intentions)
・離職意図 (Intention to Leave): 離職したいと考えるほどOCが低い(強い負の相関:r = -.464)。
・転職活動の意図 (Intention to Search): 転職活動をする意向が高いほどOCが低い(非常に強い負の相関:r = -.599)。
(2)実際の行動 (Actual Behaviors)
・出席率 (Attendance): 出席率が高いほどOCが高い(弱い正の相関:r = .102)
・離職率 (Turnover): 離職率が高いほどOCが低い(中程度の負の相関:r = -.277)
(3)職務パフォーマンス (Job Performance)
・他者評価によるパフォーマンス (Others' Ratings)
他者によるパフォーマンス評価が高いほどOCがやや高い(弱い正の相関:r = .135)
感想
組織コミットメントがどんな事で高まり、そのことでどんなことにつながるのか?
だいたい経験値からわかるものの、体系的にまとめてくれており、どんなことが効くのかが想定できる。
スキルが多様だったり、職務範囲が広いと組織コミットメントが上がるのは、なるほどいう感じである。