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【論文メモ34】「組織のため」と思い悪事をなすメカニズム~非倫理的向組織行動レビュー

 今回は、「組織のため」と思って法やルール、道徳に反してしまうことについての概念である非倫理的向組織行動(Unethical Pro-organizational Behavior: UPB)についての論文を取り上げる。

取り上げる論文

タイトル: 「組織のため」の罠:非倫理的向組織行動研究の展開と課題
著者: 北居 明、鈴木 竜太、上野山 達哉、松本 雄一
ジャーナル: 組織科学 52(2) 18-32(2018年)

概要

本論文の目的は、近年組織行動論で注目され始めている非倫理的向組織行動(Unethical Pro-organizational Behavior: UPB)を理論的に検討することである.蓄積されつつある UPBの先行研究をレビューし、UPB概念と他の類似概念との違い、社会心理的メカニズム、およびUPBを扱った経験的研究の内容について整理する.そのあとで今後のUPB研究の発展に資する考察を加える.

関連する概念・理論

非倫理的向組織行動(Unethical Pro-organizational Behavior: UPB)
組織あるいはメンバー(例、リー ダー)の能率を促進するために、社会的に中核となる価値観、慣習、法、あるいは適切な行動基準を侵害する行為(Umphress & Bingham 2011)

構成要素
①社会的規範に従わない不道徳的な行動
②自発的・意図的に行われる行動。(したがって、上司の命令で不本意ながら行われる非倫理的行動は UPBとは呼べない。)

方法

本論文は、既存のUPB研究をレビューする形で議論を展開している。先行研究に基づき、UPBの概念整理、理論的枠組みの提示、経験的研究の結果の整理を行った。

UPBの社会心理的メカニズム

(1)道徳の無効化と不活性化

先行研究によれば、UPBに直接影響する要因は、道徳の無効化不活性化(Umphress& Bingham 2011、Chen et   al.  2016)
著者らは、UPB は、当初は非倫理的であるはずの行動が、「組織や上司のために」行うなどという再定義を経ることによって、実行されてしまう行動として、道徳の無効化と不活性化のメカニズムについての先行研究をレビューする。

道徳の無効化
人々が当初は道徳的に間違っていると思った行動に誘惑された場合、最後にはその行動が道徳的に受け入れられると確信する認知的プ ロセス(Sykes &   Matza 1957)

認知的不協和が軽減され、非倫理的行動がそれほど不快なものと見なされず、自己非難から免れることができるようになる。

人々は、正直さ、公正さなど他の道徳的価値観よりも、「会社のためにはこうする他にない」などと、現在の文脈ではそれらの方が重要であると認識することで、道徳性を無効化することが可能となる。

道徳の不活性化
非道徳的行動を抑制する自己調整メカニズムが機能しなくなるプロセス

Bandura(2002)によれば、非道徳的行動に対 する自己非難が不活性化するプロセスは、図 2 のように表され、不活性化の中心は、非難されるべ き非倫理的行動が道徳的に正当化され、都合の良い比較が行われ、婉曲的な言語で表現されることで、あたかも正当で立派な行動として再定義される

(2)UPBの理論的プロセスモデル

Umphress & Bingham(2011)は、UPBの理論的プロセスモデルを示した。このモデルでは、UPBがどのように形成されるのかを説明する。

【主要構成要素】
肯定的交換関係(Positive Social Exchange)
従業員が組織から恩恵を受けることで、組織のために行動しようとする心理が生じる。

組織同一化
従業員が組織の一員としての自覚を強めることで、組織を守る行動をとりやすくなる。

道徳の無効化
従業員が道徳的判断を停止し、非倫理的行動を正当化することで、UPBが促進される。

【調整要因】
非道徳的文化
組織全体の倫理観が低い場合、道徳の無効化が加速し、UPBが発生しやすくなる。

道徳的発達
個人の道徳的成長段階によって、UPBに対する抵抗力が変化する。道徳的発達が低い場合、UPBを行いやすくなる。

潜在的重大性
UPBの結果が重大であると認識されるほど、行動の抑制が働く。

【UPBの影響】
罪悪感と恥の意識
認知的不協和
UPB を行った後、非倫理的な行動をしたと感じた場合、認知的不協和が発生
Umphress &   Bingham(2011) は、その解消方法として、2 つの方向性をあげている.

①UPB の非倫理性を減じる方向に知覚を変える方法
②組織に対する態度を変化させる方法
後者についてこう論じる。

UPB を行った人々は、自分の行動の理由を組織同一化 と肯定的な社会交換関係に帰属させることが可能である.すなわち、UPB による認知的不協和の 解消のため、より一層組織に同一化し、組織や上司と肯定的な交換関係を結ぼうとする可能性がある。

UPBの経験的研究

(1)組織に対する態度とUPB

UPBの測定尺度は、Umphress et al.(2010)によって開発された。

この尺度を用いた研究では、組織同一化がUPBに影響を与えることが示された。
ただし、組織同一化単独ではUPBに有意な影響を持たなかったが、積極的互酬信念との相互作用が確認された。
また、Chen et al.(2016)は、UPBが道徳の無効化を完全に媒介していることを実証した。さらに、Effelsberg et al.(2014)やKong(2016)なども、組織同一化とUPBの間に正の関係があることを示している。

(2)リーダーシップスタイルとUPB

倫理的リーダーシップとUPBの関係は逆U字型であることを発見(Miao et al. 2013)。

倫理的リーダーシップ
規範的に適切な行動を、個人の行為や人間関係、および双方向のコミュニケーショ ン、強制、および意思決定を通じて奨励することで示して いくこと(Brown et al., 2005)

倫理的リーダーシップが低い場合、従業員のUPBは少ない。中程度のとき、UPBが最も高まる。高い場合、UPBは再び減少する。この逆U字関係は、従業員がリーダーに対して強い同一化を持つ場合により強くなることが示されている。つまり、従業員はリーダーの期待に応えるためにUPBを行う可能性がある。

(3)個人的要因とUPB

近年の研究では、個人的要因がUPBに与える影響も検討されている。

道徳的同一化(Matherne & Litchfield  2012)
  道徳的同一化が高いとUPBは抑制される。
倫理的行動志向(Effelsberg et al. 2014)
  UPBを抑制する要因となる。
積極的互酬信念(Umphress et al. 2010)
  組織同一化とUPBの関係を強化する。
マキャベリズム(Castille et al. 2016)
  UPBを促進する要因となる。

感想

 こういうことって大なり小なりあるなあと思う。
個々人の倫理観もあるが、その人が置かれた環境や今までの経緯などを見ていくと逃れ難い面もあるようにも思う。
 UPBの尺度の内容を見て自分でどう答えるか考えてみると、「そう思わない」とはっきりとは言えない自分がいる。
 従業員を守るためにも、会社が「道徳的な文化」を理念や行動規範で掲げるのは大切なんだなと改めて感じた。

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