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【論文メモ29】経験通じて学び成長したいという気持ちを育くむメカニズム(変革型リーダーシップの学習志向性への影響)
今回も、前回に続き学習志向性に関連する論文を取り上げたい。今回は、リーダーシップという組織の要因が、個々人の学習志向性に与える影響についての論文である。
前々回(論文メモ27)は、学習志向性か達成志向性かという目標志向性の違いが成果に与える影響についての論文であった。また前回(論文メモ28)は困難な挑戦から学ぶことに対して学習志向性の有無が与える影響についての論文であった。
両論文は、学習志向性が調整変数・媒介変数となる論文であったが、今回は、学習志向性を成果変数としてその規定要因として、変革型リーダーシップや組織コミットメントを取り上げた論文である。
前置き長くなってしまったが、はじめたい。
取り上げる論文
タイトル:学習志向性に対する変革型リーダーシップの影響とそのメカニズムの検討
著者:砂口 文兵
ジャーナル:「経営行動科学」30(2)
発行年:2017年
概要
本研究は、変革型リーダーシップと学習志向性の関係について、組織コミットメントの媒介効果を通じて検討した。先行研究では、目標志向性に関する要因やその構造が理論的・実証的に示されているが、組織要因が個人の目標志向性に与える影響には十分な研究がなされていない。そこで本研究では、変革型リーダーシップが学習志向性に及ぼす影響に焦点を当て、組織コミットメントの媒介効果を検証した。
小売企業の従業員(N = 2,648)を対象とした共分散構造分析の結果、変革型リーダーシップは学習志向性に直接的な影響を与えるだけでなく、組織コミットメントを介して間接的な影響を及ぼすことが確認された。
関連する理論・概念
変革型リーダーシップ(Transformational Leadership)
部下に対してビジョンを示し、モチベーションを向上させるリーダーシップスタイル。以下の4要件からなる。
①知的刺激(Intellectual Stimulation)
フォロワーは今までとは異なる考え方やものの捉え方をするようになる
②個別的配慮(Individualized Consideration)
フォロワー1人1人の異質性などに配慮するリーダ ーの行動により生じる
③理想化された影響(Idealized Influence)
リーダーに対するフォロワーの同一化を高めるもの
④モチベーションの鼓舞(Inspirational Motivation)
リーダーによって示された ビジョンの実現に向け,フォロワーを動機づけ る行動
・学習志向性(Learning Goal Orientation)
組織メンバーが成果ではなく学習そのものに価値を置く志向性。
・組織コミットメント(Organizational Commitment)
情緒的コミットメントと功利的コミットメントからなるが、本論文では、情緒的コミットメントに着目。
学習内容が企業特殊的でありうる点を踏まえれば、個人が学習に積極的に向き合う暗黙的前提には、学習を行なう組織への好意的な関心が必要であると考えるためである従業員が組織に対して持つ感情的な結びつきが必要であると考える。
変数
(a) 説明変数(独立変数):変革型リーダーシップ
(b) 調整変数(モデレーター):勤続年数
(c) 媒介変数(メディエーター):組織コミットメント
(d) 成果変数(従属変数):学習志向性
尺度
・変革型リーダーシップ:MLQ(Avolio et al., 1995)の16項目尺度
・学習志向性:VandeWalle et al. (2001)の尺度
・組織コミットメント:Meyer & Allen (1993)から情緒的コミットメントの3項目尺度を利用
方法
・調査対象:日本の大手小売企業1社の従業員(正規社員と非正規社員)
・調査方法:質問紙調査
・有効回答数:2,648(正規社員697名、非正規社員1,951名)
・平均年齢:43.87歳
・分析手法:共分散構造分析
結果
・変革型リーダーシップは学習志向性に 直接的影響(正規社員 β = 0.38, 非正規社員 β = 0.34
・変革型リーダーシップは 組織コミットメントを介して学習志向性に間接的影響(正規社員 β = 0.41, 非正規社員 β = 0.28)
・勤続年数が長いほど、学習志向性は低下する傾向(正規社員のみ)
以下は、正規社員のパス解析の結果である。
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わかったこと
・変革型リーダーシップは直接的な影響だけでなく、組織コミットメントを介して間接的な影響を与えることが確認された
・雇用区分に関係なく、変革型リーダーシップの影響が学習志向性に及んでいることが示された。これは、変革型リーダーシップの影響が、個人レベル(部下への直接的影響)と集団レベル(組織風土の醸成)の両面で作用するためと考えられる
・勤続年数が長くなるほど学習志向性が低下する傾向が確認された
最後の、勤務年数と学習志向性の関係については、どういうことなのかなと思ったが、著者は、キャリア・コンサーンとジョブ・ローテーションという観点から以下の通り考察する。
キャリア・コンサーンによる影響
キャリア・コンサーンとは、現在の業績が将来の昇進や評価に与える影響を意識すること
・若手社員の特徴(勤続年数が短い)
昇進の機会が多いため、自己の能力を積極的に示そうとする。そのため、新しいスキルを学び、学習志向性が高まる
・ ベテラン社員の特徴(勤続年数が長い)
昇進の機会が減少し、キャリア・コンサーンの影響が弱まる。その結果、新たな学習に対する意欲が低下する
ジョブ・ローテーションによる影響
ジョブ・ローテーションとは、従業員が異なる業務や部署を経験する仕組み を指す
・ 若手社員の特徴(勤続年数が短い)
ジョブ・ローテーションによって新しい職務を経験する機会が多い。
そのため、新しい知識を習得する必要性が高く、学習志向性が促進される
・ ベテラン社員の特徴(勤続年数が長い)
経験する職種の幅が狭くなり、新しい学習機会が減少する。その結果、学習志向性が低下する可能性が高い
感想
今回もなかなか興味深い論文である。
学習志向性は個々人が持つ特質なので、組織やチームとしては所与のものと捉えるという考え方もあるが、そこも関わり方次第で可変であるというのは人材開発を考える上では大切である。
それにしても、上司の影響、リーダーシップの影響はやっぱり大である。あとはベースとしての情緒的コミットメントの醸成も大切にしたい。
また情けない話だが、やっぱり日本語論文は読んでいて理解が進む。。