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【論文メモ36】チームワーク研究40年の軌跡

 今回は、チームワーク研究40年を振り返り、その進歩と課題について論評した論文を取り上げる。

取り上げる論文

タイトル: The Science (and Practice) of Teamwork: A Commentary on Forty Years of Progress (チームワークの科学(と実践):40年の進歩に関する論評)
著者:Sales, Eduardo. Linhardt, Rylee. and Castillo, Gabriela F.
ジャーナル : Small Group Research, 2024, 1–34

概要

 本論文は、40年前にDyerが行ったチーム科学の研究のレビューを基準点とし、過去40年間における進歩を振り返る。理論的基盤や実証的証拠の不足が指摘されていた当時から、現在ではチームワークに関する革新的な理論が構築され、タスクの理解を超え、チームの発展過程や効果的なチームワークを促進する条件が明らかにされてきた。本論文では、メタ分析を含む多岐にわたる研究成果を概観し、進展した点と今後の課題を整理する。

方法

本研究は、過去40年間のチームワークに関する研究をレビューする文献研究である。主にDyer(1984)の提起した7つの問いを基準に、メタ分析、縦断研究、実験研究の成果を整理し、理論の発展と未解決の課題を考察する。

Dyer(1984)の7つの問いと本論文の論評

(1)チーム行動を説明するために提案された理論は何か?

Dyer(1984)の指摘

・1984年当時、チーム行動を体系的に説明する包括的な理論はほとんど存在せず、既存の理論も主に記述的であった。
・I-P-O(Input-Process-Output)モデルは存在していたが、チームのプロセスや環境要因の影響についての理解は未発達であった。

本論文の論評
・現在では、I-P-Oモデルが発展し、I-M-O(Input-Mediator-Output)モデルやチーム認知(team cognition)の概念が導入された。
・チームワークは単なる個人の努力の集合ではなく、環境や行動、結果の相互作用によって形成される動的なプロセスとして理解されている。
・チームの認知的プロセス(共有メンタルモデルやトランザクティブ・メモリー・システム)に関する研究が進み、チーム内での知識の共有と協調のメカニズムが明らかになってきた。

(2)チームはどのようなタスクを遂行するのか?

Dyer(1984)の指摘

当時の研究は、チームが遂行するタスクの種類を分類することに焦点を当てていたが、タスク間の相互作用やチームダイナミクスにはあまり注意が払われていなかった。

本論文の論評
・近年の研究では、タスクの種類だけでなく、タスク間の相互依存性や、チームメンバー間の知識共有の重要性が強調されるようになった。
・共有メンタルモデルやトランザクティブ・メモリー・システムを活用し、知識の整理と活用を通じてチームの効果性を高める研究が進展している。

(3)チームはどのように機能するのか?どのようなプロセスを通じて目標を達成するのか?

Dyer(1984)の指摘

・1980年代初頭には、チームの機能やプロセスについての体系的な研究が少なく、チームメンバーの相互作用がどのようにチームの効果性に影響を与えるかは不明確だった。

本論文の論評
・近年では、チームプロセスの理解が大きく進展し、「発現状態(emergent states)」の概念が導入された。
・チームの発展は静的なものではなく、計画フェーズ・実行フェーズ・調整フェーズという時間的な枠組みの中で変化することが明らかになった。
・チームコヒージョン、心理的安全性、適応力などの要因が、チームのパフォーマンスを高めるために重要であることが分かってきた。

(4)チームのパフォーマンス、プロセス、その他の特性を測定するために開発された手法は何か?

Dyer(1984)の指摘

当時、チームのパフォーマンスを評価する測定方法は限定的で、主に観察や簡易なアンケート調査が用いられていた。

本論文の論評
・現在では、多様な測定方法が開発され、フィールド実験、シミュレーション、メタ分析、行動観察、デジタルデータ分析などが用いられている。
・チームのリアルタイムパフォーマンスを客観的に測定する手法が発展し、チームワークのダイナミクスをより正確に捉えることが可能になった。

(5)チームのパフォーマンスに影響を与える要因は何か?

Dyer(1984)の指摘

パフォーマンスフィードバック、メンバーの入れ替わり、グループサイズ、作業の分配、コミュニケーション、協調、グループ計画が影響要因として挙げられていたが、体系的な分析は不足していた。

本論文の論評
・近年の研究では、フィードバックはチームの適応力向上に不可欠であり、適切に設計されたフィードバックがパフォーマンスを向上させることが確認された。
・コミュニケーションと協調は、現在ではチームワークの最も重要な要素の一つとされ、質の高いコミュニケーションがパフォーマンス向上に貢献することがメタ分析によって証明されている。

(6)トレーニングプログラムがチームのプロセスとパフォーマンスに与えた影響は何か?

Dyer(1984)の指摘

当時はチームトレーニングの効果を実証する研究が少なく、トレーニングの設計や評価に関する知見が不足していた。

本論文の論評
・近年では、チームトレーニングの効果を示す豊富なメタ分析研究が蓄積され、適切なトレーニングがチームパフォーマンスを向上させることが実証されている。
・チームトレーニングは、単なるスキル習得にとどまらず、心理的安全性の向上、協調性の強化、リーダーシップ育成など、多面的な効果をもたらすことが確認されている。

(7)チームトレーニングと評価を改善するために検討すべき方法論的課題は何か?

Dyer(1984)の指摘

縦断研究の不足、適切な測定技術の欠如、トレーニングの評価基準の不明確さなど、多くの課題が存在していた。

本論文の論評
・現在でも縦断的研究の不足は課題として残っているが、リアルタイム測定技術の進展により、チームワークの動的な変化を捉える試みが進んでいる。

チームワーク研究の総括と今後

(1)チームワーク研究の進展と意義

「チームワークの科学と実践は堅実であり、活発に発展し、実社会に大きな影響を与えている」(Levine & Moreland 1990)
40年間の研究によって、チームとチームワークに関する多くの知見が蓄積され、理論的にも実証的にも大きな前進が見られた。
チームワークの重要性は増しており、以下のようなメリットがあると強調されている。

エラーの防止、イノベーションの促進、新たな知識の創造、個人のエンパワーメント、包括性と結束の強化、レジリエンスの向上(困難な状況への適応力)

(2) 今後の課題と研究の方向性

①チームの多様化と新たな形態
これまでの研究では、伝統的なチーム(対面でのコラボレーションが基本)を主に扱ってきたが、現在では以下のような新たなチーム形態が増えている

・チーム・オブ・チームズ(複数のチームが連携する大規模システム)
・ハイブリッドチーム(対面とリモートのメンバーが混在)
・クロスファンクショナルチーム(異なる専門分野のメンバーで構成)
・バーチャルチーム(完全リモート)
・自己管理型チーム(リーダーを持たず、メンバーの自律性が高い)
・人間とAIの協働チーム(AIと人間が協力するチーム)

これらの新しいチーム形態に対応するため、チームワークの科学も進化し続ける必要があるとする​。

② 新たな理論と方法論の開発
・理論の進化:新しいチーム形態に適応するため、これまでのI-P-OモデルやI-M-Oモデルに代わる新たな理論が必要
・測定方法の革新:チームのリアルタイムなパフォーマンスを測定するための新しいメトリクスや評価手法の開発が必要
・実践への応用:研究成果を現場に適用しやすい形にするための橋渡し(トランスレーション・リサーチ)が必要​

感想

 チームの捉え方が静的なものから動的なものへと変化してきているというのはまさに40年の研究による成果であろう。
 研究により、概念・理論が発見され、様々な事象が見えるようになってきている。心理的安全性、トランザクティブメモリーシステムなどが典型だろう。
 著者らが指摘するように、チームの形態も様々に発展してきており、今後の研究領域の拡がり発展は面白そうである。


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