【論文メモ13】やりたいことをやることによる効果のメカニズム(自己決定理論レビュー)
人からあれをやれこれをやれと言われるのはめっぽう嫌いである。
自律的に自分がやりたいことをやることによる効用についてのメカニズムについての「自己決定理論」についてのレビュー論文を取り上げる。内発的動機付けと外発動機付けの二分論ではなく、いろいろなレベル感で自律性を論じていてなかなか興味深かった。
取り上げる論文
タイトル:Self-Determination Theory in Work Organizations: The State of a Science(自己決定理論と職場組織: 科学の現状)
著者名: Edward L. Deci, Anja H. Olafsen, Richard M. Ryan
ジャーナル: Annual Review of Organizational Psychology and Organizational Behavior, 4巻, pp.19–43, 2017年
概要
自己決定理論(SDT)は、人間の動機付けに関するマクロ理論であり、職場や他の生活領域にも適用されている。本論文では、職場でのSDT研究をレビューし、自律的動機付け(内発的動機付けと完全に内面化された外発的動機付け)と制御的動機付け(外部または内的に制御された外発的動機付け)の区別、そして従業員が満たすべき基本的心理的欲求(有能感、自律性、関係性)の重要性を議論する。これらの欲求を満たすことで、自律的動機付け、高品質なパフォーマンス、ウェルネスが促進されることを示し、SDTが職場での政策、実践、環境設計に与える影響を概説する。
関連する概念
(1)自己決定理論(Self-Determination Theory, SDT)
人間の動機付けを包括的に説明するマクロ理論。以下の主要な構成要素があります。
①動機付けの種類
SDTは動機付けを自律性の観点から分類し、異なる種類の動機付けが異なる結果をもたらすことを示しています。
(a)自律的動機付け(Autonomous Motivation)
個人が行動に対して内面的に価値を見出し、自己選択的に行動する状態。以下を含む
(b)制御的動機付け(Controlled Motivation)
外部または内部の圧力によって行動が強制される状態。以下を含む
②基本的心理的欲求(Basic Psychological Needs)
SDTの中核には、以下の3つの心理的欲求があります。これらが満たされることで、動機付けやウェルネスが向上します。
(2)内発的動機付けと外発的動機付けの統合
外発的動機付けも適切な状況下では自律的動機付けに変容し得るとされています。
動機付けの質は、外的調整(最も制御的)から内発的動機付け(最も自律的)まで連続体上に存在します。この連続体の概念に基づき、SDTは外発的動機付けの成熟度を次のように分類しています
変数
(a)説明変数:
職場環境(自律性支援 vs. 欲求阻害的環境)
個人の違い(因果性志向、目標・志向性)
(b)調整変数:
文化的背景
組織のタイプ(例: 利益志向 vs. 非営利組織)
(c)媒介変数:
基本的心理的欲求の満足または挫折(有能感、自律性、関連性)
動機づけの種類(自律的 vs. 統制的)
(d)成果変数:
パフォーマンス(質と量)
健康・ウェルネス(バーンアウト、仕事満足度、活力)
方法
レビュー論文として、SDTの主要な概念と理論モデル、職場での応用、およびこれらの要素を検証した研究の結果をまとめた。関連する文献を体系的に整理し、変数間の関係や効果を検討した。
結果
(1) 職場環境における影響
職場では、以下の要因が動機付けと欲求の満足度に大きな影響を与えます。
自律支援的管理
管理者が従業員の視点を尊重し、選択肢を与えることで自律的動機付けを高めます。研究によれば、自律支援的な管理スタイルは従業員のバーンアウトを減少させ、エンゲージメントを向上させます。
欲求阻害的な環境
強制的な管理、監視、非合理的な指示などは、欲求不満を引き起こし、動機付けを低下させます。
(2)報酬の役割
報酬は動機付けに複雑な影響を与えます。
制御的な報酬(例: 成績に応じた金銭的インセンティブ)は、内発的動機付けを損なう可能性があります。
情報的な報酬(例: ポジティブなフィードバック)は、有能感を高め、動機付けを促進します。
報酬が従業員に与える影響は、報酬が「情報的」か「制御的」かという解釈に依存します。
(3) リーダーシップの影響
リーダーシップは、従業員の欲求満足と動機付けに重要な役割を果たします。
①変革型リーダーシップ(Transformational Leadership)
従業員の基本的欲求を満たし、自律的動機付けを高めます。例えば、選択肢を与え、明確な目標を設定することが挙げられます。
②取引型リーダーシップ(Transactional Leadership)
報酬と監視に依存するアプローチであり、長期的にはネガティブな影響を与える可能性があります。
(4)介入研究
SDTに基づく介入研究では、自律支援的な管理や基本的欲求の満足を目指したアプローチが成功しています。
例1: フォーチュン500企業
管理者向けの自律支援トレーニングにより、従業員の満足度とパフォーマンスが向上しました。
例2: 精神病院
欲求を満たす環境づくりにより、職員と患者のウェルネスが改善されました。
感想
外発的動機にも、レベル感がグラデーションのようにいろいろとあることや内発性、有能性、関係性という人としての基本的な心理欲求の大切さなどとても参考になる。
自分が若いころは何をやりたいとかも曖昧模糊としていたが、今はこれをやりたいってのを持っている人が多いように思うので、自己決定理論のメカニズム押さえておくのは大切だろう。