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第4章 『幻影からの脱出』

『幻影からの脱出』(明石書店、2012)の書評文


 該当書籍は、前著『「東大話法」と原発危機』の続編と云う内容ですが、内容はより込み入ったものとなっています。第1章で、安冨さんが指摘しているように、「東大話法」の本質は「自分の考え」がないことです。要するに、思想がないからこそ、成立すると云えます。

 同書のかなり部分は「東大話法」や「原発」そのものと云うよりもそれらが成立した歴史的な背景について説明されています。
 安冨さんが分析しているのは、「田中角栄」と云う傑出した政治家が行なった政治のあり方でした。そして、同時に現在日本の停滞の原因は、新しい政治理念が欠如していることだと指摘しています。安冨さんが分析した「田中主義」「小泉主義」は政治学の用語で云うならば、「大きな政府」「小さな政府」と云います。「田中主義」、「大きな政府」なら「税金の負担が増えるが、その分サービスは手厚くする」と云うことになります。一方で、「小泉主義」、「小さな政府」なら「税金は安いが、サービスは少なく、何かあっても自己責任」と云うことになります。

 政治学者・中島岳志さんが指摘しているように、現在の日本は「小さすぎる政府」となっています。OECDの加盟国でも千人あたりの公務員の割合は少なく、税負担でも税金が安い国になっています。つまり、現在の日本は税金の収入が少なく、政府が行なえる仕事の裁量が極めて少ないと云うことになります。派遣に登録をしているとわかりますが、市役所関連の仕事のメールがかなり来ます。税金が少ないわけですから、公務員を雇う余裕がなく、現場は非正規で賄うしかないわけです。そうなると、今回のコロナ禍のような突発的な問題に直面した場合、上手く対応できないわけです。知識や経験が継承されず、いっぱいいっぱいになってしまうからです。


 もっとも、安冨さんは「大きな政府」を唱えるだけではなく、20世紀の歴史全体を俯瞰しているのは興味深いです。その上で、日本人特有の「怨霊」や「仏性」を称揚しているのも興味深いです。また、どのような進路を日本がとるべきかについても政策提言をしています。 

 ただ、全体としてみたとき、まだ「脱出の糸口」のようなものを述べているのみとも云えます。しかし、「こどものための政治」についての片鱗のようなものも記述されており、「おわりに」ではマイケル・ジャクソンのスピーチが引用されており、同書はその後の安冨さんの言論や思想を考える上で、大きな転換となったと云えます。



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吉成学人(よしなりがくじん)
最近、熱いですね。