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M1グランプリに出場して玉砕した

福地

「俺、M1に出たい」

約4ヶ月前、高校の同級生 福地 が、僕に言ってきた。

福地は高校の部活が同じで、よくテニスの練習を一緒にしていた。

元々仲が良かったが、大学生時代は忙しく全く会わなかったが、大学を卒業してから結構な頻度でまた会う様になった。

そんな中で突如言っていた、「俺、M1に出たい」

俺は正直、「あー、またか」と思った。

福地は唐突に「唐揚げ屋になりたい」「シンプルに美女にモテたい」「料理できる様になりたい」などと口にする。

その瞬間に「唐揚げ屋になりたい」と思ったら「唐揚げ屋になりたい」と言う。
〇〇したいっていうけど、福地は具体的にそれらをする訳ではない。

それが俺の知っている福地という人間だ。

しかし今回は妙な違和感があった。

「M1」つまり、漫才の日本一を決めるコンテスト。

漫才は2人じゃないとできない。

まさか!?

「俺、お前とM1出たら面白いと思うんだよなぁ。お前めっちゃ喋るし!」

福地は俺とM1に出ようと言ってきた。

結果として、福地とM1に出る事になった。

ゆうふく

コンビ名は「ゆうふく」

僕はゆうやで、福地の上の2文字をとって名前をつけてもらった。
全然お金ないのに「ゆうふく」て笑。



僕自身、フリースクールを運営したり、TicTokで配信をしたり音楽をしたりするのを見て、「俺も何かしよう」と思ったらしい。

それは嬉しいのだが、「福地がお笑い!?」 と思った。

何故なら、福地がお笑いを見るとか、好きとかいう会話を出会って10年一度も聞いた事がないからだ。


でも、M1に出るという世界線が面白いし、自分も目立ちたがりではあるのでワクワクした。

出場料も安いし、M1に挑戦できるなんて貴重な機会だ。

お互い仕事をしていたりするので、毎週土曜日の夜に2人で「良くね?」と自己満足の塊でネタを考えた。

だが、僕らは所詮はアマチュアである。


制限時間2分に収まらない
オチもない。
動きもない。
ウケようとしすぎている。
周りくどい。

いや、シンプルにつまらない。

芸人さんの凄さを思い知った。

そんな僕らを見てサポートしてくださる大人の方たちにも恵まれて、毎週の回を重ねるごとにネタ作りの日に人が増えていった。

「動きをつけよう」

「別のネタを考えよう」

「言い方をもっと変えよう」

など、細かい修正を繰り返した。

そんな中で僕は、この4ヶ月で福地のある事に気がついた。

福地が本気だという事を。

自分からネタを書いて送ってきては感想をもらってきたり、常にフィードバックを求めたり。

こんなにも熱量がすごい福地は見た事がなかった。

そして、M1に出ると決めてから4ヶ月。
日程が決まった。


当日、僕らは「リモート会議」というネタを提げてM1に臨む事になった。

人前で見せたり、フィードバックをもらったりして、なんとか1本のネタができた。

最初に作った、「アップデート桃太郎」という地獄絵図だったネタに比べたら遥かに良いのは間違いない。

2分にも収まる。
動きもある。
多分、分かりやすい。

行きの車の中でも、「ここはこうしよう」と直前でマイナーチェンジをした。
そのせいで、直前の練習でネタをお互い飛ばしたりもした。
不安しかない。

会場に少し早く着いて、練習をした。

直前のマイナーチェンジを忘れる。
不安しかない。

集合時間になって、会場に入る。

待合室では、テレビで見た事ある壁に向かったりしてネタ合わせをする人たちが沢山いた。

「今から番号呼ぶので並んでください」

僕らの名前が呼ばれた。

M1は会場でのリハーサルなどない。


呼ばれて、並んで、「はいどうも〜!」と出て、そこで初めて今日のお客さんの感じと会場とマイクスタンドの感じが分かる。


ぶっつけ本番とはまさにこの事である。

前の組が終わった。


僕らは前の組がネタをしている間のネタ合わせでも、互いに忘れたりした。


「ではお願いします」

出番がきた。もう、逃げられない。

幕開け

「はい!どうも〜! ゆうやと福地でゆうふくです」
「お願いします。」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ネタの最中の記憶はほぼない。

そんな中でも、来てくれた子どもたちや親御さん、仲間が会場を暖かくしてくれるだけではなく、他のお客さんも笑っているのが聞こえる。

しかし、周りが見えるほどの余裕はない。


だけどネタの中で、福地の顔がしっかりと見える瞬間があった。

僕を突き飛ばすという場面があるのだが、起き上がる瞬間にしっかりと福地の顔が見えた。

少し顔を赤くして、必死さと緊張が合いまった顔をしていた。

何かグッとくるものがあった。

本当にぶっつけ本番。


お互いに全く知らない世界の中で、僕と福地は初めての舞台で漫才をしている。

僕らを全く知らない審査員の前で僕は寝転がり、福地は俺を押し倒している。

出会って10年。


僕は、高校の同級生「福地」とM1グランプリ1回戦に出ている。

〇〇したいっていうけど、福地は具体的にそれらをする訳ではない。
それが俺の知っている福地という人間。

だと思っていた。


福地は俺の目の前で「M1に出たい」という夢を叶えている。

僕は福地の何も分かっていなかった。

「唐揚げ屋になりたい」「シンプルに美女にモテたい」「料理できる様になりたい」

などという事以上に、M1という、とんでもない「やりたい」を叶えているのである。

「もういいよ。どうもありがとうございました。」

お互いノーミスで動きもマイナーチェンジも完璧にできた。

2分のネタは時間に余裕を持ってやった以上に早く感じた。

アマチュアなりの僕たちの精一杯が終わる。

スタンドマイクを後にする途中で、お互いの背中を撫でた。

裏に戻った瞬間に、グータッチをして喜んだ。

「いやぁ!良かったよ!!」

会場を後にして、みんなで、フリースクールに帰ってきて結果発表を見た。

電車の中でも、僕と福地は、「良かったね〜!」と余韻に浸っていた。

結果はインスタライブで発表という事で、小さなスマホの画面を応援してくれた皆んなで囲んで見た。

1回戦通過は正直ハードルが高いので、「ナイスアマチュア賞」が欲しかった。

でも、ナイスアマチュア賞で名前は呼ばれなかった。

次に合格者の発表があった。

前日は90組以上がいる中で、30組が合格をしていたらしい。

会場のウケもまぁまぁ良かった。

俺たちの精一杯ができた。

後悔する事はなかった。

難しい事なんて分かっていたけど、少し期待していた自分がいた。

やっぱり、呼ばれなかった。

分かりきっていたんだけど、呼ばれなかった。
少し期待していた。


僕らは、ただ単に「面白くなかった」のである。

さっきまでのやりきった気持ちは、突如悔しさへと変わった。

試合で負けた、彼女にフラれた、試験に落ちた。

そういう今までに感じてきた悔しさとは全くの別物の悔しさだった。

「なんだこの気持ちはぁ!」

今までになった事のない気持ちになった。

4ヶ月の集大成は、一撃で砕けた。

何が悪かったとも言われない。
ただ、名前が呼ばれないだけ。

そんな姿を子どもたちの前で、舞台に出て、「落ちる」ところまで見てもらったのは良かった。

振り返ると僕は、自分の発信したりする事に躊躇する様になっていた。

フリースクールが始まり、多くの大人の方と関わったりフォロワーが増えたりする中で、M1に出る事も、音楽のライブをする事も、自分のやる事の規模が少しずつ大きくなり、少しずつ知っている人が増える分だけ色々陰で言われたりしないかと思う様になった。

一番「〇〇がしたい」と言えなくなっていたのは福地ではなく僕だったのだ。

〇〇したいっていう事を、発信できなくなっていた。

福地が僕をステージに上げてくれた。

高校に行ったからこそ僕は福地に出会えて、M1に出られた。

なかなか発信に躊躇する様になったから、今のうちに言っておこう。

「俺来年も、福地とM1に出たい」


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