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「とんこつQ&A」を読んで|読書感想文

むらさきのスカートの女の著書、今村夏子さんの4つの短編小説。むらさきのスカートの女を読んだ人なら分かると思うけど、彼女の小説は自分の脳みそにがっつり残る。

感動とか強烈とかそうゆう類のものじゃない。心地よさとか気持ち悪さとかそうゆう感情を引き起こすものでもない。

それは覚えていても得にも損にもならない、記憶と似ている。

例えでいうと、私が小学生だった時、”なかよし”を買いに通った小さい本屋のおじさん。あのおじさんはいつもクタクタの白いエプロンをしてレジの前に立っていた。いつも短い髪を清潔に整えていた。

立ち読みをしている時、レジに立っているおじさんをチラ見すると、ちょっと意地悪な顔をしている。でも本を持ってレジに行くとニコニコ顔に変わる。

いつも本を買うだけで会話はしたことないのに、今も顔は鮮明に覚えている。今村さんの小説は私の記憶に残った本屋のおじさんの顔みたいなものだ。

たった一度読んだだけで鮮明に自分の記憶に残される。本当に不思議な作家さんだ。

タイトル:とんこつQ&A
著者:今村夏子
出版社:講談社

あらすじ


とんこつ屋でない”とんこつ”という名の食堂で働くことになった女性の話。(とんこつ店の名前の由来はあとから判明する)

超コミュ障の女性が主人公。人と話すことができないコミュ障女がなぜか接客のバイトを始めることになる。

客が入店した時、「いらっしゃいませ」さえ言うことができない。そこで彼女はポケットに収まる手作りメモを用意する。

そのノートに『いらっしゃいませ』を書き込んで、お客が来たら、すぐにメモを開いて音読する。

ノートに書いてあれば、声に出せることが分かった彼女は
次々と言葉を書き込んでいく。

『ありがとうございました』
『お待たせでーす』
『空いてる席にどうぞー』
『何にします?』
『ごゆっくり』

メモの量も日に日に多くなっていきポケットがパンパンになっていく…

というお話

感想


お店に電話がかかってきた時、コミ障女が手間取るシーンがある。お店の電話の前には紙が貼ってあり、その通りに読めば大丈夫と店主に言われ、電話をとる。

このコミ障女性の気持ちがすごく理解できた。その昔、私は知り合いに電話をかける前は、まず紙を用意して、自分のセリフをすべて書き出していた。

例えば、こんな感じ。

もしもし
〇〇さんのお宅ですか?
〇ですが〇〇〇さんいますか?

あ、わたしだけど元気?
あのさ、来週の話だけどね、

という感じで昔の私はオリジナル台本がないと電話を人にかけられなかった。

こんなの自分だけだと思ってたけれど、ひと昔まえツイッターで同じような人が少なからず世の中に存在していることも知った。

だからコミ障の今村さんを読んでいて、電話が苦手なわたしと重なっていたんだと思う。

他の短編『嘘の道』『冷たい大根の煮物』も水にといた片栗粉が器の底に沈むように自分の頭の中に残ってしまった。なんてこった!

 最後までお読みいただき
ありがとうございました!


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まる。
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