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「どうしてわたしはあの子じゃないの」を読んで|読書感想文

子供のとき、何度も思ったことがある。

あの子の家は大きなピアノがあるし可愛いし走るのも速いし頭もいい。私の好きな男の子あのこ​と仲がいい。

「どうしてわたしはそうじゃないんだろう」

大人になった今だって、それと似た感情がもやもやした煙みたいに浮いてくることがある。でもそれに気づかないふりをして毎日を生きている。

でも、この小説を読んで「そうか、それでもいいのだ」と思えた。


あらすじ


佐賀県のある小さな村の中学の同級生、天とミナと藤生。

天は村をでて小説家になりたい夢がある。
我が道をゆく女の子。

ミナは東京からきた転校生、
誰にでも優しい女の子。

藤生はイケメンで女子にモテる男の子。

誰かが誰かに恋をしている。でも3人とも本音を語らない。
中学卒業前にミナの提案で20歳になったときに一緒に読み返そうと手紙を書く。
天はミナと藤生へ。ミナは天と藤生へ、3人がそれぞれ書いた。

結局、20歳になっても3人は再会することはなかった。けれどミナの提案で30歳になった3人が16年振りに村で会い、手紙を読む合うことになる。

感想


中学生時代、30歳の時を3人の視点で描かれている。印象的だったのは中学生のときの視点。

好きな人をみつめる時って、こんな気持ちだったな。細かい光の粒がキラキラ舞っているような光景を思い出した。

もうあの頃のあの感情は取り戻せないけど、小説で思い出せた。うん。ありがとう。

天とミナの視点|おんなのこ

女の子同士はどんなに仲がよくても、相手をとても冷静に観察する生き物。だから、天の気持ちもとても理解できた。

天がミナをみつめながら、思ったところ

「うらやましい」という炎が、心の中でいつも燃えている。ミナのことは大好きだ。

やさしくて、人の悪口を言わないミナを嫌う人なんかいない。だから火加減は弱めに設定されている。

でも弱火であろうが、焼かれ続けた心は赤くただ​れ、痛みが伴う。仲が良いともだちにたいしてそんなふうに思うわたしは性格が悪い。

どうしてわたしはあの子じゃないのから引用

仲がよい友達には火加減はとろ火に設定されてるよね。あまり好きじゃない人には強火で設定しちゃう。

女同士あるあるだと思った。とくに若いときはね。

男の子の視点|藤生

イケメンでモテる藤生にだって悩みがある。同級生の女の子から告白されるのも多い。子供のときからいい顔をしてると近所の大人から褒められていた。

でも本人は小さな村の世界のことだから、いつかみんな藤生はたいしたことないって気づく日がくることを恐れながらも待ち望んでいる。

好きな女の子に好かれたくて、一生懸命なのにちっとも言葉が相手に届かない。どうしたらいいのかわからない。

実は藤生もコンプレックスを抱えている。

でも、この感想文でどんな人間でも何かコンプレックスを持っているものだよねで終わらせたくない。

そんなシンプルな小説じゃないから。


もうひとりの登場人物|五十嵐

実はもうひとり、登場人物がいる。
ミナ、天、藤生が中2のとき、東京から自分探しに村に住み着いた五十嵐(26歳)

その五十嵐が藤生と偶然再会する。藤生は30歳、五十嵐は42歳だった。その五十嵐の言葉がささった。

帰りたい。ふと思う瞬間がある
会社にいる時や、自宅にいる時に、なぜか。
他に帰るべき場所があるような気がしてしかたがない。

今いる場所が嫌なわけではないのに、今の自分は幸せだと知っているのに、なぜかその「どこか」に自分のもうひとつの人生が存在するような気がしてならない。

「これでよかった」と「こんなはずでは」という両極端な思いを、いつも左右の手のひらにのせて、天秤にかけている。

どうしてわたしはあの子じゃないのから引用

30歳の天もミナも藤生も、「どこか」を考える。わたしだって「どこか」を考えたりする。

著者 寺地はるなさんの作品はこれが2作目。寺地さんの作品の登場人物は特別なひとがでてこない。だからなのか、登場人物の言葉がすんなり入り込んでくる。

自分をどうにかしようとか、こうしようとか考えなくていい。うん。大丈夫だ。と思える小説でした。


寺地はるなさんの「水を縫う」の読書感想文も書いています。

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まる。
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