真実を追うドキュメンタリーディレクターが真実を隠そうとする矛盾を描いた『由宇子の天秤』
【個人的な評価】
2021年日本公開映画で面白かった順位:119/242
ストーリー:★★★★☆
キャラクター:★★★★☆
映像:★★★☆☆
音楽:★★★☆☆
映画館で観るべき:★★★☆☆
【要素】
ヒューマンドラマ
ドキュメンタリー制作
性犯罪
【元になった出来事や原作・過去作など】
なし
【あらすじ】
3年前に起きた女子高生いじめ自殺事件を追うドキュメンタリーディレクターの由宇子(瀧内公美)は、テレビ局の方針と対立を繰り返しながらも、事件の真相に迫りつつあった。
そんなとき、学習塾を経営する父(光石研)から思いもよらぬ"衝撃の事実"を聞かされる。大切なものを守りたい、しかし、それは同時に自分の「正義」を揺るがすことになる―。
果たして「"正しさ"とは何なのか?」。常に真実を明らかにしたいという信念に突き動かされてきた由宇子は、究極の選択を迫られる…。
ドキュメンタリーディレクターとしての自分と、一人の人間としての自分。
その狭間で激しく揺れ動き、迷い苦しみながらもドキュメンタリーを世に送り出すべく突き進む由宇子。彼女を最後に待ち受けていたものとは―?
【感想】
設定が面白いですね、これ。真実を追い求める立場にある人が、自ら真実を隠そうとするっていう矛盾が。そして、自分の身に不幸が降りかかってきたときに、主人公がどう行動するのかっていうのも見ものです。
<ドキュメンタリー制作者としてプロ意識の高い主人公>
あらすじにもある通り、この映画を観て思うのが、"正しさ"とは何なのかということです。ドキュメンタリーディレクターとして働く由宇子は、当然仕事では真実を追い求める立場にあります。女子高生のいじめ自殺事件は、その背景に亡くなった被害者が学校の教師と関係を持ってしまった事実があるんですが、由宇子は生徒側と教師側、両方からの取材を元に、真実をありのままに伝えようと奔走します。彼女が言った「どちらの味方にもつけないけれど、光を当てることはできる」という、あくまでも中立を守ろうとする姿勢は、ドキュメンタリー制作者としてのプロ意識を感じるところです。
ただ、テレビ局側はより話題性を持たせたいのか、編集の仕方に口を挟むんですが、それは真実を捻じ曲げることになりかねないんですよ。だから常々、由宇子はテレビ局と対立していたんですね。
ここで由宇子のスタンスを強く観客に植え付けることで、後半以降の展開が非常に面白感じになってくるんですよ!
<自らに不幸が降りかかったとき、自分ならどうしますか?>
由宇子は父親からある事実を聞かされることで、自身の「真実の追求」という姿勢に揺らぎが生じます。ネタバレになるので詳細は書けないんですけど、他人のことに関しては、あれだけ真実に対してストイックになれたのに、いざ自分の身に降りかかると、そうも言ってられなくなります。
もし、父親の告げた内容が公になったら、自分も父親も、経営する学習塾も、そこに通う生徒も、由宇子の作る番組も、それに関わったスタッフも、みんなが不幸になってしまいます。真実を公表することによって失うものがあまりにも大きすぎたんですよ。
ここはものすごく人間臭いところですよねー。他人に対しては、どれだけ偉そうなこと、調子のいいことを言えても、いざ自分が同じ立場になると、途端に静かになってしまう人はけっこういますよね。あなたはどうですか?他人の人生を生きるのは自分ではないので、それっぽいことや正論を振りかざせるとは思うんですけど、いざ自分の身になったとき、同じことができますかね。。。僕は、、、難しいかもしれません。。。もちろん、別に悪いことではないと思います。人間誰しも自分が一番かわいいので。正しさとは何なのか。何をもって正しいとするのか。そんなことを嫌でも考えさせられる映画ですね、これは。
その流れの中で、本作では"4つの衝撃"が待ち受けています。いや、数は人によって違うかもしれませんが(笑)暗く重く静かに進んで行く中で、次々と発覚する事実から受ける衝撃は、この映画の見どころですね。
<その他>
この映画はストーリーやキャラクターはもちろんいいんですけど、それもキャストの演技の素晴らしさがあってこそです!特に、主人公を演じた瀧内公美さん、その父親役を演じた光石研さんは、いろんなドラマや映画で拝見していますけど、コメディな役もシリアスな役も幅広く演じられるので、個人的に好きな役者さん方です。彼女らの演技だけでも一見の価値ありですよ!
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